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「コンパウンドスタートアップ」の潮流が話題になる中、スタートアップ初期の複数プロダクトは是か否か。バンカブルの例を元に考える。

弊社バンカブルは、最初のサービスとして広告費の4分割・後払い(BNPL)サービス「AD YELL」をリリースし、第2弾として仕入費を支援する「STOCK YELL」をリリースしました。

STOCK YELL立ち上げ背景については、こちらのnoteに記しています。

事業立ち上げ期は単一プロダクトに集中すべきだというのが教科書に沿った考え方ですが、近年、創業時から複数プロダクトに取り組む「コンパウンドスタートアップ」が登場しています。

2022年6月にAD YELLを正式ローンチした約1年後に、2つ目のサービスをリリースしたことになる弊社。創業と同時に2サービスを始めたわけではないですが、初期に複数サービスを展開している会社の経営者として、スタートアップの複数プロダクト展開への僕の見解を書いてみたいと思います。

「単一プロダクトに集中すべき」が原理原則であり、大前提

初っ端から結論を申し上げるようですが、個人的には大前提として「単一プロダクトに注力すべき」という考えを持っています。

その中でも究極的には、カンファレンスにも行かず、いろいろなリサーチもせず、ファーストプロダクトのPMFに集中すべき。初期のスタートアップは、盲目的に取り組んだほうが絶対にいいだろうと思っています。隣の芝生って青く見えるものですからね。

コンパウンドスタートアップとして複数プロダクトを同時に走らせられるのは素晴らしいことだと思いますが、それを可能とするには一定の人とお金というリソースが必要。上手くやれている会社は、その条件が整っているからであり、どんなスタートアップにも適用できる再現性はないと考えています。

コンパウンドスタートアップがこれからのスタートアップにとって良い経営であるという点において、僕としては懐疑的な見方をしているのが正直なところです。

「STOCK YELL」リリースに踏み切った理由

初期スタートアップが複数プロダクトに取り組むことを、基本的にはおすすめしません、というと、「じゃあ、バンカブルは?」となるでしょう。

STOCK YELL立ち上げ時にnoteにも書きましたが、STOCK YELLはAD YELLを出した当時から構想のあったサービスでした。一定ホリゾンタルなサービス設計を前提としたいという思想があり、AD YELLのみに留まるつもりはなかったんですね。

複数プロダクトを展開するには、2つの軸があると思っています。
1つは、とあるサービスを作って顧客基盤を整え、そこに違った解決策としてのサービスやプロダクトをアドオンしていくことで一気に広げていくという軸。具体的な社名を挙げると、ラクスルさんがこのパターンだと思っています。

2つ目は、同じペインに対して、アプローチ方法を変えて別サービスを展開するというパターン。弊社はこちらです。STOCK YELLが解決できるペインは、AD YELLと同じで、そのアプローチが、広告費なのか仕入費なのか、というだけの話なんですよね。

あと、単一か複数かどちらの路線を選択するかの弊社の判断の背景としていえるのは、MVVを壮大な世界感の実現に設定していので、単一プロダクトサービスのみの事業展開では、しTAM、SAMが限定されるため、株価を引き上げ続けるのは限界があるということです。

なお、STOCK YELLに着手するにあたり、業務フローや資金をAD YELLと重ね合わせられるというのも踏み出せた理由でした。サービスが2つになっても、経営リソースやオペレーションは複数にならず、既存で回せる状況だったんです。であれば、複数をやってもいいのかなと思います。業務フロー、資金がすべて別になるのであれば、手を出すべきではないかなと思いますね。

いつ、2つ目に取り掛かる?~弊社の場合~

当初は王道で、AD YELLで一定の顧客数や事業KPIを決め、その基盤が盤石にできたらSTOCK YELLに取り掛かろう。そして、STOCK YELLの基盤を作れたらその次に…と、順々にしっかりとやっていく設計をしていました。

で、結果はというと、思ったよりも早く着手した。

今でも、教科書通りの当初の計画が間違っていたとは思っていません。じゃあ、なぜ早めたのか。その理由は感覚的な話になってしまうんですが、目の前に困っているお客様がいて、その困りごとを解決して対価を得られる状態があるなら、まずはやってみようというスタンスのほうが、スタートアップは早く成長できると思うんですね。

結果的に収益も得られるし、やってみてわかることもある。すべて教科書通りにやることが是ではないという感覚になってきてしまったんです。それで、そのスピード感でわかったことを次に活かせて、結果ローンチすればいいじゃん。「なんで顧客数が1,000いかないと次に手を出しちゃいけないんだっけ」みたいな本質的な議論に行き着いたんです。

