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【第3回】授業で学生の注意(関心)を引き出すには?③ 問いを活用した授業づくり

~教育学者から、看護教員へ~

 今回は、梅澤先生たちからいただいた4つのお悩みや疑問についてお答えしていきます。

1.学生の興味を引き出せるような授業タイトルの付け方とは?
2.学生の疑問を中心とした授業づくりはどうすればできますか?
3.良い発問はどうすればできますか?
4.例え話をしても、肝心の学習内容と結びつかないことが…

1.学生の興味を引き出せるような授業タイトルの付け方とは?

 ヒント1「知覚的に興味を引き出すには?」の中で、視覚的に学生の興味を引き出す方法の1つとして、授業のタイトルを工夫することを挙げました。梅澤先生に事例として紹介いただいた授業のサブタイトルも、学生が自分事として考えられるよう工夫された素晴らしいものでした。
 様々な大学で教育改革を支援しておられる、学びと成長しくみデザイン研究所の桑木さんは、「シラバスを読まない学生にでも、一言でその科目でやろうとしていることを伝えられるようなサブタイトルをつけてみてください」と先生方にお願いするそうです。例えば、以下のようなサブタイトルの付け方があります。

・”何をする”授業かがわかるサブタイトル
 (例:指導者としての心構えと理論を学ぶ「コーチング論」)
・”何ができるようになる”授業かがわかるサブタイトル
 (例:人前でしゃべりたくなる英語の発音とリズムが身につく「英語音声学Ⅱ」)
・”何のための”授業かがわかるサブタイトル
 (例:食品の役割を理解するための「生体物質化学」)

 また、板倉先生の「授業後に学生にサブタイトルを考えてもらうようにする」ことも素晴らしいアイデアと思います。学生がその授業の目的や目標、内容を再確認して要約できる優れた復習課題ともいえるでしょう。

2.学生の疑問を中心とした授業づくりはどうすればできますか?

 ヒント2「探求心を喚起するには?」の中で紹介した、学生の疑問(質問)を集め、その疑問に答えながら授業を進めていく方法について、以下のご相談をいただきました。

テキストを読んで、疑問に思ったことを1つ以上挙げてもらい、そこを中心に授業を展開してみたいです。ただ、自分の力量では難しいと思ってしまいます。実際に行うにはどうしたらよいか、アドバイスをいただきたいです。

 難しいと思う要因は2つあるのではないでしょうか。1つ目は、学生が本当に疑問を挙げられるだろうかということです。これに対する対策の1つは、疑問例を学生に提示するということです。学生も疑問を提示することに不慣れな場合が多く、「疑問って、どうやって出せばいいの?」「こんな疑問でもいいの?」と不安に思うことでしょう。疑問例が提示されれば「こんな疑問を出せばよいのか」と疑問を提示しやすくなり、「こういうことを考えながら勉強するのか…」と思考を広げたり、深めたりするきっかけにもなります。1人ではなかなか疑問を提示しにくいかもしれないため、友達同士で予習をして一緒に疑問を出すことを推奨しても良いでしょう。

 2つ目は、教員自身が学生の疑問に答えられるかという不安ではないでしょうか。どのような疑問が学生から提示されるか予想もつかないと、授業の準備もしようがありません。そこでお勧めしたいことは、疑問は事前に集めるということです。そうすることで、どのような順番で、どのように疑問に答えていけばよいかを事前に考えることができます。必要な資料も収集し、学生に見せたり、配布することもできるでしょう。他の教員に相談することも可能です。

 もう1つアドバイスできることがあるとすれば、学生に疑問に答えるのは必ずしも教員でなくともよいということです。特に、重要な疑問、当該回の授業の主たるテーマに関わるようなものであれば、むしろ学生たち自身に答えを考えてもらうことも良い学びになります。時間が許すならば、教員が答えをすぐに提示するのではなく、学生個人、ペア、グループ等で考え、発表してもらい、最後に教員からフィードバックするという方法の方が学生にとってより良い学びになる可能性もあります。

3.良い発問はどうすればできますか?

 ヒント2「探求心を喚起するには?」の中で、発問もその方法の1つであると紹介しました。発問は、基本的な授業方法の1つであり奥深いものです。中井・小林(2017)は、発問には学習意欲を喚起する機能があることを示した上で、高血圧症について教える場面での発問例を挙げています。

・高血圧症の患者が多い都道府県はどこだと思いますか?
・高血圧症の患者数は男女で違いがあると思いますか?
・どの年代の高血圧症の患者が多いでしょうか?

 結論をすぐに伝えるのではなく、学生に事前に予想してもらうことで、その後のレクチャーに対する興味を湧かせ、実際はどうなのかを伝えることで、「意外!」「やっぱり!」と印象づけられます。

 これを注意を引きつけるだけでなく、さらなる探求心へと結び付けていくために、+1の発問を試しても良いでしょう。+1の発問とは、1つ聞いて終わりではなく、重ねて一歩踏み込んだ発問をすることです。
 例えば「なぜ、そう思いますか?」「では、どうすれば良いと思いますか?」「他には、どのような可能性が考えられますか?」という発問は、思考を広げたり、深めたりする上で効果的です。

4.例え話をしても、肝心の学習内容と結びつかないことが…

 ヒント3「授業に変化をつけられる?」では、内容と方法に変化をつける工夫を紹介しました。内容面で変化をつけるために、最近のニュースや、最新の研究知見、教員の体験談や、先輩の事例などを紹介することが授業にメリハリをもたらします。

 しかし、これらの紹介が学生の頭の中で学習内容と結びつかなければ、極端な話、先生の雑談程度にしか受け止められなくなってしまいます。そのため、例え話や事例を話す際には、授業内容とどのような関係があるのかを教員が思っている以上に丁寧に説明する必要があるでしょう。紹介した事例のポイントはどこにあったかを学生自身に考えさせると、教員がなぜその例え話をしたのか、その意図をよりはっきりと理解できるでしょう。「今紹介した私の失敗談ですが、どうすればこのような失敗を予防できたと思いますか?」「このような失敗をしてしまったらどのように対処すべきだと思いますか?」など、発問と結び付けてしまうのです。

 授業中に時間をとることが難しいようであれば、授業後の振り返りの設問とすることで学生の理解度を確認することもできます。リフレクションシートなどで単純に「今日の授業の感想を書いてください」と振り返らせると、「先生の経験談が印象的だった」程度のことしか書かないかもしれません。そこで、「今日の授業で○○に関する先生の失敗談を紹介しましたが、授業内容を踏まると、先生はその時どのように対処すべきだったといえるでしょうか。理由も合わせて書いてください。」と振り返らせると、事例と学習内容を結び付けられるだけでなく、授業をどれだけ集中して聞けていたか、学生がどの程度理解したか、学びを事例に応用することができるかまで評価することができるでしょう。学生が書いた内容に対するフィードバックを次の授業の最初にできれば、復習にもなるでしょう。

<参考文献>
中井俊樹・小林忠資編著(2017)『授業方法の基礎』医学書院.


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