見出し画像

スピッツのニューアルバム「ひみつスタジオ」、最高(エッセイ)

スピッツのニューアルバム、ひみつスタジオ皆さん聞きました?最高でしたね。

アルバムジャケットで印象的だった黄色のイメージ通り、優しさとか可愛らしさというテーマが先行。また、メッセージ性の強い歌詞が印象的でしたね。スピッツにしては珍しく、語りかけるような歌詞が多かったような。跳べの「優しい人になりたいよね」とか。

後、心情描写がとても丁寧だった。例えばさびしくなかったでは、「理由を探していたんだけど 影踏みみたいで」と寂しくなる前の心情を説明して、2番では「鈍感は長所だと笑う 傷を隠して」となぜ最初ひとりで生きていくと決めていたのかを説明する。その上で何度も繰り返される「さびしくなかった 君に会うまでは」がどんどん響いてくるし解像度が上がってくるという仕組みになっている。ここまで内面を丁寧に分かりやすく描く事は、今まであまりなかったような気がする。

このメッセージ性の強さや分かりやすさというのは、やはりコロナ禍が影響しているような気がする。というのも、草野さんは911の時に何故歌うのか疑問に思い、考えた結果聞いた時に少しでも心が軽くなるような曲を作ると決めたというエピソードがある。その時に作られたアルバムが三日月ロックになるのだが、このアルバムもやはりメッセージ性がそれまでよりも強くなっている。例えば「諦めないで それは未来へ 微かに残るけもの道」とそれまでなかったストレートな応援ソングが登場する。やはり人類にインパクトを与えた出来事として、コロナ禍の後に出されたこのアルバムと三日月ロックは比較せざるを得ない。

その上で。変わった事として年齢があると思う。より正確にいうなら経験値、という事だ。三日月ロックが出た時、スピッツはデビュー10年を少し越えた段階だった。今はデビューから30年を超えたバンドになっている。色んな事を経験してきたから、どんな事が起きても対応できる強さを身につけたのだと感じる。三日月ロックの最後では、愚直にも「フレ!フレ!フレ!」とリスナーを応援していた。これも素晴らしい事だ。しかし今のスピッツは違う。ひみつスタジオの最後では、めぐりめぐって君に会えた喜びを歌う。この喜びには、僕がいて君がいるのだ。三日月ロックの時は、君しかいなかった。僕の存在は若干傍に置かれた感がある。しかし、ここでは僕と君が出会った事について歌われる。言い換えれば、僕と君が出会う事はとても幸せな事だという事を歌っている。この自信。この自信こそがスピッツが三日月ロック以降に手に入れたものだと思う。

スピッツがライブをするたびに言う言葉がある。「今日は絶対楽しい夜にするから。」言葉自体は毎回違うが、ニュアンスは変わらない。楽しい夜にしよう、とお客さんと共に歩んでいく言葉ではなく、楽しい夜にするというより自分に責任が及ぶような言葉をあえて選んでいる。それは歪んだ責任感ではなく、自分なら(そしてスピッツのメンバーなら)皆を楽しませる事が出来る!という自信に満ち溢れた言葉だ。スピッツは控えめ、というイメージがある。確かにテレビなどで見る姿はあまり前のめりに見えない。しかし、実際はこんなに自信に満ち溢れた、前のめりなバンドなのだ。

ひみつスタジオは最高だ。何故なら、スピッツが自信を持って音楽を楽しんでいる事が伝わるからだ。スピッツのように長く音楽に携わってきたから辿り着ける極地であるし、これだけ長く音楽の旅を楽しみながら続けられるという事は今音楽の旅に出ている人にとっても希望だろう。「秘密のスタジオで じっくり作ったお楽しみ」、堪能させていただきましたし、これからも堪能させていただきます。

Amazon.co.jp: ひみつスタジオ (通常盤): ミュージック
↑ひみつスタジオのAmazonリンクです。

Amazon.co.jp: 過去に失望なんかしないで (Dustpan) 電子書籍: 村井ちりとり: Kindleストア

短編集「過去に失望なんかしないで」発売中!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?