The story of a band ~#49 CLUB GEL LIVE ~
秋田駅前にCLUB GELはある。dredkingzのメンバー全員が初めて知ったこの場所は、おしゃれな雰囲気を醸し出していた。ステージ正面に映像が映し出されており、ライブ演出効果も期待できる。
メンバーは、リハーサル時間に間に合うように、駅前の駐車場に到着。
昼過ぎには、会場に入った。
会場入り口の前には、ライブ企画者であるヘルガがいた。
「お久しぶりです!ヘルガさん!」
久しぶりに会い、テンションが上がる。以前イベンターのヘルガ企画のライブに出演させてもらったこっとからのつながりだった。本当に有り難かった。
「お疲れ様です。今日はよろしくお願いします。本当、今日はメジャーなアイドルが出演しますので、ソールドアウト案件なんです。人もたくさん来ると思うので。あ、もう少しで、リハーサルやれますから。うちのエアりあるが先にやるんで、それまで少し待ってて下さい。すいません。」
相変わらず、謙虚である。様々な苦労や忍耐、努力がこれまであったはずである。そう思いを馳せつつ、イベント企画を継続してきたヘルガに尊敬の念を抱いた。
さて、周りを見ると、地元アイドルの女の子が物販コーナーなどを準備している。
「いやあ、初めて見るなあ。こんな感じの風景。」
「アイドルとバンドとのコラボなんて企画が、まず面白いよね。それに、アイドルを見に来る人って、けっこう多いらしいよ。」
そうして待っているうちに、共演するHeart Under Bladeの井岡が、メンバーと一緒に会場に入ってきた。
「井岡さん。お久しぶりです!」
「おお!久しぶり!今日は一緒だったもんね!よろしくね!」
サポートベーシストとして加入してくれた井岡と久しぶりに出会い、ますます今日のイベントへの期待が高まった。
その後、若手バンドZeleiveのメンバーが会場入りした。
出演者同士の挨拶が進み、dredkingzのリハーサルが行われた。数曲の演奏を行い、音の感触を確かめた。今河の足も大丈夫のようだ。ただし、バラード曲はできない。その代わり、今河のドラムから作成した曲『Sky Fall』を代わりに入れてある。
「あ、音は大丈夫です。今日はよろしくお願いします!」
リハーサルを終え、メンバーは腹ごしらえをしに近くの食堂に向かった。仁志は、異常に緊張していた。そのため、店で頼んだ「唐揚げ定食」はなぜか喉を通らない。
「仁志くん、全然食べないね。あんだけ、唐揚げ食べたいって言ってたのに(笑)。」
「そうなんすよね・・・。なんか緊張して、やばい感じです。」
場数を踏んできていても、ライブ前は緊張するものだが、それにしても、今回は異常な感じだった。それは決して不安ではなく、わくわく感が影響していたためだった。
初めて自分たちの演奏を聴く人が多いだろう。その人達が、どのような評価をしてくれるのか楽しみだったのである。
夕刻。いよいよ待ちに待ったライブが始まった。会場には、ヘルガの言ったとおり、たくさんのお客が入っている。
この企画はソロアーティスト、アイドル、バンド、DJなどが出演し、トリはメジャー級アイドルの眉村ちあきとなっている。
眉村ちあきの名は、全国的に有名になっており、彼女を見に多くの客が会場を訪れていた。
トップバッターのアーティストから会場は盛り上がりを見せた。そして続くアイドルの一生懸命なパフォーマンスは、客の心をつかんでいく。
そして、バンド出演のトップバッターであるHeart Under Bladeが出演した。「絶叫する60度」のコピーバンドとして活動しており、その演奏を聴きにきていた客が客席の前衛に躍り出た。
演奏はアグレッシブでパワフル。客とのコール&レスポンスがライブを更に盛り上げた。
誠司も仁志も、「すごいね!勉強になるわあ!」と言い合っていた。そして、次の自分たちの出番への気合いが高まっていくのを感じた。
次はアイドルの出演番となった。そして、その次にはいよいよdredkingzの出番である。
会場にいた誠司と仁志、神崎は準備をするために楽屋に行った。
すでに、今河がおり、目を閉じながらドラミングのイメージを作っている。
緊張感が高まってくる。
緊張感が最高潮に達したとき、アイドル出演が終わった。
「よっしゃ。」
メンバーは会場の扉を開け、ステージにゆっくりと向かっていった。
熱気が残る会場。
ステージ脇の狭い階段を上り、早速準備を始める。青白い光の中で黙々とセッティングを行う。
客席側は、このバンドがどんなバンドなのかを見定めようとしているかのよう。ステージ前には、すでに多くの客がスタンバイしている。
遠くでは、井岡がこちらを見ている。
準備が整った合図をPAに出す。
BGMが小さくなる。
(これでしばらくバンド活動はできなくなる。やるしかねえ!)
