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紅茶のお菓子について、ご提案

ここのところ、「やはり外に向かって言いたい」と思う機会が多く『紅茶入のお菓子』について、書くことにします。

(タイトル画像は、自作の適当なものがなく、紅茶についての記事ながら、緑茶&レモンピールのクッキーとなっています。申し訳ありません。。。)


ここのところ、お菓子屋さんやパン屋さん、フードクリエイターの作られる紅茶入りの“粉ものお菓子”が、「紅茶○○」という商品名/レシピ名にも関わらず、「アールグレイ」を入れて満足されているケースが、非常に多いな、と感じています。

もちろん、それで美味しければ、それはそれでOKではあるのですが、大半のケースで、ベルガモットオイルの香りやテクスチャが生地の香りや舌ざわりから分離し、また、レシピであればアールグレイ以外の茶葉ではあまり紅茶感が感じられず、わくわくと楽しみにしていた気持ちが一気に悲しみの底においやられる機会が増えています(泣)

毎回、「分離して美味しくなくても、それでも作るって、流行ってるから、作りたいだけ?そんなに紅茶入りって、気持ちが向かない商品なのかな?」と、心の中で、密かに泣き叫んでいます。。。


ピュアティーを売っているから、アールグレイを邪道と言いたいのだろう、というお声もあるのかもしれません。

しかし、今までお茶の仕事で接客をしてきたお客様の顔とご一緒したお話を思い出すに、それは違うと言っていいのだろう、と思います。

そして、誰かが言わないととても残念な気持ちの、お客様の声は届かないだろう、と思いました。

なぜなら、お菓子屋さんも、パン屋さんも、お菓子やパンの生地や他のもので勝負していて、たった1点の「紅茶入商品」が微妙なことで、お店に不満を伝えたり、商品を買わない理由になるわけではないからです。

また、紅茶ファンは、自分達はコーヒーファンのはるか後塵を拝していることを知っています。

最近でこそ、タピオカ/フルーツティーから始まった紅茶ブームが続いていますが、市場規模も杯数も、どちらもコーヒーにはとてもかなわない、ことを多くの紅茶ファンは知っています。(紅茶ファンは日常的にコーヒーも飲みますが、コーヒー好きが積極的に紅茶を選択する機会は、あまりないことも日々経験しています。)

このため、紅茶ファンは、コーヒー向けに作られていて問題のないお菓子やパンの、紅茶入商品について、ああこういうものでもない、と無意識のうちに思い、黙っています。(私も最近までそう思っていました。)


しかし、最近のお菓子やパンの平均点の上昇と、紅茶/アールグレイ入商品の平均点の乖離に、紅茶入商品や紅茶と食べ物の相性を考える身として、やはり現状をよりよくする何かをしなくては、と思ったことと、ピュアティー(香りづけをしていないお茶の木から作ったお茶)を、その香りをとても細かい精度で管理して生産している人たちのことを思い、ここに思ったことと、技術的な提案を書いてみることにしました。

尚、私はお菓子作りの勉強をしたり、プロとして自分の手を動かしてお店に並べる商品を作ったことはありません。あるのはコラボ企画での商品製造のお願いや、カフェ商品としての供給元へのお願いの経験、そして、自分の参考としての試作の経験、のみです。

このため、本来プロの焼き物の作り手の方に偉そうにご提案をする立場ではないのですが、今までの試作や一緒に作っていただいた商品を通して、お茶をより素材として楽しんでいただけ、お客様にも喜んでいただける機会になるかもしれない、ということで、失礼を承知で、書かせていただきます。(みなさまの(知っている)お店で紅茶入り商品が、リピート買いされている人気商品で、ご満足いただいている状況であれば、本稿についてはご放念ください。)


まず、ご提案の前に整理をしておきたいのが、

「『アールグレイ』って紅茶でしょ?」という点です。

--- アールグレイについてご存じの方は、もちろん読み飛ばしてください。---

「アールグレイ」は紅茶ですが、紅茶の原料茶葉そのものがあの香りなわけではありません。

「アールグレイ」は、ベルガモットという柑橘類の果皮から抽出したオイル、もしくはそれに似せた人工香料を紅茶に噴霧して香りを付けた「フレーバードティー」です。

ピーチティー、ベリーティーと聞くと、フルーツが入っていたり、香りが付いているんだな、と思われる方が大半だと思うのですが、アールグレイは、そもそもああいう香りの茶葉として生えている、と思われている方がかなりいらっしゃいます。(紅茶好き、とご自身で言われる方にも、散見されます。)