で、先ほども申し上げたように、同じペインに対してサービスという軸を切り替えることで解決できるので、新サービスを動かそうとしたときに業務フローや規定といった立て付けをあまり変えずに展開できる状況にあった。それで「もう出しちゃおう」と時期を早めたという背景がありました。

実際、すでにAD YELLのお客様からも「仕入れ版はないんですか?」と問い合わせも受けている状況でもありましたしね。機会を逃さないほうがいい、スタートアップとして重要なフェーズだなと思いました。

弊社の場合、AD YELLもSTOCK YELLも解決したい困りごとが「資金繰り」と同じなので、リソースの割き加減は可能な限り同じです。この2つのサービスは、どちらから入ってもクロスセルしやすい状態なので、同時並行で進めています。これは戦略次第で、意図的に2つ目のプロダクトに力を入れたい場合は、その限りではないでしょう。

また、同じリソースを使えると説明しましたが、法令上の解釈や押さえるべきポイントには違いがあるため、一部STOCK YELL用のマネジメントを別に走らせています。

単一プロダクトに集中、が大前提。でも、湧いてきたアイディアは据え置かなくていい

多くの企業を支援している弊社ですが、お客様でもコンパウンドスタートアップは少ない印象です。繰り返しになりますが、初期スタートアップの原理原則は単一プロダクトへの注力であり、複数を同時に始めるのはあまりおすすめできません。

ただ、だからといって、アイディアが湧いてきたときに据え置くことはしないでいいと思っています。これはスタートアップならではでしょうね。

当然、まずは注力すべきサービス・プロダクトに向き合って、必死にPMFをしてデリバリーをする。でも、「こんなこともできるじゃん」と思ったときに「一旦それはいいや」「今は優先順位が違う」と検証すらしないのは実は良くないと思っているんです。

多少リソースを割いても、経営は傾かないので、1本目のプロダクトがPMFしているのであれば、まずは考えてみる。何があるかわからないなと本当に感じるんですよね。初期スタートアップは新規事業担当をおけるフェーズじゃないので、足元の事業に集中しすぎるあまり、湧いてきたアイディアを検証せずにスルーしてしまうのは、オポチュニティーを逃すなと。

初期スタートアップにおいては、めちゃくちゃ忙しくてマルチタスクだけれども、プロダクトやサービス設計を考えるのが大好きで、休日にも考えてしまうという人がいるかどうかは結構大切なんじゃないかと思いますね。

ただ、1つ目のプロダクトがPMFし切っていないタイミングは、時期尚早すぎです。戦略的にそういう経営スタイルでやっていくと決めていない限りは、湧いたアイディアをノートに記しておく程度にとどめ、一旦は我慢したほうがいいと思います。

あと、アイディアが複数出てきた場合は、さすがに優先順位を付けるでしょうね。スーパーマンみたいな人もいるかもしれませんが、そちらのほうが特殊なパターンでしょうから。ただ、優先順位決めにはルールがあるわけではなく、戦略次第だと思います。上場がプロセスにある会社は一定の判断基準があるでしょうし、クローズドにオーナーが粛々とやる場合はすべてに手を付けるかもしれませんし、株価に1番反映するのは何かと考えるケースもあるでしょうしね。

結局、「やってみてわかること」は多い

どのようなタイミングやきっかけが、複数プロダクト展開のトリガーになり得るのか。これって、難しい話なんです。言い方は雑になるんですが、やっぱりやってみてわかることは多い。これに尽きるかなと思います。

1つ目のプロダクトをやっていてわかるニーズもありますし、そのニーズを機にアイディアが湧くこともある。じゃあ挑戦してみるのか。経営リソースは分散するし、マネジメントも大変になる。でも湧いてきたアイディアを試してみたい。そこで「試すべきフェーズだよ」と言い切れるかどうかではないかと思います。

正直、複数になると難易度はすべて上がります。その難易度は1つ目との違いが何かによっても違いますが、とりあえずリソースマネジメント、特に人ではなく資金に関しては格段に上がります。あと、弊社の場合はプロダクトではなくサービスなので法人格は同一ですが、結果的に法人格も変えていくケースでは、それを任せられる人の採用、アサインも必要となるでしょう。

今回のまとめ

複数プロダクトを手掛けるのは、TAM、SAMを考えると理にはかなっています。ただ、初期スタートアップが念頭に置いてコンパウンドスタートアップとして経営をするのは、現実的に再現性の難易度が高いことだと思います。

やはり、大前提は単一プロダクトに注力すること。ただし、1つ目のプロダクトがPMFしたあとのタイミングであれば、2つ目のアイディアも検討する柔軟性を持つことが大切だと思います。