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第1回講演レポート「ビジネススクールは役に立つか?」根来龍之WBS教授

第2回の講演レポートと順序が逆になってしまいましたが、第1回の講演レポートを公開していきます。

第1回は2018年4月19日(木)に、Yahoo! Lodgeにて開催されました。
講演は早稲田ビジネススクール教授 根来龍之教授による「ビジネススクールは役に立つか?」と、岡本匡弘さんによる「MBAは起業活動に貢献するのか?」の2本立て。
今回は根来先生の講演をお伝えしていきます。
[ 2018/07/12 根来先生よりプレゼン資料をいただいたので、スライド画像を追加しました ]

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「ビジネススクールは役に立たない」?

今日、この講演にはビジネススクールの卒業生も来ているようだけど、卒業生は自分が役に立つと思っていれば理屈はいらないですよね。
今回のセッションは、これからビジネススクールに来ようと考えている人、あるいはビジネススクールなんて役に立たないと思っている人へのメッセージになれば良いと思ってます。

ビジネススクールが増えるアメリカ、増えない日本

まず、ビジネススクールの今現在の市場動向について、日米の状況をご紹介します。

アメリカ
アメリカのビジネススクールも色々批判にあっているんだけど、ディグリー(学位)の数は、まだまだ増えています。
およそ1238校という、相当数のビジネススクールがあり、MBA取得者は18万人という数字です。

アメリカの場合は、言うなれば経営系とか経済学部、商学部、そういう大学に進学するのと似たような感じでビジネススクールに進学してると思えばいいです。アメリカの大学は一般教養中心の学校がとても多くて、専門教育は、あまりやりませんので。
したがって、アメリカのビジネススクールは、日本においての経営・経済系の学部教育と似たような位置づけに実際にはなっていると思われます。トップ校はそうでもないですけどね。

日本
日本のビジネススクールについて、まずわかるのは、あまり伸びてないということ。
学校の設置数は増えていないです。だけど入学者数は少しずつ増えている。つまり、既存の学校のいくつかが入学者を増やしてるということです。

入学者を少しずつ増やしてる学校っていうのは、もう誰の目にも明らかで、早稲田大学ビジネススクール(WBS)と、それからグロービス、名古屋商科大学という、この3つです。

WBSは、出願者数については増えてきています。入学者は、我々(WBS)の場合は定員よりちょっと多いくらいです。
入学競争率は、全プログラム平均で約3.5倍。一定の倍率を保っているということになります。この辺はかなり学校経営としては重要なところで…。

…卒業生や、ビジネススクールの入学希望者も、この場にいると思うんですけど、露骨な言い方をあえてします。学校というのは、うまくいくためには優秀な人を集めるのが一番いいんですね。
優秀な人を集めて、ちゃんとした教育をして、より優秀にして卒業させるっていうのが一番、学校経営が上手くいく。
だから、倍率というのは結構重要で、もともと優秀な人を集めれば学校の評価が上がるに決まってるわけです。

ハーバードビジネススクールは大変評価高いけど、それは当たり前で、もともとハーバードビジネススクールには優秀な人が行くからである。その同語反復に過ぎないところもあって、HBSの教育がすごく優れているから評価されているわけでは全然ないんです…と思います、私は。
我々WBSの教育は、ちょっとだけ優れてるんですけどね。(笑)

「ビジネススクール役に立たない論」

「ビジネススクール役に立たない論」、これがどのくらい根拠があるのかというのが今日の話です。

「ビジネススクール役に立たない論」には3つあります。
1番目は、MBA 自身が役に立たない。もうもう根本的にMBAはダメ
2番目は、日本のMBAはダメ。外国のMBAは使えるんだけど、日本のMBAはダメ
3番目は、大企業の幹部だったら役に立つかもしれないけど、起業には向かない。
「起業って、もっと泥臭くて、とにかく足でやってみるほうが先でしょ?机の上で勉強して、なにを起業できるんだよ」っていう議論ですよね。

まず、1番目は、よく言われることで座学と実践があまりにも違うということです。
ビジネススクールで教えていることは常識的だし、基本的にシミュレーションでしかない、座学で学んでるヒマがあったら自分で事業を立ち上げた方がいいよ、という意見ですね。

たとえばハーバードビジネススクールは、もともとあまり理論的なことを勉強しないカリキュラムで、ケーススタディが中心です。なのでシミュレーション中心だという指摘は、一部では当たってるかもしれませんね。

2番目は、日本のビジネススクールは役に立たない論です。
海外トップスクールのMBAと日本のMBAの市場価値は、同じMBAとは呼べないということです。
ただし、こうした批判をしているしている人にも、早稲田ビジネススクールは国内では最も意欲的に改善しようとしていると、一応認めてもらえているようです。

3番目、「起業には向かない」論は、実は1番目と同じようなことを言っていて、座学で知識を身につけるよりも、とにかく行動して経験を重ねることだという批判です。

この3つのビジネススクールについての批判をまとめると、
・教室で勉強してもしょうがない
・日本のMBAはアメリカのMBAに比べて、さらに実務から遠いのでは?
ということになります。

ビジネススクール出身者の活躍

さて、色々な理屈よりも、MBAを卒業した人の実際の活動をご紹介します。

まず世界的に言うと、大企業の社長はMBA出身者がとても多いです。
いわゆるフォーチュン500に載るような大企業のCEOの31%は、MBA保有者なんですね。つまり有名な企業のトップ経営者 3人のうち1人はMBAホルダーということです。

ただし、注意が必要なのが、その出身校です。トップスクールと言われているところに実は偏っているということです。率直に申し上げて、日本の大企業の社長っていうのも、実はいくつかの学校に偏っています。
だいたい10校ぐらいで日本の一部上場企業社長の9割ぐらいを占めます。
10校がどこなのか、だいたい想像つくと思うんですけど…。早稲田も、その10校の中にちゃんと入ってます。

つまり、大企業で結果として社長になっている人にはMBAが結構多い。だから、それなりに役立ってるっていう証明だというふうに思います。

MBAは起業には向かない?

