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2拠点生活のススメ|第182回|「書く」ということ

その昔、ソクラテスは「書く」ということを拒絶していたらしい。

その理由は「書く」ことで、記憶や会話というものが失われてしまうことを恐れたからだという。それだけ「書く」という行為は、人間にとって大きな変革だったんだろうな。

やがてグーテンベルクの印刷技術の発明によって、「書く」という行為が個人の手を離れ、多くの人々で共有できるようになり、世界は大きく変化した。

さらにデジタル社会が到来して、ソクラテスのいう「記憶や会話」はクラウドに蓄積され、瞬時に世界を駆け巡るようになった。けれどSNSの世界においては「書く」という表現が、写真や映像、さらにはそれを評価する記号に置き換わりつつもある。

今後、脳の信号が直接コンピューターや機械を動かすといった新しいコミュニケーション手段の開発によって、「書く」ことによる表現だけでなく、言語そのものが意味の無い物になっていくのかもと囁かれているようだ。

そんな馬鹿な、と思うけれど、今や言葉で命令して機械を動かすなんてことも当たり前。これまでの文明の進化を考えると遠い未来の話でも無いような気がする。

すでにスマホの無い暮らしを考えられないように、人間の脳はすぐに順応して、過去のことを忘れてしまう。けれど、一方で文明が進化することで失ってしまった人間の能力もたくさんあるような気がする。

一旦進み出してしまうと、後戻りするのは難しいものだが、せめて「書く」という行為だけは、守っていきたいものだ。

参考:知の逆転・ジェームスワトソン他 吉成真由美(NHK出版新書)

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