しろ

21歳。生来人より少なめのエネルギーを、消費し過ぎないように暮らしています。

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マガジン

  • わたしの生きづらさの話。

    わたしの生きづらさを、すこしずつ紐解いていきます。

最近の記事

許容(詩)

午前三時の閉じ切った部屋、暖房は一昨年から使わないまま、 寝息が私から離れた隅で聞こえている。 毎週木曜日に私の家で夕食を食べる友人と、彼女のために 用意された透明な箱。私はこの箱に、いつかほかの誰かを 入れて、彼女のことはそのまま忘れるだろう。 新しい言葉を舌になじませ、忘れるように。 引き入れたものは決して容認されず、容認されたものは 決して愛にならない。引き起こしたものはいつしか 手に負えない怪物になり、見つからない死体は恋になる。 血と汗を流さないその指先は、新聞紙

    • おだやかなこと

      もうすぐ21になる。  とくべつななにかが起こりそうだったのに、芽吹かせられなかった人間関係の種。火にくべて昨日をこえる。  いろいろな問題をいっしょにくぐり抜けてきただれかと、同じグラスからお酒を飲んで夜をこえる。  分かってもらえると保証されない気持ちを、あえて言葉にしてそのまま投げてみる。そして亀裂。今日を今日のままに終える。  コントロールしきれないような負の感情も、やりすぎなくらいの正の感情もない、外の世界によって引き起こされた、外の世界の出来事。  いったん、

      • 知らないものは手に入らない

         この前、受付で無理難題を職員に怒鳴りつけ、明らかに嘘と分かる内容を理由にその要求を通そうとしているひとがいた。そのひとはそこでは自分の要求が叶えられないと悟ると、廊下に置かれた雑誌を掴んで地面にたたきつけながら、大きな足音を立てて去っていった。わたしは、彼がなにを知る機会がないのか想像が付かなかった。 ******  ここ数か月でわたしはなにを手に入れたのかな、と考えていた。失ったものの数を数えるよりは、もちろん手に入れたものの数を数えるのがいい。しばらくのわたしはいく

        • (短編小説)枯葉

           彼女はひとり、シーツの裏にひそむ鍵の感触を肩で感じながら、このふかいふかい夜がいつまで続くのか考えていた。まぶたを開けたまま寝ころんで三時間が経つ。部屋を片付けるのが苦手だ。足元にはパソコンの充電コード。三時間前に飲んだホットココアの香りが、空になったマグから聞こえる。マグは枕元に置かれたままで、匂いは簡単に鼻腔までやってくる。ぼんやりとした夜空に浮かぶぼやけた雲。カーテンは隙間なく閉じているが、その外側を想像することができる。彼女にとって人的な社会はすでに意味を成さないな

        許容(詩)

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        • わたしの生きづらさの話。
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        記事

          ユーカリの茶葉

          幸せなこと。ユーカリとジャスミンの茶葉、ハーブティーの香り。横たえられた透明な瓶にかくれた甘い香りと、記憶の中の笑顔。いつになく静けさが響く夜、虫の声、雨上がりにすずしげな顔で上昇しはじめた気圧。だれかのてのひらのあたたかさとどれも、揺らぎのない平穏な鼓動を愛し、まぶたの裏になにも呼び起こさないでいてくれるもの。わたしはずっとこんな静けさを愛しているけれど、どうにも騒がしい夜はこの社会にとても多い。きっと、安定している物事の数のほうがうんと少なくって、平穏さは流れ星のように一

          ユーカリの茶葉

          わたしのテンポで生活する

           わたしはよわいかもしれないけれど、きっとうんとやわらかいのだ。わたしをわたしのままで受け止めるというおはなし。  赤ちゃんのころはとくに病弱ではなかったようなのだけれど、年齢を重ねるごとに身体がゆるやかに世界への拒否反応を示すようになって、同い年のひひとびとよりもできないことが多くなっていた。内科系の持病を複数発見して、西洋医学にわたしの「よわさ」を説明してもらっていたけれど、大学に入ってからは体力が付いたように思って、ほかのひとと同じテンポで暮らすよう努めた。そうしたら

