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[10月第4週] DAOレポート Vol.41 | dYdXチェーン「ユーザーのユーザーによるユーザーのための取引所」へ トレード手数料は全てバリデーターとステーカーに

2023年10月27日、dYdXチェーンがローンチしました。これにより、「ユーザーのユーザーによるユーザーのための取引所」の土台ができました。どういうことでしょう?以下で解説します。

dYdXチェーン立ち上げ前のdYdXは、いわば「ハイブリッド型取引所」として機能していました。ユーザーがメタマスクなどのウォレットを通じて自己資産を管理できるという点では「分散型」ですが、オーダーブック(取引板)のマッチングエンジンはニューヨークに拠点を置くdYdXトレーディング社が運営していました。

dYdXチェーンの導入により、取引板の管理を特定の企業に依存しなくなり、世界中のバリデーターがネットワークを支え、取引記録を共有し合いながらオンチェーンでマッチングを行うシステムに移行しました。これにより、完全な分散化を実現しています。

分散化は、しばしば、スケーラビリティを犠牲にしないと達成できないものとして捉えられます。しかし、dYdXチェーンは、カスタムしやすい独自チェーンをCosmos SDKを使うことにより、分散化しつつもスケーラビリティの高いチェーンを開発することに成功しました。具体的には、現時点で、dYdXチェーンは最大で1秒間に2000回の取引(TPS)を処理可能です。

さて、「ユーザーのユーザーによるユーザーのための取引所」と言いました。先述の通り、dYdXチェーンの取引板を管理するのは、バリデーター(そしてステーキングをするバリデーターを選ぶステーカー)です。具体的にはメモリ内にオーダーブック(すなわち、コンセンサスにコミットされないオフチェーンのオーダーブック)の記録を保存し、他のバリデーターに取引を「ゴシップ」し、コンセンサスプロセスを通じて新しいブロックを提案・生成します。

そして、既存の中央集権的な取引所(CEX)と大きな違いは、トレード手数料を運営企業が受け取らない点です。dYdXの場合は、バリデーター(そしてステーカー)が受け取ります。

出典:Mintscan「dYdXチェーンに参加するバリデーターの一部」

ステーキング原資はトレード手数料

dYdXチェーンのステーキング原資は、dYdXのトレード手数料(USDC建て)であり、メーカーとテーカーの手数料がバリデーターとステーカーへ分配されます。中央集権型の取引所であるバイナンス等と異なり、手数料が運営会社ではなくステーカーに渡る点が特徴です。

他のブロックチェーンと異なり、dYdXチェーンはトークン価格のインフレーションではなく、手数料収入をステーキングの原資としている点が注目に値します。dYdXチェーンでの取引ガス代はDYDXまたはUSDCで支払われ、これもバリデーターやステーカーの収入源となります。

上記で「ユーザーのユーザーによる」取引所の部分がご理解いただけたと思います。誰もがなれるバリデーターとそれを選ぶステーカー(つまりDYDXトークン保有者)に取引所運営の権限が与えられ、実践されます。次に「ユーザーのための」部分ですが、これはバリデーター(そしてステーカー)のガバナンス関連の役割と関係します。

DAOガバナンスへの参加

dYdXのバリデーターは、ステークされているトークン量に応じて投票権を持っており、ガバナンスに積極的に参加することが求められます。ガバナンスによってdYdXの今後の方針を決定するのです。例えば、以下のような事柄が投票の議題としてあげられます。

  • 新しいマーケット(トークンなど)の追加

  • マーケットの削除

  • 取引所が使う第3者の価格ソースのリスト編集

  • 手数料スケジュール

  • トレード報酬のメカニックス

  • トレードやガスの手数料に関するパラメーター

  • ファンディングレートの計算式

コスモスエコシステムでは、トークンを持つ人々にバリデーターの投票決定を覆す権利が与えられています。これにより、トークン所有者が「有権者」としての役割を担い、バリデーターは実質的に「代議員」の立場にあるということが理解できます。

動きの早いクリプト業界において今のルールが形骸化したり古くなったりする可能性があります。その場合、dYdXのバリデーターとステーカーは自らが主体となってそのルールを自分たちに利する方向に変更することができるのです。

今後、dYdXは「パーミッションレス・マーケット」に重点を置く計画です。従来のdYdXトレーディング社が中心となっていた新規トークンの上場審査プロセスを変更し、ガバナンスによって新規トークンの上場・廃止を決定する方式へ移行する予定です。これにより、一定の基準(例えば流動性など)を満たせば、誰でもトークンを上場できるようになり、スピーディなトークン上場が可能となり、他の取引所と差別化を図ることができます。これにより、dYdXチェーンは新たなトレンドを生み出す取引所となる可能性があります。

著者:大木 悠 (Hisashi Oki)/dYdX Foundation
早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、テレビ東京のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。2018年に日本に帰国し、コインテレグラフジャパンの編集長を務めた。2020年12月にクラーケンジャパンの広報責任者に就任。2022年6月より現職。

トレジャリーデータ

DeepDAOによると、10月30日時点でDAOトレジャリーの総額は176億ドルと前週比で6.67%増加した。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が155億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が25億ドルだった。
ガバナンストークン保有者は800万人で、アクティブDAOユーザーは280万人だった。

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