ショートショート「タイムマシン」
ある日、白髪の紳士が、こんな話を教えてくれた。
「20XX年。今からちょうどXX年後に、タイムマシンが発明される。
ただ、2020年の人々が想像しているものとは、かなり違う。
時間を行ったり来たりするなんて、そんなに簡単な話ではなかったんだ。
まずこのマシン、過去には行けるが、未来には行けない。こりゃ単に、まだその技術がないから。
しかも行き先は、選べない。
行き先は、そう、オギャアと生まれるその瞬間、そこしかないんだ。
もう一つ。映画なんかでありがちなのは、過去に行っても、記憶や姿カタチが今のままという、あれ。
違うのさ。
実際は、仮に時間を50年遡れば、自分自身も50年若返る。その50年間の記憶もなくなる。そして過去の自分と完全に入れ替わって、新しい人生を歩むことになる。
だから、当たり馬券を覚えておいて大儲け、なんてことは不可能なんだよ。
それじゃあ過去に戻る意味、ないじゃないかって?
いや、意味は十分にある。
なぜなら、タイムマシンに乗って過去に戻れば、必ず、より幸せな人生が送れるってことが、科学的に証明されたんだからね。
幸せの増加度合いとか、何がどう良くなるのかは個人差があるし、事前にはわからんのだが。
想像するに、前世で経験したリスクを潜在的に避けるとか、頑張りどころがなんとなくピンと来るとか、そういうことかもしれん。
とにかく、マシンに乗る目的はただ一つ、より幸せな人生を生きるってことなんだ。
ところで、タイムマシンの利用率を想像できるかい?
実は、100%なんだよ。
どういう意味、ってそりゃ、例外なく全員が乗るのさ。もちろん自分の意思でね。「我が人生に悔いなし!」なんて言ってる人も乗るんだよ。
つまり、君も私も、タイムマシンに乗ったってことさ。
より幸せな人生を求めてね。それで、今を生きてる。
つまり、君も私も、いや、世の中に生きる人は全員、
一つ前の人生と比べて、
、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
より幸せな人生を生きている
ってことなのさ。」
ちょっと訳がわからない話だし、本当だとしても、これを聞けば(俺の人生、全然良くないぞ!)と腹を立てる人さえいるかもしれない。
だけど、前世(というのかどうかわからないが)の記憶なんて無いんだし、僕は「僕の人生、前世よりよっぽど幸せなんだ」って思うことにした。
したらすごく、気分が良くなった。
でも一つだけ、気になったことを聞いてみた。なんて聞いたかはご想像にお任せするけど。
答えはこうだった。
「それ気になるよね。それはね、やっぱり、乗るんだよ。全員ね。100%さ。人間というのは、そういう生きものなのさ。」
へー、と思ったが、いや待てよ、となると…
(完)
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