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三千世界への旅 魔術/創造/変革65 中国の政治的理性と非理性


中国政治のメカニズム


中国はもはや世界第二の経済大国になったんだから、強権的な独裁国家である必然性はないと考える人たちもいるでしょうが、人口がアメリカの4倍、日本の10倍くらいあるわけですから、人口1人あたりの経済生産は決して大きくないし、全体が豊かになったわけでもありません。

豊かになったのは、国の自由化政策に乗って大胆にビジネスを始めた人たちと、行政的な利権を生かして至福を肥やした政治家・官僚です。

そこで行われた不正を取り締まるために汚職政治家・官僚の摘発・追放が行われ、拡大した経済格差を埋めるために、爆発的に成長するIT産業や不動産業の締め付けが行われるようになったのですが、それを断行するために、共産党や国家の権力強化が進みました。

普通は社会が豊かになった分だけ、民主化や自由化も進むと考えがちですが、自由化による格差拡大や不正がものすごい勢いで進んだ分、軌道修正する力も強力でなければならず、党や国の権力が強化されたわけです。


中国の中央集権の歴史


元々、中国には古代から中央集権的な支配構造が構築され、長い歴史の中で様々な政権交代を経ながらも、強力な国家・官僚機構は維持されてきました。

モンゴル人の元や、満州人の清のように、外国の勢力に支配された時代でも、官僚組織は広大な領土を統治するシステムとして生き続けました。

20世紀に社会主義革命が起きましたが、強力な帝政国家の歴史があるロシアで官僚機構の上にスターリンのようなカリスマ的独裁者をいただく共産党の独裁体制が生まれたのと同様、中国も強力な国家・官僚機構の上に、毛沢東を崇拝する共産党の独裁体制が生まれました。

欧米先進国の資本主義を信奉する人たちは、それを社会主義・共産主義という危険な思想から生まれた体制だと考える傾向がありますが、実際のところは中国もソ連も、長い伝統による中央集権的な体制が社会主義的な衣装をまとった国家です。


ロシアの強権主義


ソ連は崩壊しましたが、自由主義・民主主義・資本主義陣営に入ったロシアが、プーチンのような独裁者が現れるまで、破滅的な経済崩壊を経験したのを見ても、欧米先進国が唯一絶対的に正しいと主張するシステムが、先進地域以外の国でいかに機能しにくいかがわかります。

そしてプーチンが強権を振るって経済的混乱を収集し、古い帝国主義を復活させて、旧ソ連領の周辺国を侵略しながら多くの保守的国民層の支持を集めたのを見ると、古い全体主義的な伝統というのがいかに根強く、その国に必要とされるかというのがわかります。

その伝統的な全体主義は、ソビエト共産党による社会主義国家というモードで運営されても、プーチンの帝国主義的独裁国家というモードで運営されても、基本的には変わりません。


中国の理性と非理性


中国でも民主化を求める人たちはいますし、共産党の独裁と国家の強権的な運営に不満を抱いている人も少なくありませんが、その一方で、欧米流の民主主義や自由主義を中国に導入するのは無理だという認識も広く存在します。

日本の10倍の人口と何十倍の国土を統治する仕組みとして、議会制民主主義は必ずしも最適ではないということを、多くの人が理解していると言ってもいいかもしれません。

日本のメディアの取材に対して「中国はアメリカとは違うんだ」とか、「アメリカみたいにいちいち選挙をやったら、いろんな対立が起きて国が大混乱するだけだ」といった意見を言う人たちがいます。

日本や欧米の人たちから見ると、そういう中国人は逮捕されるのを恐れて自分の意見を言っていないんじゃないかとか、自由や民主主義の良さを経験してないからわかっていないんだとか思うかもしれません。

そういう人たちもいるかもしれませんが、同時にそうした全体主義的な統治システムにそれなりのメリットがあることを認めている人たちがいることも事実です。


インド式統治と中国式統治


インドはイギリスから独立した後、議会民主制を導入しましたが、自由であることによって、古代・中世からの宗教の影響力や、身分制度、経済や教育の格差が根強く残り、政治的な混乱が続き、近代化が遅れました。

一部に欧米流の知性や技術を身につけて活躍する人たちがいる一方で、多くの人たちが古代・中世から続く宗教と慣習の中で暮らしています。

イギリスの植民地だったことから、英語で話し、読み書きできる人が多く、古代から数学が発達したことから、IT分野に優れた人材が豊富な一方で、先進国が19世紀から20世紀前半にかけて実現した製造業の発展やインフラ整備は遅れています。

古い慣習や理不尽な利権が根強く残っているため、先進国の企業が投資やビジネスを展開しようとしても、なかなかうまくいかないのも、近代化の妨げになってきました。

それに対して中国は1980年代に鄧小平が改革開放へ舵を切った後、共産党の独裁体制を生かして一気に経済解放を進め、20年ほどで驚異的な経済成長を実現しました。その政治手法は強権的ですが、それによって不満や混乱を抑え込み、民主国家ではできないことをすばやく成し遂げることができたわけです。

全体主義的な統制は、欧米先進国から見ると邪悪かもしれませんが、そこには中国なりの考え方や仕組みがあり、それを活用する理性があります。科学技術は今のところ欧米先進国からの輸入品ですが、それでも物事に対する科学的な認識や、科学的・合理的な手順も存在します。

中国共産党や習近平主席の思想・行動は絶対的に正しく、それを批判することは許さないといった考え方は非理性的で不合理ですが、そうした独善性は、すでに見たように、多かれ少なかれ科学的・理性的・合理的な考え方や仕組みを絶対的に正しいとする欧米先進国の姿勢にもあります。

だからといって別に中国の方が正しいわけではありませんが、欧米先進国にも中国にも、それぞれの理性と非理性があるということは言えると思います。


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