(詩) 機影はいづこへ
海を見続けている人
いつからだろうか
年老いた人
もう100歳を超えただろうか
終戦の直前から見続けている
その日
兄は戦闘機に乗って出撃した
南へ向かって飛行する
筈だったのに
途中から東へ向かい
まったく別の方向へと
水平線の彼方へ
機影は消えていった
それから海を見続けていた
眼をそらすことなく
兄の意志、兄の思いは
迷いなく操縦桿を握った
なぜ、なぜ、兄は
見ていたすべての人が愕然とした
しかし終戦とともに忘れ去られた
今でも兄の真意を
切実に知りたく
年老いた人は
海を見続けている
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