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「よくわからん」が一番こわい:岡本綺堂について

こんばんは。月に一度の別冊夢想ハウス.にこにこです。
今月は、原点である(?)怪談に立ち返って岡本綺堂「怪談一夜草紙」を読みました。
前回の久生十蘭「春雪」では春の美しさに感動していましたが、今回は5月のある雨の夜に起きた、奇妙な事件の話です。今夜もじめっと元気にいきましょう!

👆ここで毎月朗読してる📚ぜひ聴きに来てね🍻



日本のホームズ「半七」シリーズ

岡本綺堂作品といえば、去年はじめごろ「半七捕物帳」シリーズの「三つの声」という作品を読んだ。
横溝正史によれば、この半七こそが日本最初のシリーズ・キャラクターとしての紙上名探偵であるそうだ。綺堂は日本のホームズ物語としてこのシリーズを書いた。
その横溝正史が編纂した「日本の名探偵」の中で、都筑道夫氏はこう書いている。

江戸川乱歩のいうクラシック・パズラーの三要素―――発端の異常性、中段の調査の興味、結末の意外性を、どの一篇もちゃんと備えて、りっぱにモダーン・デティクティヴ・ストーリイになっている。それを江戸を舞台に、無理なく展開しようとしたことと、作者の好みが、はったりのない渋いものにしているのだ。

都筑道夫「半七と右門のあいだ」

この「乱歩のいうクラシック・パズラーの三要素」が気になったのだけどどうも出典が見つけられず。たしかにこの3要素があるとすごく面白い探偵小説になるよね。
「三つの声」は、横溝正史が特に端正な推理物だと挙げていた作品だけあって、結末に向けてまさにパズルのように組み立てられる推理がとても心地よかった。おすすめ。

震災をきっかけに怪談を多く執筆するように。

綺堂はもともと新歌舞伎の戯曲を書いていたが、1913年以降は作家に専念し、1916年から前述の半七捕物帳シリーズを執筆する。
ところが1923年関東大震災が起き、自宅とともに蒐集していた書籍、文献資料を失ってしまったらしい。そこで、資料を見なくても執筆できる怪談を多く書くようになったそうだ。

こんなアンソロジーが出ているようで、ぜひ読んでみたいっ。『青蛙堂鬼談』もいつか朗読したい作品のひとつ!

今回読んだ「怪談一夜草紙」も、初出は1933年となっている。このお話、まあいつも通り読んでいない人はまず読んでほしい。

一番怖いのは、「分類できないもの」

「怪談」とタイトルについているのと、序盤で「あの家に住むと祟られるのじゃよ…」といったことが囁かれるため、当然そういうものを期待しながら読んでいく。
老婆が語る子供時代の奇妙な出来事。祟られる家。5月、雨のそぼ降る夜。突然のノックと消えた男女。わくわく…。振袖の女の子の目撃なんていう、またベタなシーンがあったりして…。
でも結果はまさかの物理的な犯罪。強盗親子という肩透かしで、なあんだ…と落胆しそうにもなるけれど、あれ?じゃあ意味深にささやかれていた家の祟りや女の子の噂は…?何度も葬儀がでたというのはなんだったんだ…?
なんと、ここをはぐらかされたままこの話は唐突に終わってしまう。
老婆はさっさと話を切り上げて「どうも、ご退屈様で…。」とピシャリ。それ以上を追求できないまま、話の途中で電話が切れてしまったような、おいてけぼりになった余韻がうすら寒い。

最近盛り上がった事故物件ものは最初にいわくがあって何かが起こることが多いけれど、そのいわくがわかっていないけどなんとなく不気味な家だ…というところから始まるこの話は、「なにか因果が明らかになるかな?」という現代人の期待をよそになんの説明もせず暗闇にほっぽりだす。
こういう「何がなんだかわからないけどよくない事が起きている」という話はリアルで怖い。現実は物語のようにきれいな起承転結があるわけではないし、その現象の中で起きた一部分のみを目撃することになるのだ…。


めっちゃ好きな「よくわからない怖い話」2選

怖がりの怪談好きである私はよく怖い話をYouTubeで見たり本やネット上の記事を読んだりして日々探索してまわっているのですが、「結局これなんやったん…?」という話が一番怖かったりする。
最後に、特に私が好きなnote記事を紹介します!禍話リライト。どちらも2022年の記事だけど、今読んでも鮮烈に怖い。最高。ずっと心に残っている。

①いわく自体はよくわからないのだけど、とんでもない不気味な場所についての話。これは恐ろしすぎる。

②DVDにまつわる3つの短編。最後の話が気持ち悪すぎて本当に好き。


次回予告:6/14(金)21:00~岡本かの子「過去世」

岡本姓つながりで選んだわけじゃないよ!
この「過去世」はホタルの時期の話でぴったりなのと、幽玄の中にぼんやりと浮かび上がる物語が美しく、いつか読みたいと思っていた作品のひとつです。ぜひ来月も聴きにきてね!


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