では、よくMBAは起業には向かないと言われますが…。
確かに皆さん方が知っているような、有名な創業者たち(スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、ラリー・ペイジ etc.)は中退者が多いですね。あるいはエンジニアです。しかし面白いことにですね。後継者、あるいは補佐してる幹部はMBAなんですよね。

ここだけ見ると、「確かに起業には向かないけど、それを後継して安定させるのには向いてるのかもね」っていう風に見えると思うんですけど。
実はMBA 起業家も、ちゃんといます。

まず、アメリカのMBA起業家を挙げます。
MBA起業家のスター選手の一人は、イーロン・マスク。実はペンシルバニアの MBAです。
あるいはブルームバーグもMBAです。フィル・ナイトはナイキの社長で創業者ですよね。彼もMBAです。
それからサン・マイクロシステムズの共同創業者の スコット・マクネリー、ウェザーチャンネルのフランク・バートンなんかもMBAなんですよ。
MBAは起業に向かないと言うのなら、こんなにいるはずがない。

じゃあ、ひるがえって日本のMBA起業家は?というと、こちらもちゃんといます。
たとえば、三木谷浩史さん、南場智子さんはハーバードビジネススクールの出身です。
早稲田大学にも最近起業家が増えてきています。この慎 泰俊さん(Gojo & Company, Inc. )という人は国際ビジネス、マイクロファイナンスの国際的な展開をやってる人で、かなり有能な人だと思っています。

日本のMBAは学歴として機能しない?

もともとMBAは役に立たない論というのは、学歴として機能しないというところからはじまっています。
それは当たり前で、日本の労働市場では、経営幹部もメインルートは内部昇進ですから。したがって、MBAの労働市場が形成されていないので、役に立たないように見えるわけです。

実際にはMBAに行った人が、役に立つっていう実感があれば、それでいいわけですけれども。。
我々としては、キャリアチェンジに確実に役に立っているという意識でいます。たとえば企業内昇進、転職、起業、事業継承、進学っていうキャリア形成ですね。

起業へのWBSの貢献

ビジネススクールというのは、もともと実際には起業のためにあるとは言えないんですね。

アメリカでさえも、実は卒業生の起業率はそんなに高くないです。
スタンフォード大は場所柄、結構高いほうですが、それでも16%です。シカゴ大だと、起業している人は3%しかいない。

だから、MBAというのは、どちらかというと大企業の幹部になる人に向いてるんだと思うんですよ。
では起業しようという人には、まったく向かないのかというとそうでもない。
そういう性質を持ってるんだと思います。

そこでWBSでは、どのぐらい起業希望者がいるかというと、2017年の入学者データでは25%ぐらい。実際に卒業時に起業する人は、多い年で15人、少ない年で10人くらいというのがWBSの状況です。
では、どういう起業支援をやっているのかというと、まだまだ不足なんですが科目は結構多くて7科目くらいです。
起業分野の研究教員は5名(東出先生、長谷川先生、根来先生、樋原先生、牧先生)。
WBS起業部という、学生による自主活動もあります。
それから早稲田大学が持っているインキュベーションセンターもあります。ここ(Yahoo! Lodge)ほど立派じゃありませんけど、登記して活動することができます。

実は起業家にどんな能力が必要なのかということは、経営学の分野ではかなり研究されています。たとえば大変有名な研究の一つにダイアー、クリステンセンによる研究があります。
そこでは「リスクをとる」、「ネットワーク力」、「関連付け思考」というような力が必要だと言われています。

この後で講演する岡本さんは、修士論文で「ビジネススクールは起業の役に立つのか」というテーマを取り上げていて、WBS出身起業家にアンケート調査やインタビューを行っています。
その結果を見ると、起業家に必要といわれる「リスクを取る」、「ネットワーク力」、「関連付け思考」にMBAが貢献していることがわかります。詳細は岡本さんの講演で聞けますが、さわりだけお話しします。

リスクをとる
WBS卒業生が起業するときの資金は、意外にWBSのネットワークのなかで調達されていることがわかりました。あるいはWBSのネットワークから紹介されたところから調達しているんです。
だからWBSに来なければ、資金が得られなかったかもしれないという構造があるんですね。

ネットワーク力
営業や、立ち上げの人集めに人脈が大いに使われています。

関連付け思考
ビジネスのアイディアそのものも、ある一定比率、実はWBSの中で得ていたということが、我々のアンケート調査で分かっています。

次回、岡本匡弘さんの「MBAは起業活動に貢献するか?」

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