          わたしのテンポで生活する

          脳においしい五七五集(夏)

          作:わたし (脳と目においしいフレーズ・五七五シリーズです。まったくの素人) ・ワイングラスの中に入った金平糖 ・和紙の空気風船、彼女の呼吸 ・まっしろな雲の風味は夏のにおい ・頭のてっぺんから注ぐとんぼ玉 ・太陽がコンクリートに焦げ付いた ・首の裏にひりついてる汗の熱 ・きみがわらうのを眺める風鈴が ・夏のにおいと共に去る太陽と ・かなわない花火をこんな海にくべる ・くらげとよく似ているね。その日傘 ・せっけんと繰り返し流す傷と水 ・いつもあとすこし

          脳においしい五七五集(夏)

          自己紹介

          (ひたすら自己紹介をします)(かきかけ) (性格診断なんかをインターネットで検索して試してみると、「自己紹介をするのが得意である」という設問にはい・いいえというのが出てくる。わたしは自己紹介をするのがまったく苦手でないのだけれど、これは単純に技法の話な気がしていて、なぜならわたしのアイデンティティが非常に明確かと言われたらそんなこともないから)  幼稚園生だったころ、人の手の指の先には必ずまあるい玉が浮かんで見えていた。まあるい玉は半透明で、比較的はっきりした色をしていて、

          自己紹介

          誰からも一貫性を与えられないわたしたち

          (今日考えたことの雑記です) (芸術と構造に興味がある。抽象絵画とか制度とか) (リアルの個人的な対人においても似た構造の問題が多々起こるように見えますが、インタラクティブな時点で下記の話とは前提がぜんぜんちがうね) ・わたしたちの一貫性を担保するものはなんでしょうか、と希望と諦めを同時に持って問いかける気持ちをちょっとおざなりにしていたような気がする。驚くほど数が多くて多様な流れ(環境とか遺伝とかって呼んでるやつ)が衝突して生まれた点として存在しているのがわたしたちで、こ

          誰からも一貫性を与えられないわたしたち

          音楽の空間、建築と家具

           音楽が好きだ。住んでいた地元では「100円オルガンコンサート」というのがときどき開催されていて、有名な楽団が使うようなコンサートホールに100円で入り、オルガン奏者の演奏が聴けた。客席は数階建てになっていて、正面席のいちばん向こうの壁には大きなパイプオルガンが組み込まれている。その周りにも客席の列。たぶん、典型的なコンサートホールらしい空間。オルガンの音を借りたドビュッシーの「月の光」は、グランドピアノのそれよりも湖の水面の揺れを体現しているようで新鮮だった。ピアノで弾くと

          音楽の空間、建築と家具

          きっといつかあなたに気付く

           せっかくひだりの耳を通ったのに、すこしも気にかけないでみぎの耳から流してしまった音楽がある。目にうつる色もも耳に入った音も、いま膝にのっかってるブランケットの肌触りも、すべてちゃんと気付いてあげられるほど器用じゃないから、そのときとくべつ気に入った感覚を、だいじにだいじにするようにしている。この世界には、やわい羽一本よりつつましやかで、からからに乾いた枯葉よりも崩れやすく、はじめてハーゲンダッツを食べた日の気持ちよりも忘れやすいものがたくさんある。時間がとめどなく流れるから

          きっといつかあなたに気付く

          こころが生きのびるだけじゃなく

           わたしにとっては一年ぶりの外出自粛である。二年前は外出が物理的に不可能だった。ある病気にかかり、トイレに行っただけで息切れして寝込むような状態だった。その間まともにしゃべったのは、両親と医者くらいだった。当時在学していたところの友達には、病気にかかっていることをほとんど伝えず、連絡も取らなかった。友達は多くないので、あちらから露骨に心配されるということもなかった。ほかの人と比べれば非社交的なので、しゃべらないことはそこまで毒にはならなかったけれど、それでもテレビに向かって独

          こころが生きのびるだけじゃなく