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高次脳機能障害・地獄の蕎麦屋!!

こんにちは。鈴木大介、高次脳機能障害5年生の二学期ぐらいです。4年生ぐらいの時に、入学の時に比べたらかなりやれることが増えて、なるほど、やっと「そろそろ卒業が見えてきたかな」なんて思っていた僕は、高校一年生の先輩(当事者10年目)だったRさんから、こう言われました。
「鈴木さ~ん、まだま~だ先がありますよお~」
ああ、Rさんの行ってる学校は、僕より難しい(僕より障害が重度だ)もんなあ、なんて思っていた僕でしたが……。

高次脳機能障害は長丁場!今日は5年生の一学期(2020年夏)に起きた、立ち食いそばでの出来事を少し書こうと思います。題して

高次脳機能障害 地獄の蕎麦屋奇譚!! 

ぎゃーーー!

その夏の日、コロナによる外出自粛も緩和され、久々に担当編集と都内で対面打ち合わせしましょうとなった僕は、大喜びでいつも行く街に出ました。天気は快晴、道もスカスカで、到着したのは約束より45分ぐらい前。
打ち合わせにかなり早め到着で向かうのは、病前からの習慣です。早く着いて、相手が来るまでに打ち合わせ内容をノートにまとめたり想定問答を考えながら相手を待てというのは、病前に取材記者だったころ、取材対象者だったおっちゃんに言われたことでした。

だが、やるな俺!
今日は余裕があったから、その打ち合わせノートも想定問答も、自宅でやってきている。当事者低学年の頃は、頭の中だけで時間の逆算をするのがすごく苦手になったり、物を探すのにとても時間がかかるようになってしまって、時間通りに家を出るだけでも難しくなったっけな。
でも、もう来年は六年生。逆算が難しければ紙に書いて考える。持っていくものリストは壁に張り出してある。初歩的なステージなど、とうにクリアしているのだよ。
などと思いながら待ち合わせ場所へと向かうときに、目に入ったのがその立ち食いそば屋だったのです。

あれ? あそこには元々、ヨレヨレのじいちゃんがやっている汚い立ち食いそば屋があったよな。
けれどたしか去年、店の入っていたビルが再開発で立て直されて、そのあとじいちゃんの店の場所はポツンと空いていたような……。

蕎麦は、僕が高次脳御機能障害になってからやたら行く機会が増えた外食先、というか、一時期は蕎麦屋以外での外食はほとんどしませんでした。理由は、うまくとっさの言葉が出せなくなった僕にとって
「大ざる」
「もり蕎麦大盛」
「大せいろ」

といった短い言葉で確実に存在するメニューを伝えるのが、とても楽で、ありがたかったから。

あ、じじいの店が復活してるなら、打ち合わせの準備も済んでるし、食べていこう!
そう思った僕は、店の中を覗いてみることもせず、すっと中に入ったのです……。
そこがまさか、「地獄の蕎麦屋」だと知りもせず……。

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煉獄の券売機! 呪いのおつりボタン

うひゃー、じいちゃんのお蕎麦だ! 喜んでお店に入った僕。やっほーじじい!
けれど、そんな僕を出迎えたのはじいちゃんではなく、以前の店内には流れていなかった大音量のBGM! そして冷たい表情の券売機でした。
いかん! 券売機は鬼門です。
それは、たくさんの商品群のボタンの中から、特定のボタンを探すというのが、やっぱり高次脳機能障害の当事者にとっての難関だから。
「いや、ザルと盛りなんて定番なんだから、左上とかにまとめとけよ!」
って思いますが、冷たいお蕎麦、温かいお蕎麦、トッピング系、カレーとかの変わり種なんかがゴシャゴシャある中、大量に並ぶボタンの真ん中ぐらいにザル盛りボタンがまぎれているというのが、券売機の野郎なのです。それがね、見つからないの僕。

