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【第6回】関連づけが学習意欲を高める①3つのヒント

 今回から、学習意欲を高めるための4つのカテゴリーの2つ目、「relevance(関連性)」がテーマです。

 知識と知識が結びついたときに物事の理解が深まるのと同じように、学生の学習目的と授業内容、学習ニーズと授業内容、学生自身のこれまでの経験と授業内容が結びつくと、学習意欲は高まります。学習意欲を高めるARCSモデルのRが示す「Relevance(関連性)」は、以下の3つのヒントを与えてくれます。

ヒント4「目標と関連づける」
ヒント5「動機と関連づける」
ヒント6「経験と関連づける」
※1つ目のカテゴリーでヒント1・2・3を提示したため、今回は4・5・6とナンバリングしました。

 これらのヒントは、実際の授業にどのように生かせるでしょうか。1つずつ解説していきましょう。

ヒント4「目標と関連づける」

 明確な目標は、意欲につながります。例えば、体重を減らしたい!という目標があれば、間食を我慢することもできます。ピアノをもっと上手に弾けるようになりたい!という目標があるからこそ、練習に力が入ります。学習も同じです。学生自身が、何のためにこの授業を受けるのか、何のためにこの課題をするのかを理解できれば、自ずと意欲は高まります。

 基本的な方法の1つは、授業の始めに本時の目標を明らかにすることです。この授業のなかで、何ができるようになればいいのか、どこまでできるようになれば良いのかを明らかにします。黒板の隅に書いておき、授業終了時まで消さないようにして、学生(や教員)が常に意識し続けられるようにしても良いでしょう。
 本時の目標が、単元や科目、あるいはカリキュラムの目標とどのように関連しているかまで示せると、何のためにこの授業で学ぶのかを理解しやすくなります。例えば、今日学ぶことが、その後に行う演習や実習とどのように結びつくのか、あるいは卒業後看護師として働く際、どのようなことに役立つのかということと関連づけて説明することもできます。
 最初の授業でいきなり問題を解いてもらうという方法もあります。この問題とは、期末試験や国家試験に関連する問題です。「今はできなくて良いけれど、この授業が終わった時にはこれらの問題に正答できるようになりましょう」という大変具体的な目標の説明になります。

 目標を、授業の始めに学生自身に考えさせても良いでしょう。例えば、毎回授業終了時に小テストを行っているようであれば、その小テストで何点取ることを目標にするかを設定させることができます。また学生同士のディスカッションを積極的に取り入れているようであれば、ディスカッションに関する目標(自分から1回以上発言する、傾聴を意識して話しやすい雰囲気を作る、○○役に挑戦してみる等)を設定するよう指示することもできます。

 課題を提示するときも、目標と関連づけることが重要です。基本的に学生は課題を嫌いますが、課題を達成することの意味を見いだせれば、大変だとわかっていても一生懸命取り組んでくれます。何のためにこの課題を達成する必要があるのかを丁寧に説明し、学生自身がその課題を達成することで自分の力がついたと実感できるならば、授業の最後には「課題が大変だったけれども、課題のおかげで成長できた」と振り返ってくれることでしょう。

ヒント5「動機と関連づける」

 ここでいう動機は、学習ニーズ(学生が求める学習スタイル)と置き換えることができます。学生が学びたいように学ばせることが学習意欲につながります。では、学生はどのように学びたいと思っているでしょうか。その答えは、日頃のリフレクションシートや授業アンケートに書かれていることがあります。

 リフレクションシートで「共同作業があって楽しかった」「~さんのプレゼンテーションはとても参考になった」というような活動に対する肯定的な意見を見ることはありませんか。全員とは言いませんが、多くの学生は教員の講義を聞くだけではなく、活動を通じて学ぶことを好む傾向があるようです。もちろん、楽しさは授業の第一目的ではありませんが、学習意欲を高める大事な要素ではあります。クイズやゲームの要素を取り入れることで、より意欲的に学ぶこともあります。

