恐怖の胚珠:小酒井不木について
こんばんは。月に一度の別冊夢想ハウス.にこにこです。
2024年、始まりましたね~!
昨年末は、怪奇小説→科学小説へと舵をきった二人の作家、蘭郁二郎と海野十三の作品を読みました。
今年の朗読はじめは、1/12(金)、小酒井不木のじめっと恐い話「犬神」でスタートです!
👆ここで毎月朗読してる📚ぜひ聴きに来てね🍻
不木先生と乱歩先生
小酒井不木は生理学・血清学を専攻とする医学博士である一方、海外探偵小説の翻訳もしていた。よくこのnoteでも言及している1920年創刊の雑誌『新青年』にも、翻訳した探偵小説を掲載していたそうだ。
1923年、この雑誌に『二銭銅貨』が掲載され江戸川乱歩が鮮烈文壇デビューしますが、この時『新青年』編集長が意見を求めたのが不木先生らしい。こんな文章を寄せている。
最近好きな作家調べてると絶対乱歩先生でてきて面白いな…。
それまでは海外作品の翻訳が中心だった不木先生だが、乱歩先生に勧められて自らも小説を執筆するようになったそうだ(『江戸川氏と私』より)。
えっ、乱歩先生と出会ってなかったら不木作品も無かったかもしれないってこと?!わ~…ありがてえ、ありがてえ…。
※ここからは内容に触れますので、未読の方は先に読んでみてね
なんの前知識もなく読む時にしか得られないエキスがあるッ
犬神と黒猫
『二銭銅貨』はポーの『黄金虫』をよく引き合いに出されるが、不木先生の『犬神』では自らポーの『黒猫』に言及している。
そればかりか出だしから謙遜をしてるのがちょっと面白い。
たしかに構成は似ているのだけど、「黒猫」では主人公の狂気や陰惨な印象が強く残るが、「犬神」では医学的知見の冷静さなのか、おどろおどろしい話のはずなのに医療の症例のように淡々と描かれる感じがたまらない。
また、オチにもある種ユーモアを感じる。黒猫ではそんな余裕はない。えっ…最後まで怖………。となる。
語り手は犬神の家に生まれ、その伝承…「犬神の家のものと普通の家のものが結婚すると災いがある」という言い伝えをひどく恐れている。
両親の死後、この犬神の伝承が煩わしく、自由に暮らしたくて上京したはずなのに、普通の家に生まれたであろう恋人と同棲し始めるとなんだか不幸になっていく気がする……。やはり、犬神の祟りなのだろうか?
物語の胚珠
偶然今まさに読んでいる本、春日武彦著『屋根裏に誰かいるんですよ。都市伝説の精神病理』にこんなことが書いてあった。
この本は、精神科医師である著者が「屋根裏に誰かがいる」をはじめとした妄想の類型を分析しつつ、江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」や吉行淳之介「暗室」などを例に文学的狂気にも言及していく、といった内容。
妄想に根拠を与える要素ひとつひとつは些細なんだけど、それが「物語の胚珠」を刺激し芽生えさせることで、確信を持って語られる妄想となっていくようすが解説される。
今作でも主人公が犬神の祟りを疑い始めるきっかけは、同棲した途端に感じる恋人への幻滅…といった、平凡な要素であるように思う。
そこへ、友人のからかいや、公園で犬に噛まれたこと(これが当時どのくらい起きる事なのかはわからないが…)、彼女のちょっと過剰な愛情表現…そんな要素があつまって「犬神の祟りが起きる」という、主人公の中にあった胚珠を刺激して恐ろしい世界が芽生え始める。
伝承を持つ家に産まれなくても、「もしかしたら…」という不安の種子が何かの拍子に芽生えはじめると、どんどん栄養となるような出来事を自ら集めて不安を育ててしまう、といった経験は誰にでもあるのではないだろうか。(『不安の種』っていう怖い漫画あるよね…)
ちなみにこの作品で私が一番好きなのはオチ。
おどろおどろしい世界を描いておきながら、最後は「金毘羅大神」が「金毘羅犬神」にかわっており、その犬の字の点が血痕であったがゆえに自分の犯行が露見するという…そこなんや着地点?!と、クスッとしてしまう。
映像作品がYouTubeに!
配信中にコメントで教えてもらったのだけど、不木の出身地である愛知県の蟹江町役場YouTubeチャンネルで、不木作品が映像化されていた!
私が大好きな「死体蝋燭」も!
「安死術」「網膜現像」「眠り薬」「躓く探偵」など沢山…チャンネル登録しました♪少しずつ見ていこう♪
あと蟹江町観光の動画(?)で、町中のミステリー(?)を紹介してる動画が地味に面白くて、行ってみたい…となっている。
蟹江町出身の小酒井不木のおかげで、名古屋はミステリー史上重要な拠点だったという興味深い記事も。
次回予告:2/16(金)21:00~小酒井不木「卑怯な毒殺」
次回、もう一回小酒井不木作品いきます!
『卑怯な毒殺』は、怪奇小説ではあるが、怖いよりも興味深い二人の男の会話劇。ぜひ聴きにいらしてね!
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