生きたぶんのツケ払い

尻に火がつくとはよくいったもの、なるほど、後々になってツケがまわるとは、まさにこのこと。

人魚をぶち殺して肉を食えたとき、もう人生は終われたと確信できた。私は人間以上の存在になったのだから、人間のルールなど関係ないし、誰をも踏みにじってもかまわぬ、そうした無敵の妖怪になれた。そう信じた。

けれど。

私は、やはり人間だった。
人間の心があった。

人間だったから、人間臭さを捨てきれず、誰かを助けたり殺したり罰を与えたり裁いたり罪を償わせたり、ずいぶんと手を加えてしまった。あくまで、化け物として手を伸ばしたつもりであったが、まちがいなくその心は人間だからであった。

であるから。
今、私は、ツケを払っているのだ。

人魚の肉を食ったツケ。永く、とても永く、生きたツケ。化け物になった気分で好き勝手な自己満足を繰り返してきたぶんのツケ。

人間は、絶滅してしまった。
色々な変動があり、戦争があり、結局、人間の最後の一人は、餓死か凍死か判別つかぬさまで死んでいった。

私はそれを見ることしかできなかった。
人間の食べられるものなど、もはや地球にはなかったから。どうしようもなかった。

それから、永いときがまた過ぎて、ちがう種が地上の覇権をとった。今はそいつらの星である。ここにきて、私が、気がつかされた。

今の私こそが化け物である。
妖怪である。

今、地上にいるすべての生き物たち、どれともちがう、異物である。私はほんとうに本物の妖怪になったのだ。

そして、ツケ払いで生きてきたことを知った。

今、私は、孤独な化け物、全く異なる異物としてこの世に生き続けている。よるべのない寂しさ、カタチすらも知らないモノたちであふれた、かつての私の住処。

こうまで生き残って、何が、楽しいのか。

妖怪たちの私を見る目が変わった。
ようやく仲間と認められたようだった。

私は、彼らが、ツケ払いの渦中にあると今ならばわかる。
彼らもかつてはナニカの種であってそこから抜けて、そして、ツケで生きていると知った、私のような生き物だったのだ。

私たちは、妖怪だった。
今、生きているモノたちには、決して理解ができない、理を抱える、彼らならざる異物、永遠にツケを払ってこの場にいるだけの、招かれざる客であった。

ツケの支払いが終わる目処は、無い。

永遠に。


END.

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