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街風 episode.14 〜オトコのヒミツ、オンナのヒミツ〜

 「昨日はありがとうございました!」

 マナミは、ダイスケの顔を見るなり昨日のお散歩デートのお礼を伝えた。ダイスケはデートと思ってないかもしれないけれど、今はそれでいいとマナミは思えるようになった。昨日は恋愛の神様にお願いもしたし、2人でノリさんのサンドウィッチを食べることもできたし、とても良い気分転換になった、マナミは1人で昨日の出来事を振り返っていた。

 「いえいえ、また機会があったら行こうね。」

 「ありがとうございます!実は、私がノリさんのサンドウィッチのお店に誰かを連れて行ったのって、ダイスケさんで2人目なんです。1人目はこの間久しぶりに会った前の会社の同僚のアオイだったんですけれども。」

 「そうだったんだね。そんなにヒミツにしているお店に連れて行ってもらって光栄だよ。」

 ダイスケは、ノリと古くからの友人であることをマナミにヒミツにしたまま会話を続けた。

 「そういえば、アオイさんとこの間はどんな話をしていたの。」

 ダイスケは、マナミのプライベートのことをあまり知らなかったので、それとなく聞いてみた。

 マナミとアオイは、昼間にノリのお店で会った時にはアオイの不倫の事、夜に再度会ったときにはマナミがダイスケさんへどうやってアプローチをすればいいかを相談していた。お酒も入っていたため、泣き縋るようにアオイにずっとアドバイスを求めていた自分を思い出すとマナミは恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。

 「アオイさんの恋愛話と前の会社の事とか今の私の仕事の話ばかりでしたよー。なんだかんで終電まで2人で盛り上がってしまいました。」

 マナミは自分が恋愛相談をした事をヒミツにして、はぐらかしながらダイスケに答えた。

 2人ともお互いのことを詮索する性格ではないので、また今日一日の開店準備をした。



 「ケンジ先輩、次の土曜日って空いてますか?」

 サークルが終わって、マイは一緒に帰っていたケンジに質問をした。2人は最寄駅が一緒という事もあって、サークルが終わると一緒に帰るのが定番だった。周りからは付き合っているのではないかと噂された時期もあったが、ケンジの天然っぷりもあり噂はすぐに立ち消えた。マイも最初はケンジに恋心に近いものを抱いていたが、今では仲の良いお兄ちゃんのような存在だった。

 「ごめん、土曜日はどうしてもバイト外せなくて。夜なら空いているんだけどね。」

 ケンジは、”土曜日の女神”に会いたいから、という理由はヒミツにしてお店が忙しくて抜けられないという事情で断りを入れた。

 「美味しいサンドウィッチのお店ですよね。」

 「あれ?マイちゃんにバイト先の話をしたことあったっけ?」

 キョトンとしたケンジの顔を見て、マイはしまったと心の中で叫んだ。マイの妹の彼氏の兄がケンジだという事もあって、妹のカオリから彼氏のワタルやその兄のケンジの話を時々聞いていた。でも、その不思議な関係を知っているのが自分だけという優越感があって、妹のカオリやケンジにはずっとヒミツにしていた。

 「以前に聞いたような気がしてて。夜は空いているなら来てください。私たちと家が近くのサークルメンバーで飲みに行こうって話をしているんです。たぶん5〜6人くらいは来る予定です。」

 マイは、自分とケンジの意外な関係性をヒミツにしたまま、それとなく話を逸らした。いつかドッキリみたいな形でケンジに発表して驚く顔を楽しみにとっておきたいらしい。

 「それなら空いてるから俺も参加する!」

 誘ってくれてありがとう、とケンジはマイに言って2人はまた他愛もない話を続けながら帰り道を歩いた。



 「ただいまー。」

 ユウキが帰宅すると妻のレイコは夕飯の準備をしていた。アオイとの不倫関係にピリオドを打ち、過去の自分の過ちを恥じていた。こんなにも幸せな世界があるのに、あの頃の俺はアオイに甘えていただけだったな、ユウキはそう反省をしながらスーツから部屋着に着替えた。ユウキは、アオイと不倫していたことをレイコに打ち明けようかずっと悩んでいた。今日こそは、と思って帰宅をするが、いざレイコを前にするとなかなか言い出せずにいる、そんな毎日をずっと繰り返していた。

 「どうしたの?」

 浮かない顔をしていたユウキにレイコが声をかけた。

 「実はさ、いや、なんでもないよ。」

 ユウキは今日もレイコに打ち明けることができずに笑ってごまかした。そして、美味しそうな料理が並ぶ食卓を囲んで目の前の幸せを噛み締めていた。

 翌日、ユウキが出社した頃にはアオイはすでに出社していてメールチェックをしていた。

 「おはよう。」

 「おはようございます。」

 いつも通りの部下と上司。周りの人たちに、2人が不倫関係だったことはお互いにヒミツにしたまま、今日も仕事に励んでいた。


 

  

 

 

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