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洪允淑(ホンユンスク)「人を探しています」

茨木のり子「韓国現代詩選」について、note記事を以下のとおり投稿しました。

その後も韓国の詩人に興味をもって、韓国現代詩を読んでみました。

そのなかで、わたしの関心の薄れなかった詩人が、表題の洪允淑(ホンユンスク)です。
茨木のり子の解説によると「韓国女流文学界の会長で元老詩人と紹介されることが多い」と記されています。

彼女の魅力ある詩の中から、今回「人を探しています」を取り上げました。
韓国現代詩集(土曜美術社)でも、「尋ね人」の題名で掲載されています。

前回取り上げた詩人ー姜恩喬(カンウンギョ)、李海仁(イヘイン)ーは、茨木のり子「韓国現代詩選」からでしたので、今回は別の方の翻訳からと思って悩んだのですが、結局は茨木のり子の翻訳を引用することにしました。

わたしは韓国語を読めませんので、あくまでもわたしの好みです。
(茨木のり子訳編「韓国現代詩選」花神社より引用)

人を探しています

人を探しています
年は はたち
背は 中ぐらい
まだ生まれた時のまんまの
うすももいろの膝小僧 鹿のひとみ
ふくらんだ胸
ひとかかえのつつじ色の愛
陽だけをいっぱい入れた籠ひとつ頭に載せて
或る日 黙ったまま 家を出ていきました
誰かごらんになったことはありませんか
こんな世間知らずの ねんね
もしかしたら今頃は からっぽの籠に
白髪と悔恨を載せて
見知らぬ町 うすぐらい市場なんかを
さまよい歩き綿のように疲れはて眠っていたりするのでは
連絡おねがいいたします
宛先は
私書箱 追憶局 迷子保護所
懸賞金は
わたしの残った生涯 すべてを賭けます

1925年に生まれた洪允淑は、20歳までは日本の植民地時代に育ったといえます。
そうした歴史的な背景が、この詩の根源なのかもしれません。
ただ、わたしは敢えて特定しなくても良いのではないか、個人的な意味でのかけがえのない魂の喪失時代がその背景としてあった、ということで良いのではないかと思います。

過去、現在そして未来への時間を通して自己を愛おしむ心理の表現力に、わたしは惹きつけられます。

これからも少しずつ、韓国の詩人の作品を読みすすめてゆきたいと、思っています。


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