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「読み終わったあと本棚にしまってしまう本ではない」 あのフランク・チキンズのカズコ・ホーキさんが、林央子著『つくる理由』を読んで感想を送ってくださいました!

 フランク・チキンズは、82年にカズコ・ホーキを中心にロンドンで結成された日本人女性たちによるグループ。シングル〈We Are Ninja〉はNMEのインディ・チャートで8位にランクイン、83年にはザ・スミスのサポート・アクトとしてUKツアーに同行! 89年には英TVでカズコ・ホーキがMCを務める『カズコズ・カラオケ・クラブ』がスタート。グラストンベリーフェスティバルにも、1986年の第二ステージ出演をはじめとして数回出演。2010年にエジンバラ・コメディ・アワードを受賞と、類まれな活動をされてきた。DU BOOKSで先月刊行した新刊『わたしはラップをやることに決めた』でも、初期女性ラッパーとしてフランク・チキンズが取り上げられている。
 また、カズコ・ホーキさんは、音楽だけにとどまらず、ロンドンを拠点にアニメーター、ディレクター、パフォーマー、作家、演劇とマルチな表現を、渡英40年を過ぎる今でも続けている。今でいうとミランダ・ジュライのような表現の枠にとらわれない活動を続けてきた先駆者でもある。
 90年代初頭には『花椿』でコラムを連載しており、林さんとは30年来のつきあい。以下に、カズコ・ホーキさんが送ってくださった『つくる理由』の感想を掲載します。

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 素晴らしい本だ。日本に住んでいた若い時にこの本に出会っていたらずいぶん気持ちが楽になっていただろうと思う。

 小さい頃から、描くことやら、書くことが好きで、大きくなったら「芸術家」になりたいと思っていた。でもその頃の日本で言う芸術家とは、一つのことに精進して、功なり名なりを遂げ、最後は勲章でしめる、と言うパターンの人たちだった。私は一つのことに精進することは苦手だったし、功なり名なりというのもピンと来ず、勲章は冗談のように聞こえた。自分のなりたいものになれないもどかしさで、私の日本での青春時代は鬱屈としていた。

 イギリスに来て、自称アーテイスト、でも精進、巧妙、勲章、全部に縁の薄い、しかしとにかく作ることが好きで、しかも自分の作ったもので世界を動かしている気になっているひとたちがうようよしている世界に入り込み、一緒になにか作っているうちに、そうか、自分も作ることが好きなのだ、世界を動かしている気になりたいんだ、ということがわかってきて、いつしか実験的なパーフォーマンスやら演劇を作るアーテイストになっていた。この本はそういう人たちのための本だと思う。

  この本の中で扱われているアーテイストは、皆、 作ることと生きることが重なっている人たちに思える。生きるためにはいつも新しい空気がいる。彼らは、その新しい空気を自分たちで作っていっている人たちだ。頼もしいなと思う。
 この本は、読み終わったあと本棚にしまってしまう本では ない。何かを作る場所の片隅に置いておいて、時々、煮詰まった時や、気を休めたい時に、パラパラとめくる本だ。はっと目を見開かせる文章が詰まっている。

 例えば、「インターネットによって何にでもアクセスしやすく、極端なことに走ることも可能になった今のような時代こそ、大人も子供も遊ぶ力こそが生きる力になっていくのかもしれない。」
 例えば、「信じるものを、自分の感覚以外のものに置いた時、人の心に不安が忍び寄ってくる。」
 例えば、「人と話をするということ、人の話をきくということ、きちんとそれを行うということが、今本当に大事なことなのではないか?」
 例えば、「優れた情報の発信者は、受け手より高い位置に身を置こうとはしない。常に水平の場所にいて、そっと波を起こしているだけなのだ。その波がいろいろな岸辺に届いて、また波を送りかえしてくれる。送り返された波がかさなって、うねりになる。ささやかな波が集積された時に、それはどれだけの破壊力を持つだろうか。」
 例えば、「現代において彫刻とは作るものというよりは、見ることなのだ。事物を素材として見る時、その視点は自由で、いろいろな立場を取りうる。その制作行為は、わたしたちに見る自由、視点を持つ自由、つまりは考えることの自由を伝えてくれる。」
 例えば、「コラージュをするとは、小さなアクションの繰り返し、もしくは積み重ねで、大きなものに対抗すること。」