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いやおちつけ!
こういう時、一歩下がって他のお客さんが選んでいるのを後ろから見ながら、ボタンを探すのが当事者5年生の俺様。けれどこのお店は狭いから、一歩下がったら自動ドアが開いちゃう。ていうか、お昼時だからもう次のお客さんが僕の後ろにいるじゃねえか!!
やばいやばい! 
焦ると店内のBGMのボリュームが一層大きくなるように感じて、頭を混乱させます。
常用している耳栓をさらに奥に押し込んで、集中集中!
こういう時は落ち着いて、券売機のボタンを指で左上からたどる「総当たり戦式」が結局一番早いんだからな、俺。それも二年生ぐらいで学んだことだ。
ずず~~っと指でたどって、やっと発見、「ザル」! お前さん、こんなところにいたんかよ。けど、目的の「大ザル」がない。わい大盛り食いたいんだ!
したらばな。またずずーっとたどって行くよ。

あ……「大盛りボタン」!!
くそ! 
まさかのザルと大盛りボタン両方押さんといかん系トラップか! 
ゆでたろう見習えや!(大ザルボタンがある)

けど僕はすごい。1年生や2年生の頃なら、この時点で一度見つけたはずの「ザルボタン」の位置を一瞬で忘れてしまって、もう一度見つけるのにとても時間がかかったけど、5年生の僕は、きちんと把握できてるぜ。
ということで、ザル! 大盛り! トッピングでアナゴ天(魅惑に負けた) アンド食券発行! 

釣りが出ねえ!!

ああああ……おつりボタンね……。
そろそろ途方にくれ始めます。
だっておつりボタン、一番見つからないんだよね。パネルじゃなくて、お札入れるところの横にあったりしてさ。
ハアハア。
呼吸つらい。ふたたび集中しておつりボタンを探すころには、もう後ろに三人ぐらい並んででいる始末だよ。昼時だもんね。ごめんなさい。
しかしまあ、やっとそばにありつけるぜ…と思った僕でしたが……
甘かったのでした!

提供台の地縛ねえさん 
お席に座ってお待ちくだ地獄変!!

待たせたサラリーマン風の方々に軽く会釈でお詫びして店の奥に向かうと、どうやらお店は立ち食いではなく、座りカウンターに変更した模様です。提供台に立つのも、じいちゃんじゃない。とても元気そうで目つきのキツい、お姉さん。
ああ、じいちゃん、引退か……。ていうか別の店か。
けれど、え?

食券を出すと、お姉さんそれをスッと押し戻してきます。
え、なにか言ったっぽい?
耳栓を緩めて「もう一度言ってください」的リアクションをすると(これができるようになったのは4年生のころ)、
「k;じゃおlきう」
耳栓取ったら店内音楽うるさくて聞き取れないし!
「ええと、もう一度」
「番号で御呼びするまで座ってお待ちください、券売機のところに書いてありましたよね」

ぬぎゃあああ!
あれか! 食券購入したら自動でオーダー入る奴か!

つうか、知るか!
あんなにボタンたくさんあって、そんなの書いてあるのに気づくわけねえだろ(注意障害の当事者に)
そんなら店の名前を「自動オーダー食券蕎麦」ぐらいにして蛍光ピンクで暖簾に染めとけや!
という気持ちを抑えつつ抑えつつ、コロナ対策でパーテーションでめちゃ狭く区切られた席に座って、待つよね。大人だもん。

ええと。食券番号は124。124 124 124
この三桁番号を憶えていられないのが当事者ちゃんなので、きちんと手にもって、見つめつつ、見つめつつ、何なら手に書くよ。頭の中で復唱しつつしているけど……おい、なかなか呼ばれないな……。

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あ、店内音楽に交じって、お姉さんがなんか大声出した。
「k;じゃおlきう番の方~~~」
なに? スピーカーじゃなくて、大声で叫ぶ系のシステム? 自動オーダーなのにそこだけアナログ!?

ともあれ、たぶん順番的には僕だろう。
けれど、提供台に向かうと、お姉さん、目を合わせない。食券を出すと、
「できたらお呼びしますから、席にかけてお待ちください」(早口だけど何とか聞き取った!)

