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中国テレビ番組ガイド

名古屋のナンデモ博士、岩田宇伯さんの最新作を、名古屋の特殊書店ビブリオマニアさんで入手しました!

表紙をめくると可愛いテレビのサイン入り!申し訳程度に添えられたレモンがまたいい味

これは、ビブリオマニアさんで買わねば!と、星野藍さんの写真集(未承認国家アブハジア)と同時に購入。いつも狙ってるとどちらか買いそびれたりウッカリ手持ちが足りなかったりするんですが、この日もそうで。
バスに乗ったり途中で暑くて飲み物買ったりしてたら、あら不思議!財布に現金が御座いません!!
仕方がないので一度お買い物をして、久屋大通んとこの三菱UWF、じゃなかったUFJ銀行の前まで来て
(あるじゃん、現金……ココに)
と虚ろな目をして入店。ATMコーナーの前に立つと銀行員を人質にとり、相棒のジョン・カザールそっくりの全裸中年男性と共に立てこもって令和のアル・パチーノ気取りで現金約2000円を要求……することもなくキャッシュカードを差し込み、ある程度の現金を引き出してビブリオマニアさんへ。一日で本屋さんをオカワリしたのは初めてだけど、諦めきれずに2冊とも買いました。

今ので一体どれくらいの人が映画「狼たちの午後」を思い出してくれたかはともかく(私がジョン・カザールという役者を大好きなった珠玉の名作だ)、あの暑い名古屋をウロウロして、本でズッシリ重たくなった小仲=ペールワン選手のトートバッグを抱える幸せをぶら下げて帰宅しました。

帰りの電車でちょっと開いてみてビックリ。
中国で無数に放送されまくっているテレビ番組のデータと解説、ひとくちコメントはもとより、現地のみならず香港、台湾、マカオなどの周辺でのテレビ事情、いや放送網そのものについても解説が書かれ、なんというか
「ひとつ取っ掛かりが見つかると無数に知識の線路が伸びて、そこを好奇心や探求心、それらを集めて脳裏の図書館に並べたいという欲求がShinkansen Super Expressで突っ走る」
という、マニアの思考回路がそのまま本になったような凄まじい情報量と面白さ。

確かにこれは止まらなくなる……!
と、共産党クイズ大会(想像を絶する共産党模範的党員=エリート共産党マニアみたいな人たちが挑戦するカルトクイズ)とか模範的労働者を表彰する番組とかのページを見て、茫然と本を閉じた。

甘く見ていた。コレはトンデモナイ本だ。
内容ではなく、いやある意味、内容もトンデモナイのだが、これを作り上げた岩田さんと、企画を通してまとめあげたパブリブの濱崎さん(デスメタルインドネシアなどでお馴染み)の執念の集大成だ。

大体、書いてある通り本当にトンデモナイ数のテレビ番組があり、その中には内容の似通ってたものもあり、放送局や地域によって特色の出ているものもあり、整理するだけでも大変そうだ。

だけど結構、面白そうなものもある。中国では蔓延る汚職を無くそうと政府を上げたキャンペーンをやっていて、その一環として汚職を追求するドキュメンタリーがある。
地方の役人から党の大物まで色んな人が捕まっている。
脱・貧困キャンペーンの一環として、これまた各地の貧困にあえぐ地域に若い党員を配置し、貧困を敵とみなして「攻撃」し、如何に「勝利」したか、という番組もある。

日本でも法律の番組が人気で、出て来た弁護士がマラソンしたり選挙に出て、今じゃお上としてのさばったりしているが、中国でも法律番組は人気らしく。
それも中々に変わったアプローチを仕掛けているようだ。
本によれば中国のテレビ放送には法律に特化したチャンネルもあって、コレは例えば党が何か新しい法律を制定しますよ、いついつから施行しますよ、と言う時なんか流石しっかり解説してたっぷり染み込ませるためのものでもあるらしい。
だけどそれだけじゃやっぱみんな見ないんで、普段は法律を扱う番組、ということで、サスペンスドラマを放映しているとのこと。
中国では「犯罪の手口がわかるドラマの禁止」という条項があるらしく(わが国でも油断してるとそんなこと言い出してダメだヤメロとなりそうでヤだな)、通常のテレビドラマでは放送できない。だけどコレは「法律」の番組だから、何がどう違法で犯罪なのか、を解説する時間を設けることで、この抜け穴をヌルっと通り抜けているのだという。
なーーるほど。実際に番組の最後には専門家による解説があって、それをもって「法律番組」としているらしい。
これなんかは読まないと全然わからなかった現地の事情がよく伝わって、生活に根差したテレビ文化に触れられて得した気分になれるトピックだ。

この法律番組(ドラマ)は各地で人気らしく、中には低予算で、地元の専門学校の生徒たちによるチープなドラマがかえって見所になっている番組もある。その辺がやはり猛烈な勢いで経済成長し最先端技術で突っ走る中国の、なんとなく可愛いところでもある気がする。
そう言うところが無いと、やっぱり愛嬌って大事。

中国といえば愛国、愛国といえばスピーチ。
というわけで中国にはスピーチ番組、というものがある。やはり党で何かと演説をするので、若い頃から演説が上手に出来ないとダメみたいだ。それもパっと出てってテキトーなこと言って間を持たせたりするとかじゃなく、ちゃんとキーワードを押さえ、仕草も表情もキメ、制限時間内にテーマに沿ったスピーチをバチッ!!!!とカマさなくてはならないから、さあ大変。
どいつもこいつも若いうちからその道にどっぷりなので、出て来るスピーチも学生や若者も暑苦しいスピーチをガンガンにブチカマしてくるとか。
いろいろ冷めた日本でも建前上アツく燃えております!みたいなこと言わなくちゃならない時ってあるけど、中国の場合それを国ぐるみで、しかもテレビ番組で大々的にやらなくちゃならないから、なんというかエリートになるのはドコの国の組織でも大変なのだなあ。

