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2拠点生活のススメ|第228回|ドライブマイカー

村上春樹原作の映画「ドライブマイカー」がカンヌで4冠を取ったらしい。

これまでもたくさん村上春樹の作品は映画化されてきた。その度に気になって見に行くのだが、残念なことにいつも何だかな〜という気持ちになる。小説を読むことと映画を見ることのギャップがどうも埋められない。

村上春樹の作品を読んでいると、具体的な映像のイメージが浮かんでこない。うまく説明できないけれど、行間に映像では表現できない独特のニュアンスを感じる。村上春樹作品は、映像化に向かないのではないかと個人的には思っている。

村上春樹作品に限らず、原作を読んでから映画を見に行くとなぜだかしっくりこないことが多い、それってどうしてなんだろうか。本を読むという行為が映像を見ることと、脳の全く違う部分を使っている気がする。映像によって固定化されたイメージと本を読んだときの映像ではない独自のイメージとの翻訳のような作業が頭の中で上手くできないためだろうか。


村上春樹との出会いは、今から35年ほど前。当時バックパッカーとしてネパールのカトマンズに滞在。雨が続いて安宿にほぼ缶詰状態になっていたときに、退屈凌ぎで近所の古本屋を覗いて見た時のこと。自分と同じようなツーリストが手持ちの本を売っていくのか、数冊の日本語の本を発見。その中に「1973年のピンボール」を見つけた。

読み進めるうちに、社会と接点を持てずにいた根無し草のような自分が主人公の姿とダブって、まるで自分のことを書いた本のような気がしてきて、すっかり村上春樹の世界の虜になった。初期の三部作と言われる「風の歌を聴け」「羊をめぐる冒険」とこの「1973年のピンボール」は、今読んでも胸がざわつく感じがある。

オウム事件以来、村上春樹が描く世界は、社会との接点を意識したものへと変化し、初期の作品とは雰囲気が変わってしまったが、今でも新刊が出ると買わずにはいられない。

しかしこと映画ということになると、二の足を踏んでしまう。カンヌ4冠という宣伝文句に釣られて見に行きたい気持ちが高まって、原作を読み返してしまった。見に行くなら読まない方が良かったかなと少し後悔。

やっぱり映画館で見るのはやめて、サブスクに降りてくるのを待とうかな。

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