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2拠点生活のススメ|第255回|文章に触発され立ち上がるリアルな臭い

とあるキッカケで、田口ランディさんの小説「コンセント」を読み始めた。

この本の中で、主人公の女性「ユキ」が兄の死を境に、人間の腐っていく臭いに取り憑かれ、街を歩いていても、電車に乗っていても、臭いとは言えないようなものの中から、腐敗した血と肉の臭いを嗅ぎ分けるシーンが出てくる。

その表現があまりにも生々しくて、自分でもその臭いを感じているかのような気分になってくる。

もともと私自身、臭いにはかなり敏感で、特に人工的な香水や芳香剤などのキツイ臭いが大の苦手。最近は、洗剤や柔軟剤を始め、消臭剤に至るまで、臭いをまき散らすものが多すぎて、辛い思いをしている。

いくらキツイ臭いで隠しても、その奥にある腐敗臭や糞尿臭を感じ取ってしまうし、臭いが入り交じることで余計に気持ち悪くなってしまうのだ。


この本を読み始めてから、私も何か死臭のようなものに取り憑かれている。

ひょっとして、小説の世界の臭いがリアルに立ち上がっているんだろうか。

先日来の大雨で、海に川の水が大量に流れ込み、葦などの植物が細かく砕かれて、波打ち際にたくさん打ち上げられている。時間が経つと腐ってくるのか、そうした植物に何らかの虫が発生するのか、理由は良く分からないが、何とも言えない臭いが漂う。

あからさまな腐敗臭というのではなく、独特のすえたような臭い。気にならない人もいるのかも知れないが、海から上がってしっかりシャワーを浴びて帰っても、ふとした瞬間にツメの間や髪の毛の中からその臭いが立ち上る。ホントにかすかな臭いの粒子のようなものなのだが、それがだんだん死臭のように感じてくる。

臭いというのは、不思議なもので記憶と密接に繋がっている。

ある臭いを嗅いで、ふと昔の出来事を思い出したりすることはあるけど、文章などのイメージから、実際に臭いが立ち上がるなんて事があるのだろうか。

記憶の中の臭いって、リアルに今嗅いでいるように現れるわけでは無い。頭の中で確かにその臭いは立ち上がっているけれど、それは臭いそのものでは無く、臭いを示す記号のような物。

読んでいる小説に触発され、記号のように立ち上がった臭いが、リアルな臭い(海の葦)のチカラを借りて、死臭へと変化しているということなんだろうか。

こんな不思議な体験は始めて。 これは幻覚ならぬ、幻臭とでもいうのだろうか

恐るべし、田口ランディ。

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