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日々記:今日の親切

こんばんは。
今日は偶然「良い行い」をするチャンスに巡りあったので、1日の終わりに書き残して置こうと思います。


◇◇◇


いつものように夫と2人で散歩をしていた。買い物がてらではあったが、今日も暑くて、実はもう疲れてクタクタになってた時のことだった。

ふと見ると、通りの向こう側にある自動販売機のところに、腰の曲がったおじいさんがいた。
本当はおじいさんが「立っていた﹅﹅﹅﹅﹅」と書きたいところだが、おじいさんの腰は90度、いや100度以上も曲がってしまっていて、まるで落とし物でも拾おうとしているかのような格好なのだ。立っていたとは言い難い。
しかも、おじいさんは両手に缶コーヒーをひとつずつ持っていて、曲がった腰のままで躍りを踊るように揺れていた。

よく見ると、自動販売機の周辺には、缶コーヒーがいくつも(多分10缶くらい)地べたに並べて置かれていた。
(いったい、何をやってるんだろう?)
おじいさんから数歩はなれた所には、買い物用のキャリーカートがポツンと立っている。間違いなく、おじいさんの持ち物だろう。

「何かあったのかな?」
わたし達は素通りするのもためらわれて、思わず立ち止まった。
道の向こう側なのでいまひとつハッキリわからないが、おじいさんはもしかしたら何か困っているのではないだろうか?

道路を横断しながら、おじいさんに声を掛けた。
「何かお手伝いしましょうか?」
見ればわかる通り、おじいさんはたくさんの数の缶コーヒーを買っているところで、それを全部キャリーカートに入れ、引いて帰ろうとしているようだった。
けれども腰がひどく曲がってしまっているせいか、立ってる(屈んでる?)だけでもバランスを崩してしまう程にグラグラしておられる。それが遠くからは踊っているように見えたのだ。(本当に、何かの踊りかと思ったもの!)
両手に缶コーヒーを持っているので、つかまる事も出来ないのが問題のようだ。

「ねえねえ、おじさん、これを全部カートに入れればいいのね?」
おじいさんの両手から缶コーヒーを受け取って、カートの中に移した。
見ると、そこには既に缶コーヒーが7本も入っていた。その他に地べたに並べてあった缶コーヒーを夫が拾い集めて、それもカートに格納。
「おじさん、沢山、買ったんだねえ!(笑)」
自販機でまとめ買いとは、ちょっと珍しいが、きっと離れたお店までは歩ききれないのだろう。お気の毒に思った。

「集会所でな、よりあい(=会合)をやってんだ。お茶でも飲もうって、買いに来たんだよ」

やだーー。こんな身体の不自由なおじいさんに、暑い中をパシリさせるなんて、なんてひどいよりあいだろう。
「そうだったの、みんなのお茶を買い出しに来てたんだ。」
夫の顔をみると、もう…だった。
「おじさん、飲み物は全部買えたの?」
するとおじいさんは、コーラを買いたいのだと言う。
コーラは自動販売機のいちばん高い位置にボタンがついていて、腰が曲がったおじいさんには到底届かない。
こんな時こそわたし達の出番だ!
「何本買えばいいんですか?」
「1本。オレが飲みたいんだ。」
おじいさんはポケットをごそごそやっている。そんな時も腰は100度以上曲がっていて、辛いらしくてキャリーカートにつかまって、やっとの様子だ。
「おじさん、コーラはオレがおごるよ、財布はいいから!」
夫が自分の小銭入れを出して自販機にお金を入れ始めた。

「ちょっと待って! 自治会のお金を預かって来てると思うから、あなたがおごってあけなくても、いいんじゃないの?」
ケチったつもりではない。わたしは筋を通したかっただけた。こんな苦労をさせておいて、自治会にはおじいさんの分をちゃんと払ってほしい。
しかし、ポケットをごそごそやってたおじいさんは、預かって来たお金がもうカラッポになっていたらしく「あれ、もうねえのか?」と呟いて残念そうにアハハと笑った。

夫はかまわず小銭を自販機に入れてコーラのボタンを押した。
「おじさん、これ飲んで」
すかさず、キャリーカートの蓋を開けて中に入れさせてもらった。
おじいさんは笑顔で受け取ってくれた。

「ずいぶん暑いけど、集会所はどこにあるの? 遠くじゃないの?」
すぐそこだから大丈夫だと答えておられた。
それにしても、おじいさんが気の毒だった。
「買い出しなんか、もっと若い人がやればいいのにねぇ!」
するとおじいさんは嬉しそうに答えてくれたのだ。

「これはよお、オレの差し入れなんだ! 若いモンがよくやってくれるからよお、コーヒーでも飲ましてやろうと思ってよ!」

「ええっ! おじさんの自腹だったの?!」



うわぁ、このおじいさんにゃ負けたわ。
なんて親切な人!

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