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パパイヤとピタンガ

 春に、農業技術センターみたいなところでトロピカルな植物の寄植え体験イベントに参加したとき、苗をどれでも四つ、好きに選んでいいと言われて、子供らが選んだのはパパイヤとピタンガであった。二つがわりと背が高いタイプのものだったから、私はなにか羊歯類とアンスリウムを選んで寄植えにして持って帰った。

 二度目の梅雨ごろまで元気だったかれらだが、パパイヤの葉がチリチリになり、はらはらと落ち始めた。最初は冷房の風が当たりすぎているのかと思ったが、調べてみるとパパイヤは成長が著しいので、すぐに根詰まりを起こすということだった。10℃を下回る環境では枯れるので外で地植えするわけにもいかない。葉姿も観賞用としての魅力は少ない、なんてことが書いてある。ピタンガの方はもっとひどくて、温暖化によって栽培北限が上がっているが、丈夫すぎるので九州などでは増えすぎて生態系を壊しかねない勢いなのだとか。
 私は植物が好きだが、鉢植えは好きではない。たいていの植物は鉢に収まらない。盆栽なんてものは憐れすぎて見ていられない。といって、株が大きくなるに従って順々に鉢を大きくしていくのもきりがなくて途方にくれてしまう。不憫の方がまさるからやっぱり植え替えるけれど。一回り大きな鉢は買ったが、どうせ植え替えても室内の鉢植えではパパイヤの実は成らないのに、と渋い顔になる。パパイヤの実を食べたいのではなく、植物としての本懐を遂げさせてあげられないのに、と思う。
 鉢をどうこうするのは、ペットのためだからと言って去勢しているみたいな気持ちになるのだ。動物を飼うのに、無責任に子供を作らせるべきではないという考え方自体は知っている。しかし、動物の去勢は人間の都合にすぎないと思ってしまう(同様に、最近犬に外で小便をさせないようにするしつけも私はどうかと思う。散歩のときだけしか用を足せないようにするのは虐待だという理屈は分からないでもないけれど、限られた日時場所でしかセックスしてはいけませんと人間が言われたら……いや、やめておこう)。生物の本能を奪っておいて、のびのびと育てよ、ただしこちらが管理できる範囲内で、とパパイヤに言っている。
 農業技術センターの人は専門家だろうから、ピタンガが席巻していることを知らないはずがないと思うが、ことをさほど問題視していないのか、素人が鉢植えで育ててもどうせ枯らすと思っているのか。先生と呼ばれていたあの職員は、有象無象の市民にお嫁だかお婿だかに出したピタンガへ どんな味の愛を持っていたんだろうか。私とパパイヤとピタンガの、おそらく期間限定の生活はもう少しだけ続く。アンスリウムは一昨日訪れたホテルのロビーでも生かされていたから、私のつたない手でもたくましく生き残るだろうと思う。

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