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アート⊿ライフ027 : 小説『眼鏡』

中学一年生の息子の、自作ショートショート3部作、その2。

『眼鏡』

「やった!遂に完成したぞ!」
 ここは地下二階の薄暗い部屋。一人で部屋に閉じこもっていたエフ氏は、完成した喜びと、復讐する企みとの、不気味な笑みをうかべていた。復讐というのは社長のこと。エフ氏は社長を恨んでいた。いや、恨んでいる。話せば長くなるが─
 十年前のことだ。医師試験に落ちた俺は、仕方がなく中小企業の会社に務めることにした。しかし、運の悪いことに、そこはブラック企業だった。毎日残業続きで、給料も安い。
 そんなある日、お金を使い果たしてしまった俺は、金の欲しさあまりに、空き巣をはたらいてしまった。しかも、その現場を社長に見られていたというのだ。なんとかクビは免れたが、それから俺は、やつに脅しを受けるようになってしまった、というわけだ。
 その時から、エフ氏は社長への復讐を考えていた。その願いが、今、やっと叶いそうなのだ。
「見てろよ…、あの社長め…。脅しに脱税。今までの罪を思い知るがいい…。」
 エフ氏が手に持っているのは、眼鏡。もちろん、ただの眼鏡ではない。罪を犯した事のある人を見るだけで、一度だけ、特殊な電磁波が発生し、一瞬にしてその人を消し去ってしまうという恐ろしい代物だ。これで社長を見て、復讐をしようというわけ。社長が脱税をしているという情報は入って来ていたのだ。失敗するはずがない。
 ところが、実行当日、最悪の事態が起きてしまった。その眼鏡をかけ、社長室に通じるエレベーターに乗り込んだエフ氏は、中にあった鏡を見てしまった。その途端、エフ氏は一瞬にして消え去ってしまったのだ。
 ゆっくりとドアが閉まったエレベーターの中には、「任務完了」と言わんばかりに堂々としている、その眼鏡が取り残されているだけだった。

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