しかし、アールグレイは、上に書いたように、お茶の香りであの香りがしているのではなく、香料で着香したフレーバードティーです。

このため、アールグレイの香りと思われている部分の大半は、基本的に「ベルガモットの香り」です。(高級なものは、茶葉の香りとの混ざり具合の妙が、もちろんあります。)

これは、多分アイスティーを頼むと自動的にアールグレイが出てくる、とか、ドリンクバーで、アールグレイのティーバッグが、ダージリンやアッサムと同じ包装で、ピーチティーやベリーティーとは別の包装に入って常駐している、ことが理由にあると思います。(このあたりを深堀すると長くなるので、ここまで。)

まずここで、アールグレイを使って「紅茶○○」とネーミングされているお店と、紅茶ファンの間に、意識の乖離が生まれます。


--- ここからアールグレイについてご存じの方もご一緒にお願い致します---

そして、これでとても美味しければ、「まぁ、アールグレイ○○じゃなくて、紅茶○○でも仕方がないか。」となるのですが、少なくないお店でその味が微妙です。(すみません。ここは、一人の客として許していただきたいです。)

これがなぜ起きるのか、というと、「オイルで着香していることをご存じないから」ではないか、と思うのです。

パンやお菓子の生地に入れ込む油脂と、このオイルの油脂は、多分別の種類の油です。

生地に練り込まれる通常の油脂は、商品の味や価格を決める基本中の基本、お店の顔を作る骨格なので、計算をして決定されているでしょう。

しかし、「アールグレイ茶葉中の油」は、ノーマークなのではないでしょうか。

焼き上がり直後はいい香り、もしくは、紅茶感のある香り、だったのかもしれませんが、時間を追うにつれ、香料のベースになっている油やベルガモット果皮油そのものが劣化をし、熱が加わっていることや、紅茶(葉)の成分と相まって、想定されていない味・テクスチャを産んでいるのではないか、と思われるのです。

試作の際に、製造直後だけでなく、1日目、2日目、3日目、賞味期限ギリギリ、または、少し過ぎたところまで味を確認されているでしょうか。

他の同じ生地を使った商品と同じ味の変化の想定をし、賞味期限も設定されていないでしょうか?

まずはご確認をお願いしたいです。

アールグレイティーは、100℃以上の熱が加わることを想定して作られていません。お湯の温度は100℃を超えないからです。


そして、そこをご納得、もしくは、ご存じの方から言われそうなのが、

「ノンフレーバードの紅茶の茶葉や抽出液を入れても、紅茶そのものの香りって立たないじゃん。」

という声です。

「そもそもアールグレイが、フレーバードなのは知っているけれど、みんな紅茶の香りってアールグレイの香りって思ってるよ。それに、紅茶そのもので試してみたけど、香りが出ないから、アールグレイティー入れて作ってみて、これでいいと思ったんだけど。」

という方もあると思います。

分かります、その気持ち。

確かに、茶葉だけを練り込んでいる商品は、かなりの確率で、茶葉の粒々が見えていて、更に「紅茶○○」と書いていないと、紅茶入りって分からない、と思います。

が、紅茶好きとしては、アールグレイの分離した味は、やはり悲しいですし、アールグレイではなく、紅茶そのものの香りを期待しています。

だから、紅茶入りの焼菓子はあきらめろ、または、香りがしなくても、ノンフレーバードを入れておけ、と言いたいのではありません。

以下のポイントをよろしければ、試していただきたいのです。

しかし、少し面倒です。

試作の繰り返しになりますので、そこまで紅茶商品に時間や労力を掛けたくない、ということであれば、しばらく寝かせていただくのも一案かと思います。(かなりのご経験や実績をお持ちの方でも、それなりの試行錯誤をいただいてシフォンケーキを作っていただいた経験があります。)

面倒でもご興味を持っていただける方には、

以下のポイントをご提案させていただきます。

まず、(重ねて偉そうで恐縮ですが)具体的なポイントを試される前に、改めて、紅茶専門店でノンフレーバードのおすすめの紅茶を味わっていただき、紅茶の良さのポイントを確認願います。

よいお茶は、高いです。お店で飲む場合は、1000円を超えることが多いです。最低ラインは、首都圏では750円だと思われますが、場所やお店にもよります。

また、お店のおススメではなく、上のアールグレイについてのお話をご存じの紅茶好きのお知り合いがあれば、そのおススメのお茶を淹れていただいたり、教えていただくのも一案かと思います。