 授業アンケートで時々見かける学生の自由記述に「(自主)学習の仕方を教えてほしい」というものがあります。ここには2つの背景がありそうです。1つ目は優秀な学生がもっと勉強したいと考える積極的な理由、2つ目は授業についてこれない学生がどうやって勉強すればよいかわからないという消極的な理由です。前者の学生には、参考資料を配布したり、参考書籍を紹介しても良いでしょう。後者の学生は、具体的にどこで躓いているかを明らかにする必要があります。教科書は読めているか、授業ノートは取れているか、予復習はしているか、小テストの振り返りができているかなど、基本的な学習力を高める工夫が必要になるでしょう。
 私は成績の悪い学生や、授業に集中できていないなと思う学生を見つけると声をかけ、状況を聞き取ることがあります。睡眠不足などの体調管理に問題があるケースもありますが、一方で授業内容についていけずにどうすればよいかわからなくなっているケースもあります。

 最近は学生に対して、動画で予復習してはどうかと提案することが増えました。コロナ禍の影響で以前に作成した動画教材があれば、それを提供します。そのような動画教材を作っていない場合は、YouTubeで勉強することを勧めることもあります。検索すると授業テーマに近い動画が公開されていることもあり、自身の授業よりもわかりやすいことさえあります。動画には、何度も見返して勉強できる利点もあります。最近は学生も長いテキストを読んで勉強するのではなく、動画で勉強をすることに慣れてしまっているようです。テキストを読めないことは問題ですが、一方で学生の学習スタイルに合わせた方が学習意欲が高まるのであれば、動画教材を提供したり紹介することも今後大事になってくるかもしれません。

 もう1つ、学生の動機と学習を結び付ける方法として、学生にテーマを選ばせたり、考えさせたりすることがあります。例えばジグソー法などを用いて、いくつかの学習課題に学生をチーム分けして学習活動させる場合に、誰が何を担当するかを学生自身に選ばせることができます。探求学習のようなことをさせる時や、レポートを書かせる時に、学生に自由にテーマ設定をさせてもよいでしょう。たとえば、「身近な人を健康にする」というプロジェクト学習を行おうとしたとき、「誰を」「どのように」健康にするかを学生に考えさせることがあります。学生は、「自分が選んだ」ものや「自分が考えた」ものに対して、意欲的になり、責任感も芽生えます。自主性を育むことも期待できる方法です。

ヒント6「経験と関連づける」

 経験と関連づける目的は、授業に対して親しみをもってもらうためです。自分とは関係のない遠い別次元の知識なのではなく、実は自身も経験したり、見たり聞いたりしたことのあるものと関係する知識なのだと知ることができれば、授業内容に対する親近感が芽生え、学ぶ意欲が高まります。

 代表的な方法として、学生にとって身近な例やイラストを用いて説明することがあります。最近のニュースや出来事なども使いやすいでしょう。学生がこれまでにしてきた経験や身近な例が思い浮かばない場合は、思い切って授業内容に関連する経験を、学生自身に書いてもらったり、話合わせたり、発表してもらうことも有効です。集めた情報は翌年の授業でも活用できます。教員と学生の間にジェネレーションギャップがあるときは、むしろこの方法が適しているかもしれません。教員側も「今の学生はこうなのか…」と驚くかもしれませんし「時代が変わっても、この経験はみんなしているのだな」と安心するかもしれません。学生の経験談に教員が理論的な説明を加えることによって、理解度が高まる効果も期待できます。

 学生にその場で体験してもらうことも考えられます。ロールプレイなどは代表的な方法です。

 学生の経験に寄り添うだけでなく、教員自身の経験、あるいは教員がみてきた学生たち(受講生にとっては先輩)にあった出来事などを話すことも有効です。特に看護師としての経験や、先輩たちの実習経験は、学生にとっては未来の経験です。学生も興味を持って耳を傾けるでしょう。

次回は…

 今日ご紹介した3つのヒントを元に、看護教員の先生方に「すでにやっていること」、「質問」、「これからやってみたいと思うこと」について書いていただきます。きっと、読者の皆さんに近い立場から、事例を共有していただいたり、率直な疑問をなげかけていただけることと思います。お楽しみに!

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