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人生はエッセイ、コンクリ、と言う勿れ

 noteでエッセイを書く意味について、私は創作からの逃げだと思っていたけれど、そうではなくて、人生とは散文だから、小説も散文的に伏線のようなものを、あるいは平野啓一郎の「分人」を文章中に沢山散らばして、最後の方にそれを統合させたいのかなと思った。これまでそういうのが言語化できていなかったし、私は白黒でがちがちに書きたい感じだったから、それを外したかったみたい。


 私は主人公の漠然とした実存についての不安を書きたかったのだけれど、そのように書いたら、文章そのものは評価するけど、主人公の動機に共感できないというようなことを言われた。たとえば人が仕事に就くのは、多くは経済的理由なのだから、それ抜きにぼんやり転職させると、共感を生みにくいと。でも私は人生とは脈絡のないエッセイだと思うので、そのように書いて、時々要素が絡みながら最後になんとなく収斂していく(そこは流石に創作なので)という風にしたい。でも、そこまでは間に合わなかったので、取り敢えずアドバイスを全部盛り込んで因果関係を明らかにしたら、なんか褒められた。褒められたけど、あんまり納得できない。分かりやすい因果関係を作ったけど、私としては、この主人公にそんな動機を想定してないのだから。これはエンタメ小説的解決ではないのか。人は、浅い理屈のあるものに納得したいらしい。パッと見て分かるものを見て、分かるって言いたいらしい。世の中、簡単に分かりたい、簡単に分かる人だけなのかもしれない。私はそこから逃げたい。作品も、自分自身も。


 私は、自分がどういう仕事をしてきたとか、高校や大学がどことかいう話を幼稚園で知り合った人たちに殆どしないのだけれど、あるママ友と、まだ知り合ったばかりの頃に「紅茶さんはインテリだもんね」と言われてびっくりしたことがある。その人とは、最近たまにお茶やランチをするようになった。

 言い回しがどこか回りくどいのだろうか。無駄に難しめな言葉を使いがちなのだろうか。それともなんか偉そうなのかな。自分が発しているオーラを、自分は観測できない。そういうのを隠しているつもりなのに、出ているんだろうなあ。それを必要以上に怖がってはいないはずなんだけれど、自分の内面のすかしっ屁みたいなもの、スパッと断ち切れないかなあ。でも無味無臭な人は却って気味が悪くて近づきがたいかなあ。「ぬいぐるみとはなす人はやさしい」で、目立つ外見にしたら自分の他の要素は目立たなくなるんじゃないか、と主人公が言っていたので、それいいなと思ったけど、金髪でインナーカラー紫にして、でかいサングラスに蛍光色のスポーツウェアとか着たら、「見た目も変で、言動も変」という正真正銘の変人になるだけじゃないのか。


 変人といえば、「ミステリと言う勿れ」の整(ととのう)くんは、突然面倒くさいことを語りだす、ウザい変人という評価を作中でされている。しかし、本人はそれにほんのり落ち込みつつ、変なところを直そうともしていないし、恋人も友達もいなくても(一応)平気で暮らしている。
 作品は、彼の「細かいところが気になっちゃう」面倒なところがないと成立しない。彼のウザいところは魅力で、それがあの漫画を大ヒットさせているのだと思う。
 私は「ミステリと言う勿れ」を、爪の垢を煎じて飲みたいレベルのコミュ強の人に借りたのだけれど、私みたいなのが整くんのことを受け入れるのはまあ分かるけど、彼女があのウザい整くんを受け入れるってことは、それなりにウザい私もワンチャンあるんじゃない? などということを思った。
 それに彼、そこまで変じゃなくない……? 整くんが「ウザい」とされているのは、作品にギャグ的要素を添えたいがためかな、とも思う。彼のことを変だと思わない私が変なのかな。確かに、彼みたいになんにでもすぐひっかかって長口上をぶつ人が、近くに居たら結構ウザいかもしれない。


 「ミステリと言う勿れ」で、人をセメントに喩えるフレーズが頻繁に出てくる。子供の、まだ固まり切らないセメントのうちに、痕をつけてしまわれると、その形で固まってしまう。だから、変なものを押し付けないようにしないと、というのがその趣旨だ。

 だけど、私はこうも思う。たとえ足跡が付いたコンクリでも、雨の日はそこに水たまりを作りながらも、駐車場なり、玄関ポーチなりとして役立つことができる。しっかり固まった状態で、ハンマーを打ち落とされることの方が、多分もっと問題だ。子供には可塑性があるから慎重に扱わなければならないのは当然のことだが、大人が壊れたらきっともっと脆くて、不可逆だ。

 ヒカルパイセンが言っていた。「自分がケガをして治りが悪い時、『もーなんですぐ治らないのよ、治らない私はダメだ』なんて思わないじゃん? ああ、治りが悪いんだなって思って、早く治るためのケアをするじゃん? 心の問題も同じだと思うんだよね」

 きっとセメントが固まりきらないうちに何かを押し付けられた、整くんの今後の動向が気になる。

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