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君とを終えて

さよならで泣けない。

スーツ姿で待ち合わせ場所に早歩きしてくる彼を見て、今までと何が違うんだろう、と思う。
この世には、どんなに願ったって変わらないものがいくつか存在する。

一目惚れをした。

それは二十歳のクリスマス、
もう誰でも良いから、有り余るほど愛して欲しくて
逃げるように眺めていたマッチングアプリ。

深夜二時、湯冷め。

あ、多分わたし、この人と付き合うな、
根拠のない鋭めの直感に任せて右スワイプ。

遊ばれるのも、捨てられるのも
もう慣れちゃったから何も怖くないの。

びっくりするくらい好きになった、
好きはいつも、怖いの対岸からこちらに手を振っている。

お金もないのに夜中に突然ルーレットで行き先を決めて旅行に行ったり、下北沢の居酒屋で隣の大学生軍団よりも大量のお酒を飲み干して、店員さんに引かれたり、ね。

最後はもう付き合うしかなくなって、
なだれ込むように同じ家で暮らすようになった。

それからの毎日は
小さなお花屋さんにお花を買いに行ったり、
目的もなく一番安いレンタカーを借りてドライブをしたりした。

欲しかったら買っちゃうわたしと、
少し遠い業務用スーパーの特売日をいつも記憶している彼って組み合わせも、なかなかよかったと思うよ。

背の高い彼は何を着せても似合っていたなあ。
155センチのわたしの頭によく手を乗せて、
嬉しそうに笑ってたのを、今でも覚えてるの。

別れた原因は、何だったんだろうね。

好きと言ってから、
付き合うという口約束を交わしてから、
わたしたちが、ふたり、になるためにかけてきた時間

今までありがとうって言ってしまったら、
楽しかったよねと笑ってしまったら、

気がつけば壊れた劇場の幕みたいに、
ちょっとの余韻も残さずに閉まっていた。

映画はエンドロールまで観るって言ってたのに、
ほら、まだ、終わってないよ。

改札まで歩く彼の歩幅は、
私の知っているよりすこし広く。

運命なんて、
ずっとずっと信じなければ良かったよ。

最後まで、笑っていた私を
あなたはいつか思い出しますか。

新宿駅、濡れ切ったマスクとぼやけていく視界

二十一歳の私は
きっとこれからも変わらずここで生きていく。

ここに来る度に、
君とのふたり、をいつも思い出しながら。

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