誠司がギターのボリュームを少しずつ上げた。今河のカウントがはいる。
ヘヴィなイントロが始まる。新曲『Let me die』。メロディアスでエモーショナルな仁志のボーカルが入ると、曲は一気に勢いをつけていく。
(良い調子!この感覚でこのまま突っ切るぞ!)
神崎と今河のベースとドラムががっちりと絡み合う。
すでに、額から汗がほとばしる。客は、そのサウンドを楽しんでいるかのように身体を揺らしている。
一曲目が終わるとすぐに2曲目にうつる。『Sky Fall』が始まった。ミディアムテンポで、様々な展開の要素を入れている。そして、どこか壮大な雰囲気を与えていた。
今河の足の不調は誰にも感じさせていない。むしろ、力強いバスドラで楽曲を盛り上げていた。
演奏が終了すると、客は大きな歓声と拍手でバンドを称えてくれた。
そのおかげで、続く曲の演奏は勢いを更に増していく。目の前には、客一人一人の笑顔が見える。暗がりでもはっきりと見えるその顔を見つめながら、バンドの演奏は、ラスト『Detonate』を迎える。
「最後の曲です!!」
仁志が客をあおると、客もそれに応える。誠司のカッティングギターと神崎のベースライン、そして今河の縦ノリのドラミングが曲の始まりを支える。
ブレイクし、縦ノリのヘヴィなイントロが始まると、仁志は大きくヘッドバッキングをする。
仁志のラップがリズムに覆い被さる。
ジョンのおかげで、仁志のラップは上達した。あの日を思い出す。もがき、悩みながらも前に前に進んできた。
サビに一気にかけあがる。誠司のエモーショナルなリフがベースラインと絡み合う。
思えば、すべて手探りのスタートだった。楽しかったが、様々な苦労や忍耐があった。でも、その一つ一つが自身を鍛えてくれた。
ほとばしる汗は手首まで伝わってくる。
神崎のベースライン。このベースラインを考えてくれたのは、かつてのメンバー野口。そのベースラインを、神崎は確かなものとして残してくれていた。
今河のドラミングが激しさを増していく。
誠司との出会いから今に至る。出会いとは不思議なものだ。もうドラムは叩けないと思っていた。事務所に見放されたとき、「もう俺は終わった」と思った。それでも、今このバンドでドラムを叩いている。
4人の呼吸が一つになる感覚を感じた。最後の決めで仁志が飛び跳ね、着地と同時に音の波が大きな余韻を残して終わりを告げた。
客の歓声と拍手、熱気が彼らを包んでいた。
(終わった・・。出し切った。)
誠司は、大きく息を吸い、天井を見上げた。汗が額から流れ落ちる。とてつもない感動を覚えた。
(これまでで、最高のステージだった。)
仁志は、客の笑顔と声に包まれながら感じた。
その後、ライブは滞りなく進み、眉村ちあきの登場、ライブによって大きな価値ある企画として終了した。
秋田市内のバンドが多い中で、県南のバンドとして足跡を残せた自負があった。dredkingzの評判はよく、対バンを望む声も上がった。
このライブは次へ必ずつながる。
確信した。
一時、誠司はバンドを休むが、復帰後にまたリスタートすればいい。
そう思っていたのだが。
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