2023年5月28日

青山真治監督の映画『EUREKA/ユリイカ』を観に行った。上映時間は3時間40分。長い。役所広司主演。

これはすごい映画だ。こんなに長い時間の映画、かなり久々なのだけれど、飽きるダレるどころか、目が離せなかった。稀有な映画体験。

演技については、役者全員が凄まじい。九州の方言のリアルさ。私は朝ドラ的方言が嫌いなのだけれど(朝ドラはリアルさよりも聞きやすさを重視しているからちょっとわざとらしい)、それとは対極の、ものすごくリアルな、聞きやすさ度外視の(と私が個人的に思う)九州方言。

冒頭の、バスジャックのシーン。バスジャック犯の利重剛は、かなり利重剛だ。利重剛のすごいところかつ特徴は、普通のおじさんの無害さを出せるところだと思っているのだが、それがそのままに怖さになっていて、ものすごく驚いてしまった。

宮崎将と宮崎あおいの兄妹。彼らは極端にセリフが少ない。ほとんどずっと黙っている。そんな中で、彼らの目の演技は素晴らしい。あれほど目で語ることができるのか、という驚き。それでいて彼らを謎の存在にしている、その目。

そして役所広司。このほどヴィム・ヴェンダース監督の映画でカンヌの男優賞を獲ったそうだが、『ユリイカ』の時点で世界一の役者だったんじゃないかと思う。あんなにも誠実であんなにも悩んであんなにも上手くいかなくてあんなにもかっこつけてしまう人。役所広司が演じることの納得感。役所広司はかっこいい。

さらに、青山真治作品の常連、斉藤陽一郎。私は青山作品は『helpless』しか観てないのだが、これにも出てきた秋彦の役。変わらず軽薄で「普通」で野次馬的で、でも『helpless』から4年後で大人になっている。しかし、だからこそより「普通」で、それによって沢井(演・役所)にバスから追い出される。彼はいつもバスジャックに巻き込まれた3人とは異質である。壁を叩いて言葉なきコミュニケーションをとっている間も、彼は壁と接していないハンモックで寝ていた。

幸せな時間だった。映画自体をまだ消化しきれない。言葉にならない。何度も観たい。奇跡のような映画。

映画を観た帰りのバスで、バスを降りて手を振った子どもに対して、運転手も笑顔で手を振り返した。子どもが去った後も、運転手はけっこう長いことニコニコし続けていた。本当にいいなと思った。これで私の1週間が報われたとすら、一瞬思った(本当は全然そんなことない。もっとでかくて大量の癒しが必要)。

これは今日イチでよかったツイート。私は、こういう、夫婦や恋人や家族でもなく、ただの友達や親友とも少し違う、強いていうなら芸人で言う相方や、K-POPの男性アイドルでいうメンバーのような関係に憧れているところがある。もっと具体的に言うなら、阿佐ヶ谷姉妹とか。その最終的な答えが、「みんなで樹木葬して森になる」、これである。私も、大好きな人たちと森になりたい。でも、彼らにはそれぞれに大事な人がいるという事実、これがつらくて苦しい。

今日もくるりを聴いて泣きそうになりながら寝ます。おやすみなさい。


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