その後で、試していただきたいのは、

◆美味しかったお茶の香りのイメージをして(味よりも香り)、使用茶葉を見直す

仕入の都合もあるかと思いますが、他の素材と混ざった後の想定が難しいので、少量づつ試作できるのが理想です。後味にえぐみがあるものは、パンチを感じやすいですが、除外していただきたいです。苦味/渋味とえぐみは、微妙ですが、別物です。また、もったりとしたビールの後味のような味(紅茶の世界ではMalty(モルティー)と表現)の茶葉は、うまく行かなかったり、臭味が出る可能性が高いです。(産地の傾向もありますが、ここへの記載は控えさせていただきます。)

◆香りが出て欲しい場合=ヒラヒラした表面積のある薄めで香りのある茶葉を選ぶ

◆ぎゅっとした苦味/渋味(収斂味)が出て欲しい場合=細かい粒でギュッとした味の茶葉を選ぶ

◆抽出液を使う場合は、グレーズやジャムにして、表面に塗る/載せる

場合により、果物(酸味のあるもの)と組み合わせることで、「美味しさ」を作って存在感を出してもよいとおもいます。お茶単体の味でなくても、お茶とのハーモニーで生まれる味ならば、お茶好きは全然ハッピーです。

◆出来上がり状態で空気と触れ合うようにする

茶葉が油脂や、油分のある生地の中に取り込まれてしまうと、香り成分が揮発しにくく、また、苦味・渋味も感じにくくなると思われます。生地中に気泡があり、その傍に(油脂のあまりついていない)茶葉があれば、噛んだ時に気泡中の空気と一緒に茶葉の香り成分が鼻に抜け、紅茶の香りを感じられるようになります。これは、上の「表面に塗る」の場合も同じとも言え、空気に触れる部分に紅茶成分や茶葉があるように作ります。生地の表面に(ヒラヒラした)茶葉を散らすのでもよいと思います。パウダーは、量(原価)の割には、存在感を出しにくいと思われます。使う場合は、最後の仕上げ用で、生地に入れる場合は、味という味や香りではなく、(カフェイン等の)パワーを加えるもの、となりそうです。

◆生地を薄くする

空気と触れ合う、と同じなのかもしれません。少し話が飛躍しますが、お茶を「飲む」際の「器」は、磁器であれ、ガラスであれ、飲み口(口に当たる部分)が薄くないと美味しくありません。コーヒーはある程度厚みがある方が美味しい場合が多いのですが、お茶は薄い器が原則です(抹茶除く)。お菓子の生地に練り込む場合も、薄くてパリッと割れるような生地であれば、紅茶の存在感と美味しさを感じやすいようです。

◆倍量入れてみる

空気との触れ合いや、表面に持ってくることで味を感じやすくなれば、量を増やす必要はありませんが、単純に量を増やすことで「らしさ」が出る場合もあります。(カフェイン量にはご注意ください。)

◆バターをショートニング/植物性油にしてみる

油脂に取り込まれる問題と関係して、油の種類を軽いものに変えてみると相性がよい場合があります。

◆レモンを加えてみる

レモン果汁は偉大です。と申し上げると、結局レモンティーで、ベルガモットがレモンのフレーバーに変わっただけじゃないか、と思われるかもしれませんが、一度是非お試しいただきたいです。トップノートではなく、続いてやってくる紅茶の香りや味わいが姿を現す場合があります。また、レモンを加えるのは、紅茶ではなく、紅茶に組み合わせる素材に予め加えておいていただき、その後から紅茶を組み合わせるのが、おススメです。紅茶が素材と反応して味を感じにくくなってしまうのを防ぐのではないか、と考えています。

◆紅茶好きに試食をしてもらう

パンチが足りないな、と思っても、紅茶好きに試食をしてもらうと、案外これで良い、と言ってくれるかもしれません。

また、試食の際に、コーヒーではなく、紅茶や水と一緒に召し上がって頂くと、物足りなくは感じないかもしれません。


以上が、今までの経験と、紅茶好きという立場による、紅茶を感じられる焼き物づくりのポイントです。

紅茶に限らず、他の繊細な香りの素材にも応用いただける内容かもしれません。

もしこれらのヒントがお役に立てた場合には、ご一報やコメント、シェア、サポート、商品開発ご相談などいただけると大変うれしく存じます。

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↑プリンの「す」の中に、紅茶葉入カラメルが溶けたものが入っていっている様子。(焼き菓子ではないので、最後にアップしました。)

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