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【あお】ルカクはチームに適応していない?

2021年夏の移籍マーケットでチェルシーに”復帰”以来したロメル・ルカク。

チームの大黒柱として期待されたのに反して、最近では本領発揮には至っていない。終了間際にハキム・シィエシュのゴールでなんとか勝ちを拾った26節クリスタル・パレス戦では、『Opta』の統計が開始された過去19シーズンの中で最低となる90分間で7回というボールタッチの少なさを記録した。

「ルカクはチームに適応していない」という声が立つようになり、古巣であるインテルに戻るために減俸を承諾したなど噂が上がりだした。

彼は本当にチェルシーに、トゥヘルサッカーに適応していないのか?

「システムの問題ではないよ。彼のためにシステムを変更することはない。」

パレス戦後のインタビューでルカクのパフォーマンスについて「システムのせい?」と質問されたトゥヘル監督は「システムの問題ではないよ。彼のためにシステムを変更することはない。」と答えた。

ネガティブな意味ではなく、後には「我々は常に4-1で攻撃する。ビルドアップでは3-2でやることもあれば、4-1でやることもある。彼にとっては何も変わりはない」と答えた。トゥヘルはルカクにもその他の選手にもタスクをフォーカスすることで集中しやすい環境を作っている。

「もう一度言うが、なぜ彼を獲得したんだろうか?」

アーセナルのレジェンドであり、現在はルカクの母国ベルギー代表のアシスタントコーチを務めるティエリ・アンリは『CBS Sports』のインタビューで疑問を投げかけた。

「最初から『彼はこのチームにフィットするのだろうか?』と疑問があった。ロムがチェルシーの戦術に適応するには時間がかかるし、簡単なことではない」と明かし、現状を嘆いた。

その後もアンリは「解決策はあるんだろうか? 彼がチェルシーのプレーに適応できるような解決策だ。チェルシーはプレスを好み、アクティブで3トップの位置を入れ替えることを好んでいる。だが彼は真ん中にいるのが好きだから、状況に適応するのがとても難しくなる」と見解を述べ、最後に「もう一度言うが、なぜ彼を獲得したんだろうか?」と言葉を残した。

これに関しては、トゥヘルのインタビューで答えは出ている。ルカクの現状は、システムのせいではない。

前からのプレスと流動的でオートマチックな前線の動きにルカクが適応していないというのは、ルカクに対する過小評価ではないだろうか?

インテル時代から、なんならマンチェスター・ユナイテッド時代から、彼が前線から相手ビルドアップに率先して詰め寄り、周りの選手がプレスをかわされると大きなリアクションで悔しさをあらわにするシーンは、サッカーファンなら脳裏に焼き付いているのではないだろうか。

真ん中にいるのが好きだから適応が難しいというのも、いささか疑問である。そもそもチェルシーの前線に真ん中に構える選手がいないのは、それができるフィジカルがなかったからで、それをできる選手を求めてルカクを獲得したのだ。

実際、ルカクの復帰戦になった第2節アーセナル戦などでは、ペナルティアーク付近を力で制圧。久しぶりのプレミアリーグにかかわらず、背負ったディフェンダーをものともしない圧巻のポストプレーを見せた。

その流れから自身でプレミア復帰ゴールを決めるなど、その適応力の高さを証明していた。

「ロメルはプレッシャーや逆境に対応できる」

ここまでの振り返りで、彼の現状はやはり彼自身にあるものだと窺い知れる。

最高の復帰を果たしたルカクの変容は10月の負傷離脱からの出場機会減と、ルカクの『スカイスポーツ(イタリア版)』での監督批判とも取れる発言が問題視されたあたりからだった。

シーズン序盤に見せた圧倒的なフィジカルとスピードは鳴りを潜め、クラブW杯ではアルヒラルやパルメイラス相手に背負った状態でボールロストされるシーンが目立った。彼の最も得意とするプレーでだ。

誰が見てもおかしな話だった。世界でもフィジカル面の強度の高さで知られるプレミアで数々の相手を背負ってきたルカクが、アジアや南米の選手を相手に背負えないどころか、ダイレクトでボールカットされカウンターを招く。

パルメイラス戦に関していえば、パルメイラスは常にチアゴ・シウバからルカクへのパスルートを120分あけ続けていた。まるでそこにボールが入れば怖くないかのように。

ルカクの復調は適応力のなさでも、システムの問題でもない。彼のコンディション次第だ。

誰にでも不調な時期はある。クリスティアン・プリシッチも加入3年目である今になって覚醒を迎えている。

加入直後にすでに本領を発揮してくれたルカクだけに、「早く本来の姿を取り戻せ」という声が上がってしまうのも無理はないが、とにかく信頼して待てばいいと思う。

現状、「ルカクが使い物にならない選手」なわけではないことは明白だろう。不調であっても出場機会が与えられ、ベンチには確実にいるのだから。

そして「本当に使い物にならない選手」をベンチに置いたりピッチに立たせるほど、我らのボスであるトーマス・トゥヘルは優しくないのだから。

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