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東京マラソン2021「サブ3」達成記 「楽しむ、信じる、あきらめない」

2022年3月6日。東京は快晴。朝から風が強く、冬の寒さ。コロナ禍で延期となった東京マラソンは、3年ぶりの開催だった。国内外のエリートランナーだけでなく、市民ランナー約2万5000人も参加した。応募10年目にして初めて抽選を通過、出走権を得ていた。
これまでのマラソンチャレンジの全てを賭ける覚悟で臨んだ。
「公認サブ3(3時間切り)」の達成である。まず、結果から…。
2時間57分34秒(グロス)。コロナ禍で公認レースが消える中、自己ベスト更新で、公認サブ3を達成する最高の結果だった。50代最速チャレンジは、なぜ再び達成できたのか?自分の人生に刻まれた、歴史的なレース。
「5Km毎の秘話形式」でお伝えする。

東京マラソン2021の結果(グロス)


スタート地点

コロナで本来は21年10月に開催予定だったレース。スマホを通じた体調チェック、ワクチン接種確認、事前PCR検査…これが「東京モデル」として、市民ランナーが参加できる新しいマラソンの形か?スタート地点は「Aブロック」。何となく遠慮して中段に並んでいた。が、前方から「きょうは4'50で行くよ~」という男女グループの声が…よく見ると、サブ3以上のランナーとは思えない体型の人も…。人をかき分け、前方に進んだ。
9時10分、ウエーブスタート。快晴の空。東京都庁を見上げ、スタートの号砲を待つ。

東京マラソン2021「Aブロック」スタート前

スタート〜5km 20分46秒

スタートの号砲を鳴らすのは、小池都知事。「3年分、思いっきり走って!ゴールした後も走って帰ってくださいー」と軽口。「ゴール後は勝利の美酒でしょ(笑」と、独りごちる。号砲。ランナーが一斉に駆け出す。スタート地点まで近い!ネットとの差、10秒足らず。ついに、始まった。「公認サブ3」のチャレンジが始まった!ピーキングを迎え、体調は万全だ。「燃え尽きるまで、走り続る!」紙吹雪の中、静かに勇躍した。
都庁を離れ、新宿大ガードを抜け、歌舞伎町〜靖国通り。道幅が広く、ランナーとの接触もない。静かな朝だ。沿道の応援も制限され少ない。「新宿のど真ん中を走っているんだ・・・!!」何とも不思議な感覚に陥る。
東京マラソンは、下りから始まる「高速コース」だ。前半は慎重なRUNを肝に銘じていたが・・・テンションが上がり、最初の5kは突っ込み気味で入ってしまった。

5km〜10km  20分30秒

スタート直後。実は、尿意があった。スタート地点で約1時間待ったことも影響したか…「序盤は下りだし、タイムロスは気にする必要はない」と即断。5kmのトイレに駆け込む。約30秒ほどでレースに復帰。「前半は気持ちに余裕を持つことが大事」と言い聞かせた。
外堀り通り中心の区間は平坦なコースが続く。今回は「サブ3のペーサー」はいない。ターゲットになるランナーを探す。30kまで体力温存の作戦を考えていた。すると…見覚えのある後ろ姿のフォーム。今年1月の東京チャレンジマラソンに出ていた(女性)ランナーだ。

ハーフ走で、鮮やかなスパートをかけていたのが記憶にある。リズム良く、4'10/kmで刻んでいる。「勝手にペーサーにさせていただきます(心の中)」これで「何も考えないで走るモード」にセットした。

10km〜15km 20分33秒

秋葉原を抜け、上野広小路の折り返し。ペースは快調。いや、快調すぎる!厚底カーボンを投入したおかげだ。adidasの「アディオスpro2」。反発力・クッション・推進力、抜群の性能だ。正直、サブ3狙い程度のランナーにはオーバースペック。だが、ここまでしっかり試走をして足に馴染ませてきた(約80km試走)刻み込んできた4'10/kmペース感覚で走ると、キロ4を超えるスピードが出てしまう。「速いな…抑えないと必ず後半、脚が売り切れる」なので、ペーサーに見立てていた女性ランナーのペースはありがたい。
が、12Kを過ぎて彼女のペースが落ち始めた。息遣いも荒い。「ありがとうございましたー!(心の中)」追い抜き、前に出た。

勝負の厚底カーボンシューズ「アディオスPRO2」

15km〜20km 20分46秒

日本橋、水天宮を経て一路、浅草・雷門の折り返しへ。4'10/km前後をキープする。サブ3集団は形成されない。向かい風も強い。そして「ターゲットにしたいランナーがいない…」単独走でペースを刻む
18K地点。いつもの「カフェイン200mg入り梅ジェル」を投入。さらに今回、アームウオーマーにタブレットを数粒忍ばせていた。暑さ対策を考慮したもので、東京マラソンのイベント会場で見かけて購入した。ソーダ味がシュワと口の中で溶け、気分転換にもなる。毎回の給水を心がけ、一緒に流し込んだ。そしてエイドのボランティアスタッフの皆さんからの、温かく、静かな微笑みの励ましが、力になった!

