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【読書感想文】金野正之『野村克也は東北で幸せだったのか』(徳間書店)

ノムさん没後3年

はやいものですね。今日2023年2/11は、楽天2代目監督・野村克也さん没後ちょうど3年になります。

命日のタイミングで徳間書店から先月出た新刊を、野球好き、楽天ファンの皆さんにご紹介したいと思ってnoteしました。

著者は地元紙・河北新報の記者、金野正之さん(48)。

野村番を務めた金野さんが同紙で2021年5月~2022年3月まで連載したコラム「今こそノムさんの教え」を大幅加筆。そこへ全体の約1/3のボリュームに当たる書き下ろしを加えた全301頁の一冊です。1/28に上梓されました。

あの頃の楽天を必死に応援したあなたへ

ノムさんがイーグルスの指揮を執ったのは2006~2009年でした。あの頃の楽天を必死に応援したファンや、あの4年間に特に強い思い入れを抱く仙台の方々なら、なおさらマストだと思います。僕も今につながる推し活を2009年のブログ開設でスタートさせているため、ドンピシャでした。

当時は100敗近くした弱小球団。そこから種を撒き、水をやり、そして2009年に花咲かせて初のCS進出。にもかかわらず、球界の常識を無視するかのような契約満了という涙の退任劇。当時はもっぱら高齢説が取り沙汰されたけど、結局、今まで真相はわからずじまいですよね。

その《14年ごしの真実》が、本書取材のため野村家の門を潜った金野記者に、嫁・有紀子さんが初めて明かすシーンが出てきます。

これには戦慄が走りました。「人を遺すを上とす」を信条にしたノムさん。晩年は文字どおり決死の思いで後進に教えを説いていたことが判明するくだりは、14年前とはまた違う感動を呼び起こします。

当時の取材メモをもとに構成された懐かしエピソードの数々も本書の読みどころ。一場靖弘、中村真人、青山浩二、川岸強ら楽天初期を支えた選手から恐妻サッチーにまつわる逸話から、「己を知れ」「世のため、人のため」と説いた《ノムラの教え》の数々。 「あんなボヤきあったなあ!」から(僕が忘れているだけかもですが)「えーそんなこともあったんだー!」など。あの頃に戻ったかのような感覚を体験できます。

懐かしのエピソード多数

個人的に印象に残ったのは、中村真のエピソードでした。

悪球打ちで活躍したお豆さん。決勝打かサヨナラタイムリーを打って勝った試合があったんですね。試合後、球場コンコースでサッチーがお豆さんに抱きついたところをカメラが射抜いた図で中継が終わったことがありました。今なお鮮明に覚えているんです。

他球団では考えられないちょっと異常な光景ですよね。でも、なぜ抱擁したのか?も今回わかりました。単なるシダックス時代の恩師・教え子を超えた関係性だったわけなんです。

ほかにも「まねるから始めていい」の青山スライダー誕生秘話、「われ以外皆わが師」に関する松井稼頭央エピソードなどが、記憶に残りました。

さすがに「無視、称賛、非難」のノム流コミュニケーション術は、Z世代がチームの大半を占める令和の現在には通用しないかな。それでも、《ノムラの教え》は普遍性を帯びて今なおも有効であるものが多く、あの好々爺だったノムさんの表情と口調で脳内再生されながら読み進めると、腑に落ちること請け合いです。

215頁からの引力に惹き込まれた!

また、本書の真なる魅力は215頁~301頁までの終盤86頁とも言えます。

金野さんが野村番になったのは31歳。プロ野球の番記者になるのは初のことでした。ライバル紙の野村番に「ノムさん番の1年は、ほかの球団を3年経験するのより財産になるから、だまされたと思って頑張れ」と激励され、取材歴ウン十年のベテラン記者と混じって右も左もわからない若手が奮闘する姿も、本書では描かれているのです。

僕も金野さんとほぼ同じ時代にミッション系の史学部を卒業し、地元紙の採用試験を受験し(て落ち)た身からしてみれば、そういう仕事の話は興味深いものがありました。

「私は詰まるところ、ノムさんの訃報を待っていた」という記述も。一見すると不謹慎に思いがち。しかし一個人の思いとは別にして、地元紙記者の立場ではその日に備えて常に予定稿を用意しておくことを求められる内情とか、スクープ級のネタを所持していたにもかかわらず情報を精査する詰めの取材が甘かったりなどで記事がお蔵入りし、結局他紙に出し抜かれた話など、番記者という生態や仕事、金野さんの記者としての後悔などが垣間見ることができます。

とくに、立教大学史学科の卒業を目前に控え、就職浪人が現実味を増した1999年1月。地元紙の追加試験に応募して合格したときの秘話が読ませる!

何かにみちびかれるようにして河北新報に入社し、やがて仙台にプロ野球の球団が誕生し、そして野村番になり、このたび本書を書きあげたのだなと、運命的なつながりを強く感じさせるパーソナルな独白で、そこから本書は一気にハイライトへと突き進んでいくわけです。

ノムさんと仙台三越の腕利きテーラーとの交流話。そこで終わらずに車椅子の女性のエピソードまでどんどんつながっていく不思議な物語。《14年ごしの真実》が明らかにされながらも、ラストに待ち受ける《感動》の結末。

あの頃の楽天を応援し、今現在なにかで苦しんでいる人たちの《希望》の一助ともなりえる本だと思いました。

2009年から14年、没後からも3年。なぜこのタイミングに?と一瞬思ったりもしたところが本音ですが、読み終えるころにはこのタイミングだからこそだと思えるようになりました。

当時31歳だった金野さんも現在48歳。経験を積まれて、当時は書けなかったことも今書くことができる、そういう部分は大いにあったと思います。また、東京五輪の侍ジャパン稲葉篤紀監督のように、ノムさんが撒いたDNAのその後も、この14年間で答え合わせができる。これも大きかったと感じました。

みなさんぜひお手に取ってみてください。

◆ 献本御礼

このたび、本書を著者の金野さんから献本をいただきました。ありがとうございました。

僕が2009年からこの活動を開始して以来、野球本の献本をいただくのは今回が初めてで、大変感激の至りでした。

また、お聞きしたところ・・・(この後は、ほんのちょっとしたアフタートークです)

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