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街風 episode.4.5 ~お届けもの〜

 「もしもし、ダイスケさんですか?」
 
 「どうしたの?」

 「無事にお花を届けに来たんですけど、サンドウィッチが余っているらしくて、素敵なお客さんも一緒で、店主の方も"良かったら、ご一緒にいかが?"って言われて、でも配達あるし、けれどサンドウィッチも美味しそうで...」 

 「マナミさん、落ち着いて。」
 「ああーすみません!」

 「そっかー。“道路が混んでいる”なら仕方ない、配達から戻ってくるのは2時間後くらいだねー。こちらはお客さんも少ないから、ゆっくりと帰りを待っているよ。」

 「ありがとうございます!」

 そう言って、電話が切れた。

 マナミさんはノリが作ったサンドウィッチが本当に大好きだ。今日は定休日だからサンドウィッチを食べれない日なのに、ノリがマナミさんに"お店のお花を取り替えたい"と提案して、定休日の今日に配達をお願いしていた、新しいサンドウィッチを準備して。

 僕は、だんだんと夕陽に染まってきた軒先をぼーっと眺めて、マナミさんの帰りをのんびりと待つ事にした。すると、1匹の野良猫がお店の前にやってきた。どこかで見た子だなあと思って記憶を辿っていったけれど、どうにも思い出せない。その猫は、店頭に飾ってある花たちの前にちょこんと座ると、不思議そうにその花たちを眺めていた。そして、すっと立ち上がったと思ったら来た方向とは逆の方へ歩いて去っていった。今日の午後はのんびりだなあ。

 「すみませーん。戻りましたー!」

 マナミさんは元気いっぱいの笑顔で戻ってきた。花を入れていた紙袋は行きよりも膨らんでいる。

 「お届けものです!」

 そう言って、マナミさんは紙袋からサンドウィッチを取り出して、僕に見せてきた。

 「じゃじゃーん!ダイスケさんも食べたがっていたサンドウィッチですよー!カフェの店主の人がお店の人にもどうぞって言って持って帰らせてくれましたー!」

 マナミさんはキラキラとした目でそう言った。

 「よし。お店閉めたら食べようか。」

 そう言って、僕はマナミさんから紙袋を受け取った。

 そのまま閉店時間まで、僕とマナミさんはお花の手入れをしつつお客さんの対応をしていた。お店の外に出ると、暗くなった街に吹く風に冬が迫っていることを感じた。お店を閉めて片付けをしてから、僕とマナミさんはバックヤードに戻っていった。サンドウィッチを温め直して、コーヒーを2杯淹れて、小さなテーブルを囲むようにイスに腰掛けた。マナミさんは早く食べたくて目を輝かせながら、両手を膝の上に揃えている。

 「では、いただきますか!」

 僕とマナミさんは手を合わせた。

 「「いただきまーす!」」 

僕とマナミさんはノリが作ったサンドウィッチを食べようとした。

 「あれー、こっちは今日食べたやつとも今まで食べたやつともちょっと違うなー!なんだか具も少ないし、パンも違う気がする!」

 さすがマナミさん。今まで食べたサンドウィッチも覚えているなんて。

 「僕がこっちだろうな。」

 そう言って、僕は具の少ない方を取った。

 「なんで分かるんですか?名前でも書いてあるんですか?」

 マナミさんが不思議そうに訊いてきた。

 「それはね。何となくだよ。」
 
 "2年前に食べたサンドウィッチ"と全く同じサンドウィッチを手にしつつ、僕はマナミさんにそう答えた。

 「ふうん。でも、そっちも食べてみたいなあ!ダイスケさん、1個ずつ交換しましょう!」

 ノリが作るサンドウィッチは、特注の食パン2枚に具材を入れてからハーフカットをするので、必ずサンドウィッチが2つできる。僕はマナミさんと残った1つずつを交換した。

 「んー、やっぱりどっちも美味しかった!」

 マナミさんは食後のコーヒーを飲みながら、満足そうに笑顔で言った。ノリの作ったサンドウィッチは2年前よりも進化していて、僕もとても美味しいサンドウィッチを食べることができて、良い一日の締めを飾ることができた。

 「あ、聞いてくださいよ!今日お店にお花を届けに行ったら、高校生の男女がいたんですけど、なんとその場で付き合うことになったんです!恋人になった瞬間に立ち会えるって素敵じゃないですか!?」

 マナミさんは目をキラキラさせながら、僕にその時の詳細を事細かに教えてくれた。

 「いいなあー。すごい憧れちゃった。私も恋したくなっちゃったなー!」

 「マナミさんなら、美人だし気立てもいいから、すぐに素敵な出会いがあると思うよ。」

 「ダイスケさんは、今はお相手いないんですか?」

 マナミさんは僕の顔を伺うように聞いてきた。

 「もう2年くらい居ないなー...。」

 そう言って、僕はコーヒーを飲んだ。

 「そうなんですね。ダイスケさんも素敵な方だから、きっと良い出会いがありますよ!もしかしたら、すでにダイスケさんと出会っている可能性もありますしね!」

 マナミさんはそう言って、カップに残っていたコーヒーを飲んだ。

 それからも僕とマナミさんは、ノリのサンドウィッチの余韻に浸りながら、コーヒーを飲んで会話を楽しんでいた。

 「じゃあ、私そろそろ帰ります!」

 マナミさんは上着を羽織りながらそう言った。

 「今日は配達ありがとう。素敵なお届けものを受け取らせていただきました。気をつけて帰ってね。」

 僕はマナミさんを出口まで送って、その後ろ姿を見届けていた。

 マナミさんの姿が見えなくなり、僕がお店に入ろうとしたら、大学生くらいの男の子が電話をしながら歩いてきた。

 「ええー!"土曜日の女神"さんも来てたのかー!どうして連絡をしてくれなかったんだよお。え?彼女も出来た?どういうこと?そろそろ家に着くから、俺の分を食べずに残してコーヒーを淹れて待っててくれ!」

 聞こえてきた会話は、全くの赤の他人である僕でも興味を持ってしまった。彼はだんだんと歩くペースが上がっていき、人混みの中へ紛れてしまった。"土曜日の女神"か、どんな人なんだろうか。僕もいつか拝んでみたいものだ。

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