5K毎の給水で補給したタブレット

中間点の折り返しは、1時間27分11秒。ペースを上げすぎない意識が働き、想定通りの27分台前半で通過。「これで後半は、余裕をもって1時間29分台でOKだ!」今コースで一番注意が必要な蔵前橋通り~富岡八幡宮の折り返しへ。4つの橋を渡るため、小刻みなアップダウンが往復8回。最初の蔵前橋を登り、下ってきたその時、衝撃の場面が!
先導の白バイが見えると・・・「キプチョゲだ!!キプだ!」前を行く男性ランナーたちが叫んだ。「おおっ!速えーっ!!!」世界王者・キプチョゲ選手の姿が眼前に!どんどん、迫ってくるではないか!「これが、王者の走りか!」それは、一瞬だった。まさに、一陣の風のように…市民ランナーたちの眼前を「あっ!!!」という間に、世界王者は走り去った。


30k付近を先頭で
 疾走するキプチョゲ選手(*知人撮影)

キプチョゲ選手のあと、日本最速・鈴木選手の走りも生で見れた。なんて贅沢な区間なのだろう!スーパーアスリートたちの走りを見届けると、アドレナリンが出まくり。前半の小刻みアップダウンを快調に駆け抜ける。

20km〜25km 20分28 秒

富岡八幡宮の折り返し。清澄通りの往路。とにかく脚を使わない。安定したリズムを刻む。ここでは小柄で派手なウエアと、細身で冷静に刻んでいた2人の男性ランナーをターゲットにして巡航する。程なくすると、背後から「うへっ!あっ!うへっ!うっ…」とおじさんの喘ぎ声が・・・これが結構、うるさく、ストレスを感じてリズムを乱される。「勘弁してよ~」逃げるように、スライドして避けた。

25km〜30km 20分55 秒

追い風もあって、復路もサブ3安全圏内で巡航。厚底カーボン・アディオスpro2も順調だ。脚の疲労はまだ感じない。下町コースが終われば、日本橋を過ぎて「次は銀座だ!」と力が沸いてくる。ここからは、もうフラットコースだけ。「楽に行こう。サブ3は確実に獲れる!」30km以降は壁ではなく「扉」。サブ3どころか、2時間55分台に近づきたい思いが芽生え始めていた。ところが、ここから「地獄の扉」が開こうとしていた・・・。

30km〜35km  21分09秒

30kmを過ぎた。日本橋から銀座へ。33k地点。銀座を通過。「なんて静かで不思議な空間なんだ…」歩行者天国でもない。銀座のど真ん中。貸し切りのようだ。スタートの新宿と同じく、非日常を存分に感じて走る。追い風もあり30kを過ぎても、サブ3ペースを維持できている。「刻め!普通に刻めばいい、このままキープだ!!」銀座のど真ん中で叫ぶ。いつのまにか、ペーサーに見立てた2人のランナーを追い越していた。しかし、この追い風は折り返し以降は…そう、強烈な向かい風になる。この時点でそんなことは、
1ミリも考えていなかった。

35km〜40km 21分59 秒

東京タワーを右手に、芝・増上寺を通過。田町の折り返し。いよいよラスト5Kだ。37kを過ぎた地点、疲労感に襲われた。脚が重い…同時に、強い向かい風を感じた。「またここからか・・・脚が前に出ない!」4'30/kmあたりまで、ペースが落ちた。日比谷公園に近づくと、今度は強烈なビル風が吹きつける。「クソっ、全然、進めないじゃないか・・・」意識が朦朧とし始めた。

「風よけに、前を行くランナーをつかまえなければ!」公園側を単独走で走っていたため、コースの修正をはかる。その時、沿道から声が!「頑張ってください!あと少し、行けますよ!」視線を左に移すとー青いジャージを着た若者だった。ペーサーのように、何度も振り向きながら、沿道を走っている。「行けますよ!!」なんで俺に?知らないおっさんランナーだぜ?と、思いながら「ありがとう!!」と返す。大逆風の日比谷公園を必死の思いで通過した。

40km~ゴール 10分21秒

見知らぬ青年の励ましもあったが、向かい風は相変わらず強烈だ。スパートをかけたいが、キロ5を切るペースで走るので、もはや精一杯。「もっと楽にゴールしたかったのに!」丸の内仲通りに入った。ここを抜ければ・・・!周りのランナーも向かい風にもがきながら、苦しそうだ。「っしゃー!!」と、残り1Kの表示。スパートをかけたのは、左側で苦しそうに走っていた中年ランナーだった。「オレも、あんたに続きたい・・・」でも、脚に力が入らない。
ラストの直線、仲通りが終わり左に折れる。和田倉門のゴールへ。サブ3は確実のはず。「ボロボロでゴールは嫌だ、1秒でも、削り出す!」タイムをコールするアナウンスが聞こえた。SEIKOの大きな時計が見えた。「2時間57分」に入ったところ?「57分台だと!?自己ベストで行ける!」ラスト約200m。「スパートをかけろ!腕をふれ、脚を前に出せ!」ありったけの力を振り絞った。そして、両手を蒼天に突き出した…ゴール!!   

        
2時間57分34秒!
獲った、公認サブ3!!自己ベストでやったんだ、オレは!」

「公認サブ3達成」ゴール直後!(自撮り)

和田倉門のゴールで見上げた、空の青さ。一生忘れることはないだろう

最後に・・・

コロナ禍で始めた「サブ3へのチャレンジ」。今回の東京マラソン2021全体の中で、己の「現在地」を記しておく。
総合620位(1万5050人中)50歳〜54歳 56位(3829人中)

東京マラソン2021 個人記録より抜粋

2020年11月、2022年1月に東京チャレンジマラソン主催の河川敷「非公認レース」では、サブ3を達成していた。しかし、やはり「公認サブ3」の奪取は、その価値と重みが違う。とことんこだわって、日々の練習を自らに課してきた。そして、東京マラソンは10回連続落選。今回、初めての出場権を奇跡的に得た。「東京で必ず獲りきる!」執念の炎は、消えることはなかった。そして、名実ともに「サブ3ランナー」になった。


「楽しむ、信じる、あきらめない!」
50代最速のチャレンジ、新しい扉
が開かれた。



最後に、レース開催・運営に携わったすべてのみなさまに
感謝を申し上げます。
ありがとうございました!

東京マラソン2021 完走メダルと共に


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