あ、僕じゃなかったのね……。忙しいのに急かすみたいでごめんなさい。
席に戻って、再び待つよ。

……しかし、こうなると困るのは店内BGMのボリュームだ。音量もデカいが、最悪なのは日本語歌詞の音楽だということ!
こんな環境では、僕の脳は「音楽の歌詞を聞き取ろうとする」、という情報処理をやめてくれない。無視することができない。音楽を聴き流さないと、お姉さんの呼び出しが聞き取れないとわかっていても、頭の中には歌詞ばかりが強制侵入してきちゃうんだよね。
かといって、耳栓を深く入れたら呼び出しも聞こえない。
のおおおおおおおお(泪

「k;じゃおlきうのお方~~~」
お、また呼ばれた、けどサッと立ち上がったのは、さっき券売機の前で僕の後ろの方に並んでいた人っぽい。
けれど、ほんとこれじゃ、番号聞き取れないよ!
どんどん僕の胸の中には、怒りの塊が膨らんでくる。いっそのこと、もう蕎麦要らない。店の椅子を蹴飛ばして出ていきたい!
「k;じゃおlきう番とk;じふじゃyhlきう番の方~~~」
だから聞き取れねえっつてんだろ! 音楽止めろ! つうかさっき俺の後ろに並んでたやつら、みんな食い始めてる!!


けれどまあ、落ち着け落ち着け落ち着け僕。もういいかげん、呼ばれてもいいころだろ。
ということで、再び提供台前に行くと、お姉さんは僕をチラ見して無視。それでも待っていたら、奥の調理場で作業するお兄さんが声が張り上げた。
「お呼びしますので、お席でお待ちください!!!!」(って言ってんだろ的イントネーション)

ほんぬらああああああああああああああああああああああああああ!!

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このあと、正直記憶がすこし飛んでいる。いや、憶えてる。
お姉さんが提供してくれる時無言だったこと。厨房の奥の兄さんが「お待たせしてすみませんでした」と言ってくれたこと。アナゴが大きかったこと(そりゃ、揚げるのにじかんかかるわ)。蕎麦もアナゴ天も、味は記憶に一切ない。

食器を下げ台に戻すとき、高次脳機能障害だからとか言ってもどーせ分かってもらえないけど、せめて「聴覚障害の方は利用できない店ですね」ぐらい言いたかった。けど、何も言わず、少し乱暴に食器を戻したことの記憶は、その対応の大人げなさに自分をまた一つ嫌いになった嫌な記憶とセットだ……。苦いよ……。

けっきょくあの日、その後の打ち合わせでは、せっかく準備万端で行ったのに担当編集の言葉を聞き取るのが精いっぱいで、満足なプレゼンが何もできませんでした。
そしてその後の僕は、あのお蕎麦屋さんを、看板を見るのも避けています。何なら遠回りだってするよ。

さて、以上が僕の、高次脳機能障害、地獄の蕎麦奇譚でした。
今になって、Rさんの言葉をよく思い出します。
「鈴木さん、まだま~だ先がありますよお~」
いやRさん。ほんと、長丁場だねえ……。

なお、僕は高次脳機能障害の当事者としては、比較的軽度の部類ですが、5年経ってこのありさま。蕎麦屋ならまだいいけど、当事者の多くが日常生活のあらゆるシーンや、特に仕事の現場で日々このような思いを重ねています。
でもね。仕事でこれが毎日あったら、病んじゃうでしょう。蕎麦屋の姉さんも厨房の兄さんも、毎日こんな状況の当事者がいたら、「鈴木大介入店禁止」(解雇)って張り紙するかもしれない。
彼らが職場の上長だったとしたら、当事者も「ええ加減にしろ! 音楽止めろ! 何言ってっかわかんねえんだよ!」ってブチ切れて、飛び出てきちゃうかもしれない。

高次脳機能障害は見えない、そして健常者の理解がとても困難な障害です。
もうちょっと知ってもらわないと、困るんだよね。ということで、来年よりそうした当事者がお仕事の場でどんな不自由を抱え、どんな理不尽な思いをされるのか、たくさんの声を聞き取っていく事業を、企画しています。

「チーム脳コワさん」・現在クラウドファンディング展開中です。
https://camp-fire.jp/projects/view/356989

何とか僕らがブチ切れない蕎麦屋を、じゃなくて、ブチ切れて失職とか解雇とかに至ってしまわないようには、どうすればいいのか。多くの方々の、ご理解とご支援をお願いしたく願います。



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