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ちいさな鬼が眠る丘

  ゆり根が好きだ。おせちには、スタンダードな甘煮ではなく、鰹だしに薄い醤油味をつけてさっと煮たものを用意する。私が好きでよく買って作るものだから、子供も好きになった。正月用のゆり根は少し高いのだけれど、ふた玉は買わないとすぐ平らげられてしまう。

 ゆり根というからには、百合の根っこなのだろう。植えたら育つのだろうか。球根を植える植物の植えどきは秋と相場が決まっている。調べてみると、この時期からでも最初水栽培をし、厳寒の時期は暖かい場所に置いてやれば芽が出るらしい。園芸店では二月ごろ、もう芽が出たものをポットで売り出すこともあるようだが、思い立ったが吉日。

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 これを、こうしてドーン。ゆり根として食べるのには少し遅いので、しろい芽が二つすでに生えてしまっている。根がしっかり出てきたら、土に植える予定。

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 ゆり根の生産はほとんどが北海道。ということはこの百合、暑さに弱いのではないか? 調べてみると食用にしているのはコオニユリといって、北日本から九州まで幅広く分布するものの、尾瀬など冷涼な地の方が向く百合のようだ。夏暑くなる地域では鉢植えにし、気温に応じて場所を移動してあげた方が良いらしい。テッポウユリを買って地植えする代替策だったので、ややあてが外れたのだけれど、うまく咲くといいなあ。

 ゆり根を育てているということは、ゆり根の畑があるということだ。夏のゆり根畑は百合のお花畑になるのだろう。手垢のついた表現だけれど、なだらかな北の大地を、黄色やオレンジの百合が一面に染めているのを想像する。きっと圧巻だろう。葉の栄養を球根に送って育てねばならないから、エネルギーを沢山消費する花は早々にカットされてしまうのかもしれないけれど。

 見渡す限り背の高い百合が咲く丘には、桜の木の下に死体が眠っているのと同じような、何か秘密の物語が立ち上がってきそうである。品種名に鬼とついているのも、どこかなまめかしいような、危険な印象を添える。ゆり根は出荷されるまでに、六年の月日が必要だそうだ。

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