Dr. かいと

画期的で希望にあふれたワクワクする新しい薬の開発状況を、わかりやすくお伝えしていきます…

Dr. かいと

画期的で希望にあふれたワクワクする新しい薬の開発状況を、わかりやすくお伝えしていきます。某製薬企業にて研究開発にかかわっています。薬学博士。

最近の記事

スタンディングオベーションを浴びた薬 エンハーツ

 その発表が終わって会場の照明が明るくなると、数百人の聴衆が立ち上がって演者に拍手を送ったとのことです。お医者さん、大学の先生、製薬会社の社員、そして患者さん団体の関係者といったたくさんの人たち。それらの人々がみな上気した顔で興奮して懸命に拍手を送ったと。中には涙を流している人もいたそうです。その薬がもたらす希望に感動して。その薬が切り開いた未来を夢見て。  それは今年の6月にシカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)でのこと。プレナリーセッションという大きな会場で行う

    • 楽天が売るがんの薬

      楽天市場でオンラインショッピングをされる方も多いでしょう。たくさんの店舗が楽天市場に所属しており、HPの情報によると、商品数はトータルで1億9千点を超えるとのことです。 その楽天が、なんと、がんを治療する薬を売ることになったということです。それも、その薬の臨床試験から自分たちで進めて、医薬品としての承認を規制当局から得たというのだから驚きです。 といっても、これは楽天の本体ではなく、楽天の関連会社である楽天メディカルという会社の話です。 関連会社とはいえ、楽天の創業者で

      • もう一つのすごいADC(抗体薬物複合体医薬):トロデルヴィ

        前回の記事でご紹介したエンハーツとともに、もう一つ、すごいADC(Antibody Drug Conjugate、抗体ドラッグ複合体医薬)があると思っています。 それは、トロデルヴィ(Trodelvy)と呼ばれるADCです。 ・・・と書くと語弊があるかもしれません。他にも承認されたADCがいくつもあり、それらは優れた薬効があるからこそ、承認されて治療に使われているわけですから。 ではなぜ、それらの中で、トロデルヴィを特別に取り上げるかというと、まず第一に、これが固形がん

        • エンハーツ(第一三共)の快進撃!:Antibody Drug Conjugate(ADC)

          エンハーツとは、第一三共が開発した抗体薬物複合体医薬(Antibody Drug Conjygate/ADC)です。英語名はENHERTS、開発コードのDS-8201で呼ばれることもあります。今、がん治療薬の世界で注目を浴びている薬の筆頭とも言えるでしょう。 その臨床開発のスピードの早さが、エンハーツがいかに画期的な薬であったかを物語っています。 アメリカFDAがエンハーツを承認したのは、昨年、2019年12月20日ですが、なんと、申請を受理してから2か月という異例の速さ

        スタンディングオベーションを浴びた薬 エンハーツ

          抗体薬物複合体(ADC)医薬、ついに花開いたか!

          ここ数年、抗体薬物複合体医薬の開発が活性化しています。 抗体薬物複合体は、英語で言うと、Antibody Drug Conjugate。ADCと略されることが多いので、ここでもADCでいきます。 ADCというのは、特定の薬の名前ではなく、薬の種類のことです。下の図のように、抗体(青いY字の部分)に低分子の薬物、これはペイロードと呼ばれます(オレンジ)がリンカー(緑)でつながったもののことをADCと呼びます。抗体と低分子薬物(ドラッグ)が複合体になっているということですね。

          抗体薬物複合体(ADC)医薬、ついに花開いたか!

          トランプが使った薬と使わなかった薬:使わなかった薬

          前編でとり上げた、トランプ(もうすぐ元)大統領に使われたと大々的に報道される3つの薬がある一方、これまで、新型コロナ治療薬の希望の星と持ち上げられていたのに、使われたとは報道されていない薬があります。それを持ち上げていたのは、とりもなおさず、トランプ大統領自身であったにも関わらず、です。 そのまず一つ目は、ヒドロキシクロロキン(クロロキン)です。 2020年の7月ころには、トランプ大統領は、この薬の大々的なサポーターであり、ことあるごとにこの薬を持ち上げ、すぐに承認するべ

          トランプが使った薬と使わなかった薬:使わなかった薬

          トランプが使った薬と使わなかった薬:使った薬

          トランプ(もうすぐ元)大統領が新型コロナウイルスに感染したというのは、なんとも、2020年のアメリカを象徴する出来事でした。 世界最大のパンデミックが起こっている国で、それを招いた元凶の一人とも揶揄される、そのリーダーが病に倒れたわけです。マスクなんてしなくても良いと主張していた張本人でもあります。そして、そのタイミングがまた大統領選の真っ最中でした。史上最高(最悪?)の大接戦と言われる、その戦いがまさに最高潮のタイミングで感染してしまうというのも・・・ちょっと暗示的な気も

          トランプが使った薬と使わなかった薬:使った薬

          COVID-19ワクチンってどうやって作るの?

          ファイザーとモデルナのCODIV-19ワクチンの一般の人への接種が、アメリカ、イギリスをはじめ多くの国で進められています。すでに200万人以上の接種が行われ、さらにそのスピードは加速しています。これで全世界はこの新型コロナという大災害から解放されるのか?その期待は高まっています。アメリカの株式市場ではそれに反応して平均株価が急上昇しているとのことです。 もっとも、あまりに速いスピードでワクチンの開発が行われたことから、そんな急ごしらえのものは怪しいと、訝しむ人もまた少なから

          COVID-19ワクチンってどうやって作るの?

          そもそもワクチンってなんだっけ?

          ワクチンは予防薬ワクチンは治療薬ではありません。治療薬とは、病気になり、だるいとか熱が出るとか痛いとかいう症状が出てしまってから、それを治す(正確には症状を抑える)ために使う薬のことです。COVID-19の場合は、レムデシブルとか、アビガンといった薬がこのタイプですね。これらはどちらも、もう体の中で大々的に増えてしまって、熱などの症状を出しているウイルスが、それ以上には増えないように抑えようという薬になります。(ただ、もうウイルスは体の中でだいぶ増えてしまっているので、それか

          そもそもワクチンってなんだっけ?

          ファイザーの新型コロナワクチンはどのように開発されたのか?

          世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス(COVID-19)。それを撲滅するための切り札がワクチンです。手洗い・マスク・ソーシャルディスタンスで感染の拡大を抑えることは重要です。が、それは感染拡大のスピードを遅らせているだけで、パンデミックの終結にはつながりません。もともと、ただ一匹(一粒?)のウイルスが(たぶん中国で)偶然に生じ、それが世界中に広まったわけです。感染抑制だけで最後の一匹がいなくなるまでウイルスを駆逐することは不可能です。世界中の人の多くに新型コロナに対する免疫

          ファイザーの新型コロナワクチンはどのように開発されたのか?

          はじめに

          近年の創薬技術の進歩には目覚ましいものがあります。従来の低分子医薬に加え、抗体医薬などのバイオ品が大きく成長してきました。さらには、遺伝子治療、細胞治療、核酸医薬といった、いわゆる「新モダリティ」による薬が現実化し、大きな話題を集めるようになっています。 これらの創薬技術の進化や研究開発ノウハウの蓄積に加え、様々な病気のバイオロジーの理解も爆発的に進んだことにより、これまでは治療することが不可能であった難病に対しても優れた薬効を示す、まったく新しいタイプの革新的な薬が次々に