可愛いアニメーションもある。
中国のスローガンの一つ「中国夢」をキーワードに、中国伝統の民芸品のお人形をモチーフにしたゆるーい女の子が出て来てPRを行うコマーシャル。その派生版として子供向けのアニメが放送されているとか。コレは確かに可愛い。ィ横浜中華街でお土産に売り出したら人気が出そうだ。
子供向けということでプロパガンダ(この単語も安易に使いづらい世の中になったな)もソフトだが、だからこそ今後、中国発のゆるキャラが世界を席巻するようなことがあったら、その時こそ要注意と岩田さんは語る。
むしろ日本のように単に可愛くて、なんもウラやメッセージのないキャラクターのが世界的に見たら珍しかったりしてな……。

あまりに数が多いので私の趣味で言うと、さすが広大な中国。格闘技の番組も充実している。
何しろ昔から武術の本場と言えばかの国。ルーツがあって技術は進歩してて血の気が多いとなれば強くならないはずがない。
さらに言えば経済的に成長している=勝てば賞金だって青天井。
こんな良いことは無い。
中国にもプロレスはあって、CIMA選手が現地でOWEという団体をやっていたのはプロレスファンには有名だし、広州ではCWEという団体が旗揚げされたとのこと。

総合格闘技も充実していて、先発番組では日本のフジテレビと提携しK-1との対抗戦からノウハウを学んで世界進出への足掛かりをつかむまでに成長。K-1も前田日明さんのリングスからノウハウを得たことを考えると、中国大陸で総合格闘技団体とそのテレビ番組が定着したら、ルーツのルールはリングス=前田さんってことになるのか…?
すぐそんなことを考えるのはマニアの悪い癖だが、それはさておき。
ジャンルを問わずそれが人気となれば後発の団体・番組も誕生する。さらには金網デスマッチの番組まであるというから驚きだ。そんなの日本以上に、中国じゃ絶対ダメそうだったけれど逆だったね。

このほかにものど自慢、痴話げんか、マネーの虎っぽい番組にグルメ番組、真面目な行事や追悼を流す番組があるかと思えば、ロックミュージシャンやアイドルのオーディション、軍歌番組(読んで字の如くだが、かなりいろんな工夫がなされていてフツーに面白そうだ)果てはどこぞの校長先生のお話を聞き、解説までする番組と多岐にわたるにもほどがある。とても書ききれないが、読んでいて飽きない。
共産党という絶対的超巨大組織が天空要塞のように地上を睥睨し、そこからゆんゆん発せられる電波の中にこんなバラエティに富んだ番組があるというのがなんとも可笑しいというか、ニンゲンやっぱり考えることは同じだな、と思う。

この記事の初めの方でチラっと書いたけど、中国で放送されているテレビ番組だけでも膨大な数が紹介されている本書。が見所はそれだけではない。香港、マカオ、台湾のテレビ事情が紹介されているコラムや、やはりテレビと言えばCMということで胡散臭いコマーシャルも幾つか紹介されている。これがまたコクしかない、見ているだけで電波が煮凝りになりそうな出来栄えで、これだけ集めた動画集とかあれば見てみたい。
日本でもローカルCMは時々ぽっと人気を博す時があるし、特に私や岩田さんのふるさと東海地方は、中国に負けないくらいの特濃煮凝りコマーシャルの宝庫でもある。
んがしかし、この愛知県代表にして日本代表のスタメンを張れそうな
鎌倉ハムのKウィンナー
名古屋清水口の美宝堂
なんでも貸します近藤産興
を以てしても対抗するのは厳しそうだ。何しろ向こうは現役バリバリで成長中、お金も人材もドバドバ注ぎ込んで作っている。一方我が国は、人材を人財と言い換えることでなんとなくヒトをダイジにしてます感を演出し実際に用いる費用を削ってばかりいる。これじゃ、コクのあるいいコマーシャルなんぞ出来っこない。

この本を読むと、お隣でこんな賑やかにドンチャカやってのしてきてる国があるのに、何が緊縮だ、脱成長だ!と、胸の奥がフツフツと熱くなってきて、なんだか中国パワーにアテられてしまいそうになる。この勢いを持って、竹中か岸田か財務大臣か、誰に延髄斬りをすればいいのか(誰にもしちゃダメだよ延髄斬りは)。

なんかねえ、こうしちゃいられない!って思えるような、エネルギーに満ちまくった一冊です。読んでるとあっという間に時間が経つし、世間は広い、何か自分だけの視点と考え方に縛られて、アレもコレも文句ばかり付けてるのがバカらしくなるよ。
文句も何も天上楼閣からダメの稲妻が落ちたらソレで終わり
なのに比べたら、まだまだまだまだ我が国は寛容で豊かなのに、熱は奪われ文化は枯らされ、逆にガッチガチに締め付けられてそうに見えて案外ユルいところもあるように見える向こうのほうが、表面上物凄く豊かで元気に見える。
隣の芝は何色ぞってとこか。

物凄い本でした。妙に脳に残る顔や文章、番組ロゴが満載で、記憶に残る一冊です!
皆様も是非!!

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