アスタラビスタ 6話 part3
「紅羽ちゃんが雅臣と初めて手合せをした時、俺は紅羽ちゃんの強さに驚いたんだ。雅臣が俺に憑依した時、攻撃は俺の意識が、防御は雅臣の意識が担ってる。その雅臣の守りを破って、君は勝ったんだ。それは、憑依者としての俺と雅臣に勝ったことと同じだ」
違う。私はただ雅臣と手合せをしただけ。ほとんどお遊びのような、ルールもろくにない、当事者たちだけが満足する手合せだった。
そこには彼らの世界の、憑依者や身体提供者という概念は一つも存在しなかった。ただ病弱だった、私のためだけの手合せだった。
「きっと君は雅臣と相性がいい。俺みたいな正規身体提供者じゃなくて、圭と同じ非正規身体提供者なら、雅臣と直接個人契約することができるよ。学業との両立もできる」
話が勝手に進められていく。私は一言も発していないというのに、まるでそれを私が望んでいることであるかのように、清水は話を進めていく。
怖いと思った。自分が身体提供者にされるのではないかという恐怖ではなく、ただ単に清水が怖かった。今日の清水はおかしい。普段の彼ではない。近くに雅臣や圭がいないからだろうか……?
いや、私は知っている。清水は私の戦い方に興味を持ったのだ。勝つためなら、リスクをも恐れない。どこまでも勝つことに執着し、人を騙すことも躊躇しない。そんな私の戦い方を見て、清水は私に興味を持ったのだ。
病弱だった私が、そんな戦い方をしたことも、彼の好奇心に火をつけたのだろう。だから彼は、私を自分のいる世界へ引き込もうとしている。
どうしてそんなことが分かるのか。答えは単純だ。
私も、剣道と古武術を習得している清水の戦い方に、興味を持っていたからだ。
私は雅臣と手合せをするのが楽しいだけだった。雅臣と言葉でなくて、手合せで会話をするのが楽しかった。決して私は、彼との手合せから先のことなど考えていなかった。今のままで満足していたのだ。
「紅羽ちゃんはさ、自分の持ってる、その薙刀の強さで、生きていきたいって思ったこと、ない? 俺はずっと思ってた。今の平和な現代で一般人として生きている限り、磨いた武術も身に着けた技も、使いどころなんてどこにもない」
清水の表情が、いつもの柔らかさを取り戻した。
「紅羽ちゃんは、そう思ったこと、一度もない?」
ないわけが、なかった。ただそれは、妄想や想像であって、自分が持っている力は、競技という世界だからこそ、生きていることを知っていた。
それが現実に変わった時、私はその恐怖と痛みに耐えうる精神力も覚悟もない。現実では、私の持っている力は発揮されない。結局は妄想に過ぎないのだ。
「私の強さは、競技の中でしか生きません……」
「そんなことないよ。それはもう証明されてる」
証明されている? 私が「え?」と声をあげると、清水は優しく笑った。
「忘れたの? 紅羽ちゃんは、圭を殺そうとしたじゃない」
……私が雅臣と出会った理由。それは、私が憑依者に憑依されて、圭を殺そうとしたからだ。そんな重要なことを、私は忘れていた。
私に殺されそうになったにも関わらず、許してくれた圭と、気にすることはないと言ってくれた雅臣の言葉に、私は安心して忘れていたのだ。
私は身体提供者として、人を、殺そうとしたことがあるじゃないか。
「圭はナイフで戦う。俺は刀で戦う。長物の武器を扱える紅羽ちゃんが仲間になってくれたら、雅臣はもっと、もっと上に行ける」
清水が顔を赤らめて話す。まるで自分の理想に、酔っているかのように。
「俺は雅臣を押し上げたいだけなんだ」
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