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サメ肌の私の胸に朝顔

 まだ次女が赤ちゃんだったころ、「びじゅチューン!」に私と長女がはまっていた。今も当時の録画が数本テレビに残っていて、まあまあ喜んで観ていたので、少し前にびじゅチューン!展に連れて行ったら子供二人ともハマった。YouTubeを巧みに操って毎日びじゅチューン!の歌を歌い、今や二人は私よりもたくさんの歌を知っている。
 ちなみに、びじゅチューン!などの固有名詞に含まれる「!」も、直後にひとマスあけた方がいいんだろうか。

 彼女らが好きなものの一つが「お局のモナ・リザさん」なのだが

 「ほほえみばーっとめはしゃーくー」と子供達が歌うので、「目はシャープなんじゃないの」と何度か質してみたら、「ちがうもん、サメの絵が出るもん」と言うので、確認すると本当にサメだった。この歌の歌詞にはスフマートという本当にある技法も出てくるから、モナ・リザの目がサメに似ているという定評があるのかと思ったが、はっきりしなかった。

 IKEAのサメのぬいぐるみを買ったのは、去年の秋から冬の間だった。あの頃は娘がふたりとも幼稚園に行っていたので、延長保育を申し込むとかなり長い間IKEAでゆっくりすることができた。今だって、小学校にはトワイライトスクールという制度があり、幼稚園以上に長時間預けることができるし、ほぼ無料だ。一人IKEAは書き物をするのにもってこいなのに、足が遠のいている理由は、ただお迎えが二か所になったこと、片方が車でのお迎え不可だということだけだ。それでも二か所回ることはできなくないのに、億劫だというだけで、できることができなくなる。

 その当時、ブローハイ(サメのぬいぐるみ)はあちこちで在庫切れを起こしていた。私がゲットできたのは運が良かったからで、もう一匹欲しくて買いに行ったのになかった時もあった。しかし、今日子供らを連れてIKEAに行ったら、ぬいぐるみ売り場はブローハイだらけだった。



 私たち親子の後ろを歩いていた女子大生風の二人が、「このサメ、世界中でバズってるらしいよ」と言っていた。

 流行るじゃなくてバズるなんだ、と思った。バズるは、ネット上で流行るということで、実売に結びつくのはまたちょっと違うんじゃないか、そこを全部バズるでひっくるめるな(ここまで0.05秒)と考えて、なんでも可愛いって言うもんじゃないというおじいちゃんみたいになっているなと思う。でもひっくるめるなよと、私の中のガリレオ・ガリレイがわめく。友人同士の他愛ない話にめくじら立てるのも了見が狭いのは分かっているけど。

 行かれたことのある方はご存じだろうが、IKEAのぬいぐるみコーナーはメガ盛り刺身丼といった風情だ。ぬいぐるみたちはみんなくったりと柔らかいので、余計そう見える。
 もし私が一人IKEAの常連じゃなくて、山盛りのブローハイを今日初めて見たんだとしたら、果たして嬉々として二匹も買っただろうか。確かにこのぬいぐるみはサメなのに可愛い。フォルム的にもサイズ的にも抱き枕にぴったりで、実用性(?)もありそう。だけど邪魔だよなあと思うだろう。なにより、流行りの尻馬に乗りたくないからと買わなさそうだ。

 私は自分がブローハイを買ったのが、品薄になるさらに前、新発売された時期だったら良かったな。どうせならインディーズの頃から愛していたかった。

 今日はよく分からない日中のバラエティ番組で紹介されていた、ラップ代わりになるシリコン蓋と、バッグ収納、ママ友に教えてもらったIKEA限定レゴを買った。バズるサメに煮え切らない気持ちを抱いたくせに、柄じゃないミーハー消費をしようという今日のテーマを完遂した私がよく分からない。


 小学校の夏休み明けは九月一日なのだけれど、終業式の日の連絡帳には「9がつ1にち ひきわたしくんれん」「11じおむかえ」「あさがおをもってきてもらう」とあった。

 引き渡し訓練とは、学校や園に子供がいるときに何らかの災害が起こったと想定して、親が迎えに行く訓練のことだ。私の子供の頃はこんな訓練なかった気がする。まあそれはいいのだけれど、訓練とはいえ、災害を想定しているものなのに、その日に親は「あさがおをもっていく」のである。

 地震が起きたり台風で今にも浸水しそうだったりする小学校に、まさかあさがおは持って行かないだろう。一方、昨今は共働きの親も増えているし、共働きじゃなくても何回も学校に行きたくない。妊娠中や下の子が小さいなど、来るのが難しい人だっている。
 部分を捉えればきわめて合理的なスケジュールなのに、訓練としては全然合理的じゃなくて、ものすごくシュールで笑ってしまう。災害で大混乱の小学校に、乱れ咲くあさがお。そこにはきっとサメも泳いでいる。



 ちなみに、私が今イチオシなのはこれです。


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