 書き写しながら、胸がスッキリしてくる文章だ。頭の中で固まっていたこだわりがスッと溶けていくような。林さんの世界の見方は、潔くて気持ちよく、わかりやすくてホッとする。ずっと付き合っていきたい人と本だ。

文:カズコ・ホーキ

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ホウキカズコ:1982年、フランクチキンズ発足、5枚のアルバムをだし、世界各国をツアー。1998年から演劇制作を始め、英国芸術庁の支持を得て、数本のソロ作品、および共同制作作品を作り、世界各国で公演。現在、イギリスに長く住む日本女性とのインタビューをもとにして作った展覧会とパーフォーマンスのプロジェクトTsunagu/Connectに関わっている。次のプロジェクトは、ユダヤ人移民でボクシングの父とみなされるダニエル・メンドーザを扱ったコミュニテイー・ショーが春に公開される予定。

イギリスで生活した2年の間、ホーキさんになにかとお世話になった。

文・林央子

 ホーキさんはとても聡明な人で、こちらの話をしっかりと聞いてくれて、端的な言葉で問題を突き止めてくれる。
 そして、何かできることはないかしらと一緒に考えてくれる。
 異国のイギリスで、いろんな人の心をホーキさんが支えているんだろうな、と想像がついた。

 イギリスからは2年目の秋に突然帰ってくることになったけど、ちょうど大学院での研究生活においてちょっとこじれたことがあって、靴紐に自分ではほどけない頑固な結び目ができたまま、靴を持ち帰ってしまったような感じだった。

 ホーキさん異文化体験をもとに書かれた『イギリス人はつらいよ』(ネスコ/文藝春秋)を手に取って、イギリスと日本の文化差についてよんでいくうちに、頑固な結び目だと思っていたものがすーっとほどけていくのを感じた。
 別れ際にお預けしてきた自分の本に、こうしてお言葉をいただけたことは本当にありがたく、感謝しております。

 どうもありがとうございました!

つくる理由帯あり - コピー

つくる理由
暮らしからはじまる、ファッションとアート
林央子 著
四六・並製・312頁
ISBN: 9784866470832
本体2300円+税
https://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK233
<目次>
イントロダクション 日々生きる知恵を、アーティストの作法に学ぶ
第一章 生と死、そして家族を見つめて
・始まりの感覚をつかむため 青木陵子
・死をポジティブに変換するため 竹村京
第二章 着ることは、生きること
・内省からはじけるクリエーション/ 暮らしをつくり、服をつくる 居相大輝
・インターネットを駆使し、遊びながら生きる 山下陽光
第三章 形あるものをつくらない
・見えない敵と戦いながら、自分たちの居場所をつくるために PUGMENT
・世界を編集しながら生きる力 田村友一郎
・「おかしみ」を味わう場をつくるため L PACK.
第四章 価値を問う
・世界をコラージュする方法 金氏徹平
・暮らしに生きる芸術に光をあて、問いを放つ 志村信裕
エピローグ つくりながら生きる生活へ
林央子(はやし・なかこ)
編集者。1966年生まれ。同時代を生きるアーティストとの対話から紡ぎ出す個人雑誌『here and there』を企画・編集・執筆。資生堂『花椿』編集部に所属(1988~2001)後、フリーランスに。自身の琴線にふれたアーティストの活動を、各媒体への執筆により継続的にレポートしてきた。2011年に刊行した『拡張するファッション』は、ファッションを軸に国内外のアーティストたちの仕事を紹介し、多くの反響を呼ぶ。同書が紹介した作家たちをふくむグループ展「拡張するファッション」は2014年に水戸芸術館現代美術センター、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館を巡回。公式図録『拡張するファッション ドキュメント』をDU BOOKSより刊行。 2020年には「写真とファッション 90年代以降の関係性を探る」(東京都写真美術館)を監修。2020年秋からロンドンのセントラル・セント・マーティンズ大学院で展覧会研究を学ぶ。


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