伝説の伝説らぁめん(もはや普通)

「はいよ、人魚モリラーメンいっちょ!」

ぱきん。わりばしを割って、しかしまずはレンゲでスープから堪能した。人魚出汁がよく効いていて磯の味、どこか鯛を思わせるタンパクな口当たりが口内にひろがる。良質な脂が黄金色のスープに浮かんでいた。

次は、レンゲのうえでスープとちぢみ麺を絡めていただく。ハルカは喉を鳴らしてこれを心ゆくまで味わった。塩と人魚の塩梅が絶妙で塩辛い魚肉をうまいことラーメンに落とし込んでいる。雑食性の人魚はちょっと肉にくさみがあって調理が面倒とされるが、くさみ抜きはもちろん蛋白質な特性を活かしてシンプルな塩漬けのそぼろ肉にしてあるから、ちぢれ麺とよく絡んで、一口だけなのに実に人魚らしい味がした。

(さすが、築地直送の人魚だわね)

満足して頬を赤らめて、口元をフーフーさせながら本格的にラーメンの麺をすすった。人魚のそぼろ肉とチャーシューが別々にあって豪華な贅沢メニューだ。これで寿命が伸びてデトックス効果もあるもんだから、人魚食いはやめられない。

深海に生息する人魚が発見されてから、今やどこに行っても人魚の肉は食べられる。日本のあらたな伝統食といってもいいぐらいだ。

はふ、はふはふ。ラーメンが熱々のうちに麺とスープを楽しむ。寿命も伸びるし。食べづらい人魚はやっぱ外食で摂取するに限る!

これで3年は寿命が延びたかなぁ、なんて健康効果を期待して、スープまで飲みきった。本当は塩分が気になるから、完食はしないようにしているけど、これは人魚ラーメンだ。人魚なら骨の髄まで食わなくちゃ。

「おじさん、ごちそうさまァー。お金ここに置いてッていい?」

「おうよ! いつもあんがとなハルカちゃん。50年も常連たぁオレもうれしいよ」

「またまたぁ。ウチの母さんが贔屓してたお店だもん。店長も、まだまだ100年は余裕で営業してくださいよー。私もうここの人魚じゃないとニンギョ食べたッて気がしなくって!」

「おう、任せろい。また食いにきなよー」

「はぁーい」

ラーメン台に千円をおいて、店をでた。オヤジさんは50歳ほどの外見年齢から変わらず、ハルカは16歳から外見が変わっていないが、これでも中身はもう50歳を超える。

ニンギョ食文化はすべての日常を変えた。日本海で捕れるニンギョは世界を変革した。ハルカは、けれどそんな当たり前の変化に感動するわけもなく(今更の話だから)ラーメンうまかったぁー、と満足してオフィス街に足を向ける。午後3時から、午後5時までの業務がまだ残っている。ニンギョ食いがはじまってから、人間がばかみたいに長生きしだしてから、働き方改革も随分と変わったものだ。

明日もラーメンにしよっかな。ハルカは、能天気に『今』を満喫して、働くうえでのイチバンの楽しみである昼食のこと、明日の昼食を考えながら、横断歩道橋を渡った。

この橋ももう何千回渡ったことか。

まぁ、人魚ももう何千回食べているんだか。あんまり食べすぎると、地球の寿命がキて地球が滅んだあとも生き残ってしまうと、最近トレンドのウワサがあるから、ホドホドにしなきゃねぇ、とも思う。街並みは様変わりしているらしいが、青空は大昔から変わらず、きれいな青を今日もひけらかしていた。


END.

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