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心電図④ やはり多い:心房細動


先に断っておきます。今回の記事、長いです。

心房細動も、本当に多い不整脈ですね。Af(えーえふ)とよく呼ばれます。
※AFでもいいのですが、病院によってはAf:心房細動、AF:心房粗動と表現するところがあるので、今回はAfとします。
循環器内科関連でなくても、1年間医療者として働けば少なくとも10人以上は関わるのではないでしょうか。


https://www.tokyo-heart-rhythm.clinic/wp-content/themes/heart-rhythm/images/symptom/part-1/chapter-1/section-2/img1.pngより引用

そんなありふれた不整脈ですが、とても厄介な不整脈です。。

どんな不整脈?

まず第一に、発症頻度が非常に高い。不整脈を指摘されたことのない患者が「胸がどきどきして・・・」と訴えたら、体感8割以上はAf・発作性上室性頻拍・期外収縮のどれか。それくらい多い。

期外収縮は、(場合によるが)あまり危険な不整脈ではないと話しました。じゃあAfも・・・?と思ったら大違い。
対策しないと、下手したら死にます。ADLの大幅な低下につながることも。

もう少し細かくいうと、大まかに分けて二つ合併症があります。

➀心不全
②塞栓症


まず➀について述べます。
心房細動では洞結節ではなく、違う部分から心臓を動かす指令が出てしまいます。具体的には、肺静脈(CO2を排出して肺から多くの酸素をもらい、心臓に帰ってくる血管)の中からその信号が出ます。この信号に洞結節の働きが上書きされてしまう、と思ってください。

この信号の特徴として、
・発生源が肺静脈内に無数にある
・本来の信号ではないので、心房が動かない(極端な表現です)
というものがあります。

発生源が無数にあってそれぞれが信号をめちゃくちゃに出すので、その総数は400-500/分となります。これが全部伝導したら大変。幅はありますが、100-150/分で伝わることが多いです。
じゃあ、これがリズムよく伝わるか?もちろん、そんなことはない。
我先にと信号を送るので、運よく伝わった信号の間隔はばらばらになります。

こんな状態が続くと、心房は常にがたがた細かく震え続けないといけない。心臓が疲弊するのは目に見えますね。心不全の原因の一つに頻脈誘発性心筋症(tachycardia cardio myopathy:「タキミオ」と略されます)という概念があるのですが、ものの数週間で心機能がガタ落ちすることもあります。

さらに、こんなに細かくがたがた震えていたら、心房は本来の動きができません。心房から心室に血液が流れ込むステップは2回あって、

【1】僧帽弁が開くことによって、左房⇒左室内に流入
【2】それだけでは流入せず左房に残った血液を、左房が収縮して送る

心房細動では、このステップ【2】が欠落します。
結果として左房内に残る血液が多くなる
→容量負荷により心房が拡大、心不全によりさらに拡大の悪循環

さらに左室内の血液量が減るので、全身に向かう血液量が減少
→易疲労性

となります。ちなみに、心房の収縮の欠落により3割も循環血漿量が減るとされています。


二峰性の波がありますが、左側の波(E波)が僧帽弁が開放した際に左室に流れ込む血液を、右側の波(A波)が左房の収縮により流入する血液を表します。これが・・・



心房細動だとA波(心房の収縮)が消失し、上記のような一峰性の波になります。
https://norinopage.com/wp-content/uploads/2023/09/index-beat-%E3%81%A7%E3%81%AE%E8%A8%88%E6%B8%AC.pngより引用。

そして②について。これもなかなかに厄介。
心房細動が起きると、上記のように心房の収縮が失われます。
心房の左右には「心耳(しんじ)」と呼ばれる、胎生期から残る袋小路のような部分があります。この心耳では血流の鬱滞が起きやすく、血液の塊、つまり血栓ができることがあります。


造影CTで観察した左心耳。
左心耳を経食道心エコーで観察した様子。黄色で囲まれた部分は、血栓で充満しています。


これが遊離すると、塞栓症を起こすことがあります。代表的なのは脳梗塞ですね。小血管の血流が落ちるラクナ梗塞と異なり、比較的近位の太い血管を閉塞するため、半身麻痺等のえげつない症状が出ることも多々あります。
他にも、足の血管に詰まり急性下肢動脈閉塞を起こしたり、冠動脈につまり心筋梗塞を起こすことも。抗凝固療法(=血液さらさらの薬)を内服するのはこのためですね。

じゃあ、どのような時に遊離するのか?
所説ありますが、洞調律に復帰して心耳の収縮が復帰したタイミングであることが多いです。カルディオバージョン(心臓のリズムに一致させた電気ショック)を血栓がある状態でかけてはいけないのは、このためです。

ここで一つ注意。
電気ショックの衝撃で飛ぶわけではありません!!!
勘違いしている方、本当に多い。もしそうなら、ショック直後に塞栓を起こすはずですね。基本的に心耳の収縮により飛びます。実際、カルディオバージョン後も1か月くらいは塞栓に注意する必要があります。

どうやって診断する?

診断は単純。
P波が欠落しており、R-R間隔が不整であること。
+αで言うと基線がガタガタ揺れていること。

後で出しますが、blocked-PACみたいにR-R間隔不整である不整脈は多くありますが、P波が欠落しているかどうかで鑑別できます。

危険な不整脈?

この不整脈そのもので亡くなることは、普通ありません。
心室細動のように、致死性不整脈ではありません。
ただ、「タキミオ」みたいに急激な血圧低下をきたす例があるのには注意。
また、上記のように慢性経過では色々な合併症を起こします。

遭遇したらどうすればいい?

まず、脈拍数が高くても慌てず一端落ち着きましょう。
不整脈の嫌なところは、いつ発症したか分からないところ。
本人が初発と言っても、無症状で経過していたということは珍しくない。

なので、長期的なフォローで患者本人の背景が判明している状況を除いて、長期的に出ていたものとして対処するのが無難。
下手に洞調律化すると遊離塞栓を発症する可能性があるので、ワソラン(ベラパミル)やメインテート(ビソプロロール)のように、陰性変力作用=徐脈化作用はあるけど洞調律化はしない薬剤で心拍数を落ち着かせるのがいいでしょう。Ca拮抗薬(ワソランの静注、ジルチアゼムの持続点滴)を用いる場合、血圧低下作用も強いので注意。
大体80-110/分程度までコントロールできれば、たいていの状況には対処できます。

もともと深部静脈血栓症(DVT)や心臓手術後で抗凝固療法を内服している場合は、場合によっては洞調律化を狙ってもいいかも。こちらについては、今後記事にします。


いかがでしたでしょうか?心房細動ほど、よく見るけど深い不整脈も珍しいと思います。勿論、もっと述べたいことはあります。
ただ、まずは全体像や医療者全員が暗記しておくべき内容について話します。詳しい話は、また後日に。

通読ありがとうございました。ぜひ、評価をよろしくお願い致します!

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