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足骨日記30

最終日を終え、退院に向けて片付けしたり、レントゲンを撮ったり薬をもらったりと慌ただしい一日でした。

今日は退院日の明日はお休みの彼女とのお別れの話

今日もいつものように理学療法士の彼女とリハビリをした。明日が休みだから私は今日でお別れです。とのこと。泣かせるなよ。寂しいよ。と言うと、私のことなんかすぐ忘れますよ。と。
それは逆だろう?と思った。
きっと、そっちの方がすぐ忘れるんだ。と僕は彼女に言った。
私は退院した人のカルテとか眺めたりすることあるし、忘れたりしないですよ。ほら、このおばあさんも私が担当してた人です。向こうは覚えてないけど。と言いながら歩行のリハビリの途中ですれ違ったおばあさんを指した。
でも、俺はかわいいおばあさんじゃないしおじさんだから忘れるんだきっと。僕は繰り返した。
三十代の男の人とか珍しいから逆に忘れないですよ。私は担当するの二人目くらいですよ。とのこと。
ふーん。と僕はすねた子供のような態度をとって病棟の廊下を彼女をつれて松葉杖をついて歩いた。階段の登り降りの訓練を終えてリハビリは終了した。
彼女は少し名残惜しそうにもう一往復しますか?と聞いてきたので、もういいやと答えた。
お礼を言って別れようとしたときに、彼女は僕の松葉杖に巻いてあった包帯がほつれていることに気付いた。

午後から時間空いたときに巻き直しに来ますね。
いいの?
包帯見つけてから後で来ますね!

僕はレントゲンを撮ったり見舞い客と話したりしながらも彼女が僕の病室に来るのを心待ちにしていた。
が、しかし、彼女は一向に来ない。
時計はもう17時を過ぎていた。
僕は彼女が業務に追われてしまい、このちっぽけな約束を忘れてしまったのかと思い、無性に悲しくなった。松葉杖に包帯を巻くなんて家で自分でやればいいんだけど、最後にちゃんとお別れをしてから彼女と別れたかった。
なんなら、やっぱりLINEとか勇気を出して聞いてみようかなとか迷ってみたりしていた。

リハビリの人達はもう帰る時間だからな~。自分にそう言い聞かせた。僕はベッドを片付けながら泣きそうになっていた。
病室の外で聞き覚えがあるスニーカーの足音が止まった。

D山さん、すいませーん。

カーテンの外から聞き慣れた彼女の声が聞こえた。
僕は彼女をカーテンの中に招き入れた。

もう忘れて来てくれないのかと思った。
忘れてないですよ!

僕は彼女をベッドの縁に腰かけるようにベッドの表面を音を立てて叩いた。彼女は最初は遠慮しながらもすいません。と言いながら座ってくれた。
彼女は手際よく包帯を巻き変えた。
その間に俺は歩けるようになるかとか風呂にはいるにはとか色々とこれからの生活について質問して、色々不安だな~と心の声を漏らしてしまった。心配をかけまいと気を取り直して、ヤフー!知恵袋にでも聞いてみるか。と言うと、彼女は僕に向かって微笑みながらこう言った。

私に、じゃなくてですか?

僕は心の中でこう叫んだ。
惚れてまうやろ。

彼女は僕の事をどう思っているのか。
何気なく会話のやり取りで出てきた言葉だろうが、僕には思わせ振りな態度に思えた。

じゃあライン教えて。この一言が最後まで出なかった。

僕は大馬鹿野郎なのか、これが正解だったのか。
もっとこの娘のこと好きじゃなかったら、遠慮なくアプローチできてたと思う。
学生の時以来ぶりに好きになりすぎてなにも出来なかった。

僕はずっと彼女にベッドに座っていてほしかったんだけど、彼女はカーテンを閉めて研修会へと向かっていった。彼女はカーテンの向こうでサヨナラと言った。ぼくもありがとうとだけ言った。

今、病室には彼女が巻き直してくれた松葉杖があって、それが彼女とお別れをした現実を僕に嫌というほど見せつけてくる。

僕が来月から通う外来の病棟には彼女はいない

長きにわたってこの日記を見てくれた皆さんありがとうございました。治るまでたまに書くと思いますけど、ひとまずこれでfinishで。

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