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細胞たち(短編小説)

「…なあ。」

「ん?」

「俺たちなんなんだ?」

「分からん。」

「さっきからずっと、増え続けてないか?」

「そうか?」

「やあ、始めまして。」

「ほら、増えてる。新入り、そこ磨いとけよ。」

「なんだその態度。お前がやれよ。」

「やだよ。新入りなんだから、お前やれよ。」

「お前は俺だろ。俺自身が俺をいじめてどうする。」

「うるせえなあ、とっととやれよ。」

「まあまあ喧嘩はやめなって。」

「大体さあ、誰が誰だか分からないって、不便だろ。」

「…確かに。」

「よし、勝負だ。各々1番自分が強いと思う姿をして、勝ったやつが一番偉い奴だ。」

「望むところだ。じゃあ、出来上がったら見せにくるぜ。」

「じゃあ、また。」

その後、分裂した細胞たちは、各々全く違う進化を遂げた。海の中で王になるもの、海から出るもの、翼を生やすもの。偶然にも、陸、海、空、とそれぞれが思う理想はバラけていた。

細胞たちそのものは死んだが、そこから分裂した細胞が、その意思をついだ。それぞれ、最強たる生命体に進化を遂げようとしたのだ。彼らは、強く、デカく進化した。

しかし、分裂した細胞の中にも、怠け者がいる。強くならなくても構わない、という考えの元で進化するものもいる。

「へへんだ。巨大生物のお残しを貰えれば、それでいいや。」

彼らは弱く、小さく、すばしっこく進化した。お残しをこっそりといただくためには、これが1番なのだ。

さて、デカく進化した彼らだが、当初の目的の、一番偉い奴を決めるというのを忘れてしまっていた。そもそも、陸、海、空でそれぞれ棲み分けが出来てしまっているのだ。今更、統一をしようなんて考えの持ち主はいなかった。まるで示し合わせたかのように、お互いがお互いに手を出すことはなくなっていた。いつしか、競争する気持ちは無くなってしまっていた。

いや、競争心を保っているものもいた。怠け者のグループだ。怠け者達のグループは競争が激しく、馴れ合う事はなかった。お残しには限りがあるからだ。闘争心を持ち、仲間を蹴落とす。これが怠け者達だった。

この後、どうなったか。もうお分かりだろう。陸、海、空の最強たちは滅んだ。地球環境が大きく変わった時、馴れ合いの中で生きていた最強達は、生き残れなかった。たまたま冬眠していた怠け者達は、目覚めて環境の変化に直面しても、逞しく生きていった。

そして現在。最強の生物はまさしく人類だ。怠け者で卑怯で嘘もつく、まさに最強の生き物だ。力が全てではない、戦略とプライドを捨てることが大切なのだ。

「いや、運だろ。」

…そうともいう。

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