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【火ノ丸 記紀奇譚】第01話 火之迦具土神

 数多あまたの神々を産み続けるイザナキとイザナミにとって、重大な事件が発生する。
新たな神が、赤子が産まれ出る。
その神は全身に炎をまとい、業火の如く燃えいでた。
火の神、火之迦具土神ホノカグツチである。
 その炎は母であるイザナミの陰部を焼き、やがて事切れてしまったのだ。
愛する妻を失ったイザナキは天と地とも境なく、豪雨の如く涙を流し、その手に握った十拳剣とつかのつるぎ天之尾羽張アメノオハバリ」を狂ったように振り回し叫んだ。
「この親不孝ものが!その首、我が手で切り落としてやる」
 一方でカグツチは、わけもわからずに、ただ泣いていた。
しかし、振り下ろされたつるぎが、カグツチの首と身体を真っ二つに分けた刹那。
カグツチの鳴き声は悲鳴に変わり、その断末魔は幾千里もの野山を駆け巡り、やがて辺りは静寂に包まれた。
 イザナキはワナワナと震えていた。
握っていた天之尾羽張アメノオハバリを一振り、息絶えて尚、青白く燃えるカグツチの血を払うと、岩石へと落ちた。
握りしめたつかからも滴り落ちジュッと鳴って消えた。
そして天を仰ぎ見ると、その瞳からは涙が溢れていた。
それは最愛の妻イザナミへの涙か、我が子を手にかけた事への贖罪しょくざいだったのかは、その時のイザナキにも、わからなかったのかもしれない。

…つづく。



この時、『古事記』によれば、カグツチの血から、以下の神々が生まれたとされる。

石折神いはさくのかみ
根折神ねさくのかみ
石筒之男神いはつつのをのかみ
以上三柱みはしらの神は、十拳剣の先端からの血が岩石に落ちて生成された神々である。

甕速日神みかはやひのかみ
樋速日神ひはやひのかみ
建御雷之男神たけみかづちのをのかみ
別名は、建布都神たけふつのかみ
別名は、豊布都神とよふつのかみ
以上三柱みはしらの神は、十拳剣の刀身の根本からの血が岩石に落ちて生成された神々である。

闇淤加美神くらおかみのかみ
闇御津羽神くらみつはのかみ
以上二柱ふたはしらの神は、十拳剣の柄からの血より生成された神々である。

また、バラバラになったカグツチの死体からも、以下の神々が生まれた。

正鹿山津見神まさかやまつみのかみは、カグツチの頭から生まれる。
淤縢山津見神おどやまつみのかみは、カグツチの胸から生まれる。
奥山津見神おくやまつみのかみは、カグツチの腹から生まれる。
闇山津見神くらやまつみのかみは、カグツチの性器から生まれる。
志藝山津見神しぎやまつみのかみは、カグツチの左手から生まれる。
羽山津見神はやまつみのかみは、カグツチの右手から生まれる。
原山津見神はらやまつみのかみは、カグツチの左足から生まれる。
戸山津見神とやまつみのかみは、カグツチの右足から生まれる。

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