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土木屋が地方大学生とゼロから始めた衛星データ解析

「きっかけ」は地元の豪雨災害

地方建設会社が「線状降水帯による災害」をきっかけに衛星データ活用に挑戦しています。
衛星データによって広範囲における災害発生場所をより安全により効率的に確認したいという思いから生まれました。
発生場所(位置情報)においても、WEB上で簡単に確認することが出来れば、情報共有がよりスムーズになるはずです。


アプリ構成イメージ図


立山町白岩川の堤防決壊


立山町の道路通行止め現場
立山町の橋りょう被災現場

目的は「1日でも早くあたり前の暮らしを」

令和5年6月富山県立山町で線状降水帯により、多くの河川や道路で災害が発生しました。
地元建設業として、1日でも早くあたり前の暮らしを取り戻すため復旧作業に取り掛かかりましたが、、、、。

地元紙 北日本新聞12/28付け記事

被災範囲が広く、数も多い

今回の災害の大きな特徴は、今までになく範囲が広く数も多かったこと。
これにより、被災全容がわかるまでに1カ月以上の時間がかかってしまいました。

土砂崩れによる通行止め
水があふれて通行止めになった道路

課題①早い全容把握と危険な調査

今回の災害は山間地でも多く発生し、通行止め箇所も多数発生し調査が長引く原因にもなりました。
車が通行できない箇所は徒歩での調査となり、足元も悪くまたいつ崩れるかわからない危険な災害現場を何時間もかけて歩いて調べる作業が多く発生しました。
ドローン調査も検討しましたが、被災箇所が数か所の場合は有効ですが今回のように広範囲でさらに山間地での調査は、平野部と比べて見通しが悪くドローン墜落の2次災害も恐れもあり、一部でしか実施できませんでした。
災害復旧において、全容把握は作業の優先順位を決定する非常に重要な作業のひとつです。
災害時において全容把握を一日でも早くスムーズに行うことが、求められます。

土砂崩れが発生した道路
落石が発生した道路

課題②縦割りと情報共有

復旧作業において、管轄・縦割りの課題がありました。道路および河川について、町の管轄?県の管轄か?などの把握にも苦労しました。
どの機関が担当するのかなどは、別々の機関で仕分けし復旧計画を進めていかなければならないのが現状です。
今までにない広い範囲での災害だったこともあり、災害復旧における会議においても各機関で別々に行われ、情報共有としての「横のつながり」はなかなか機能することが難しい状況でした。

課題③情報共有の資料「紙」

各機関で配布される共有資料はほとんどが手渡しによる「紙」です。

(参考)配布される情報共有資料例

作成方法も地図データに任意で被災箇所をポイントし、写真を張り付けるものです。
これにより、パソコン等によるデータ送信はファイル容量が大きくなりメールで送りづらくなっています。(送信者側および受信者側で制限を超えるなど)
現地での確認方法としても、地図のポイントがどこか?が不明確のため、現地の確認時にその場所を見つけるのに苦労することもありました。

産学官による実証実験事業に採択

今回は自治体の実証実験事業に採択されたため、
■衛星画像データの購入(光学画像・SAR画像)
■衛星画像データの解析(SAR画像)
■WEB版アプリ開発
を行います。
富山県と富山県立大学工学部 情報システム工学科との共同事業となります。
大学に関して衛星専門の学科ではなく、まさに「チャレンジ」となる取組みです。

https://digi-poc-toyama.jp/topics/project-adoption/

当方の基礎知識 ドローン・赤外線・衛星データ

当方の基礎知識として、建設用のドローン写真測量運用がメインであり、
火山調査や蜃気楼調査として赤外線画像データも多少かかわっていました。


地獄谷におけるドローン火山調査
ドローン測量によるオルソ写真ドローンによる赤外線オルソ画像

また経済産業省「令和4年度衛星データ利用環境整備・ソリューション開発支援事業」に採択され、富山県内の衛星画像を使用した実績もあります。
またさくらインターネットさんで開催された「使い方」講座等にも参加しました。

さくらインターネットでの衛星データ活用セミナー参加

富山県立大学で開催されたセミナー参加


立ちはだかる壁(1)画像選定および購入方法

今回はわかりやすい「光学画像」と普段見慣れない「マイクロ波画像」の2種類を購入します。
比較画像の解析には「マイクロ波画像(SAR画像)」を使用します。
理由として「光学」は夜間や雲の影響により映し出せない箇所が発生しますが、「マイクロ波」はその影響を受けずにデータを得られることが出来るからです。

