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君は空を見ているかい?

「空を見るといい。」彼はそう言った。小笠原諸島の満天の星空を頭上に僕らは酒を酌み交わしていた時だった。

大根踊り大学に通っていた僕は長期休みに小笠原諸島でボランティアに何回か行った事がある。その時に現地の協力してくださった林野庁の職員の方と飲む機会があって、その時に言われたセリフだった。

「小笠原ほど綺麗な星空は見れないかもしれないけれど、空を見る時間は取ったほうがいい。」と言われた。その時はどういう意味か分からなかった。小笠原で見るほど綺麗な星空なんて二度と見る事ができないと思うし、浜辺でお酒を片手に満天の星を眺めた時ほどの幸福な時間なんて無いと思っていた。その時は、公私ともに忙しくも楽しい毎日を送っていて1日フリーな日なんて年に数回程度しか無かった。それでも心はとても充実していたし何よりも生きている実感があった。

小笠原諸島へ行く片道25時間の船旅は現実から夢への準備時間としては最適だった。東京湾を出てしまえば電波も届かないので何も連絡が来ないし、小笠原諸島へ着いてしまえば、どんな急ぎの依頼が来ようともどうしようもないので思いっきり何も気にせず楽しむことができる。

時は経って、今は25歳の社会人4年目。

仕事もある程度のことは任されるようになった反面、イレギュラーやトラブル対応なども任されるようになったし、以前よりも充実感は少なくなってきた気がした。人はしんどい時に無意識に下を向きがちになってしまう。そんな今だからこそ「空を見るといい。」という言葉が刺さる。ああ、最近は空を見る時間が少なくなってきているなあって思う。空を見ようとすると顔は自然と上を向くようになる、すると気分も自然と上向きになってくる気がする。

「ああ、空を見るってそういうことか」としみじみと思う。

どんなに辛くて苦しくても空を見ると少しだけ気持ちが上向きになる。僕は夜に気分が落ち込むと宮ヶ瀬ダム付近まで車を走らせて星空を見に行く。周りに街灯が少なく山に囲まれているそこからの星空は小笠原よりかは霞むけれども十分に綺麗で、僕はそこに着くと星を見ながらタバコを2本吸ってから帰る。それでも心が満たない時は海まで行って朝陽が昇るのを待つ。深い青い夜空が少しずつ太陽に染められていくのを見ていると自分の心の暗い部分も太陽に染められていく気分になる。

僕はこれからも辛くなった時は自分に対して「空を見ているかい?」と問いかけようと思う。晴れた空でも曇り空でも星空でもいい、空は見るたびに表情が違うから飽きることもない、大切なのは”空を見る”ということだ。

君は空を見ているかい?


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