富山は特に「雲」の影響をうける地域
光学画像とマイクロ波(SAR画像)

マイクロ波画像(ASNARO-2:SAR画像:解像度2m)
【購入先】JOESS(日本地球観測衛星サービス株式会社)

購入および選定は、NECネッツエスアイさんにご協力頂きました。
画像種類、撮影時期、必要な撮影範囲、解像度など、ある程度の専門知識が無いとなかなか選定出来なかったです。
特に撮影時期、撮影範囲の決定に苦労しました。
画像は「面積」で購入金額が決定するので、より効率的な範囲決定には時間とコツが必要でした。

購入範囲の打合せ地図


富山県上空は1カ月に1回程度の撮影で、画像種類も限られています。
近年の衛星打ち上げ増加による取得のしやすさが向上することを期待したいです。

当方はさくらインターネットさんの講習等でも衛星データプラットフォーム「Tellus」を使用したこともあります。
しかし普段使いしているエクセルやワードなどと違い使用頻度も少なく、使いこなすためにはかなりの時間とスキルが必要ではないかと感じています。

立ちはだかる壁(2)SAR画像解析

被災前と被災後のマイクロ波画像(ASNARO-2:SAR画像:解像度2m)による比較解析を行う。
画像解析作業は、地元大学と当方で実施します。(双方ともに未経験)
今回の検知箇所=変化対象は、「道路」と「河川」の2種類とします。
検知対象は「土砂の崩れ」とします。

解析にあたって宙畑さんのサイトを参考にさせて頂き、QJISに購入した被災前後のSAR画像(ASNARO-2:SAR画像:解像度2m)を取込みました。
「答え合わせ」として、比較的土砂崩れ範囲が大きかった場所でSAR画像に変化があるかを試しました。

縦200m×横100mの大規模崩落地 撮影:松嶋建設

SAR画像による比較では、大きな変化が確認出来ませんでした。

SAR画像の比較

その他の被災場所でも「答え合わせ」を行いましたが、いづれも大きな変化を確認出来ませんでした。

【原因と対策】 雨雲?画像の前処理不足?

変化が確認出来なかった原因として、撮影時における雨雲の影響があると考えられます。
また、SAR画像の「前処理」に問題があったかもしれません。
これらを検証するため、下記も参照することとします。
ASNARO-2 Product Guide

また「Pythonで学ぶ衛星データ解析基礎」により検証を進めていきます。

Pythonで学ぶ衛星データ解析基礎

土木技術資料 53-1(2011)より参照させて頂きました。

https://www.pwrc.or.jp/thesis_shouroku/thesis_pdf/1101-P016-019_mizuno.pdf

令和5年度砂防学会研究発表会概要集より参照させて頂きました。

https://www.jsece.or.jp/event/conf/abstract/2023/pdf/183.pdf

https://www.jsece.or.jp/event/conf/abstract/2023/pdf/183.pdf

https://www.jsece.or.jp/event/conf/abstract/2023/pdf/239.pdf

立ちはだかる壁(2)衛星画像の閲覧

実際に衛星画像を購入し扱ってみると、衛星画像のデータ容量が1ギガバイト以上あるため閲覧するだけでも所有しているパソコン性能によっては難しいことがわかりました。

せっかく貴重な衛星画像であっても、パソコン性能により閲覧有無が決まってしまうことは非常にもったいないと感じました。

その為にも、WEB上で閲覧できるシステムは必要なのではないかと考えます。

立ちはだかる壁(3)情報が無い、、、、

衛星画像解析の手法に関する情報が本当に少ないことがわかりました。
「ロケット打ち上げ成功!」「衛星データでこんなことが可能!」という情報はありますが、解析実務に必要な情報にたどり着くまでにとても時間がかかりました。

当社が一番最初にみつけたのが、「宙畑」サイトでした。

https://sorabatake.jp/machine-learning/

JAXAさんの技術者やその他解析プロの皆さんの解説が丁寧に紹介されています。しかし、解析の目的が少しでも違うだけで、解析手法が変わるため試行錯誤を繰り返すしかありません。

そこで当社では、積極的にいろんなアプローチを心がけています。
光学画像の「解析本」の著者へ直接アポをとって、学生と共に面談させて頂きました。田中先生には本当に感謝しかありません。

またJAXAのイベントにも参加し、直接今回の取組みの必要性などを関係者の皆さんにお話しさせて頂いています。


またJAXAによるコンソーシアム「CONSEO」に入会し、情報交換の場にも積極的に参加しています。
CONSEOへの参加



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