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In our blood, it runs. : DRAWING AND MANUAL Local Action Series: vol.2 Kosuke Nakaya | 地+血+知

第二次安倍内閣発足後の2015年、アベノミクスの一環として掲げられた施策のスローガン「地方創生」。よく耳にするけれど、どういうことかと訊かれると具体的な返答に困る、人もいるのでは。
日本が直面する「人口減少」「過疎化」「少子高齢化」。日本の人口は2060年には1億人を割る8674万人になると言われており(2020年4月統計では1億2596万人、前年より30万人減少)、その影響で地域経済は縮小、2040年までに全国で計896の自治体が消滅すると言われています。反して、東京の人口増加は毎年12万人ほどで、うち7割は18~29歳の若い層。東京は全国でも最低出生率を誇り、この首都圏一極集中が過疎化・少子高齢化をさらに加速させる、という負のループ。これを打開すべく立ち上げられたのが地方創生。

『将来にわたって「活力ある地域社会」の実現』と、『「東京圏への一極集中」の是正』を共に目指す。
(令和元年改訂版 内閣官房・内閣府が発表したまち・ひと・しごと創生長期ビジョンより抜粋)

地域の魅力を最大限に押し上げることで地方経済を活性化させ、人口の流出を防ぎ、移住をも促す。これが政府が掲げる地方創生です。多くの地方自治体が民間企業と協力しさまざまな地方創生プロジェクトに取り組んでいるなか、クリエイティブの力も益々重要視されており、私たちDRAWING AND MANUALもこれまで日本各地で地域のお仕事に取り組んできています。時に、PRコンセプトづくりであったり、映画祭の運営、映像制作であったりと関わり方やプロジェクトの内容は多種多様で、各々の地域によってさまざまです。
DRAWING AND MANUALの地方創生シリーズ第二弾は、頼まれてもないのに勝手に自身の地元 北海道白老郡白老町のPR映像をつくり、Youtubeで公開、広告まで打ち、局地的にバズりを起こし、地元紙 北海道新聞にまで取り上げられたプロデューサー/プランナーの中谷公祐に話を訊いてみました。彼の取り組みから「地方創生のあり方」を探ってみたいと思います。

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プロフィール
中谷公祐 / Kosuke Nakaya
1992年生まれ 北海道白老町出身 東京学芸大学教育学部理科専修 
株式会社エンジンフイルムを経て、2017年DRAWING AND MANUALに参加。「企画から納品まで」の全てを仕切ることを得意とするユーティリティプランナー。JR ecute、サントリー、つくばみらい市市役所、徳島県庁、すごろくや、CSPセントラル警備保障、ラグビーW杯PR、角川ドワンゴ学園N高校、イトーキなどのクライアントを担当。教員免許保持。クラシック・ミュージックに傾倒し、自ら立ち上げた「庶民オーケストラ」で指揮を振る。

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地元愛、以上の何か

何かに取り憑かれた人間は、方向を間違わなければ、最強だ。
中谷公祐は、白老町に取り憑かれている。いい意味で。

北海道南西部、札幌市から約1時間。苫小牧市と登別市の間くらいに位置する白老郡白老町。アイヌ語の「シラウオイ(siraw-o-i)」(アブ・多い・所)に由来し、町の歴史もアイヌたちが築いたと言われ、アイヌ文化の振興が町づくりの施策の一つとなっている(Wikipedia)。
2020年、コロナウイルスの影響を受けつつも7月にウポポイ(民族共生象徴空間)が開業。5月には来訪者受入体制向上・魅力発信などのプロポーザルを白老町役場が発表。ここぞ!と会社登録も済ませ参加するも、受注ならず。

「自分が信念としてもっている『白老の良さ』と、役場がPR方針として押し出したいものにズレがありました。役場の方針を汲み取れていなかった実力のなさももちろんあります。受注できなかったことは残念だったけど、自分が求める白老のPRのゴールじゃない。プロポーザルで訪れた6月はちょうど一年で一番北海道が綺麗な初夏の季節だったので、せっかくだからと後輩にたくさん記録させました。そのフッテージを元に構成したのが『僕と、先輩と、初夏の白老』です」

「受注はゴールじゃない」と言い切った中谷。プロポーザルに負けたことすら糧に、突き進む。その原動力はなんだろう。

生まれてから同町内の高校を卒業するまで、旅行と買い物以外は町内で過ごしたという。2000年代の市町村合併だ、財政破綻だ、隣町と吸収合併だとかを耳にしながら幼少期を過ごし、自然に「地元を守りたい」という想いに繋がった。両親の後を追うべく、自らも教師を目指し東京の国立大学へ進学。そこで白老町という土地がマイナーだという事実と初めて対峙、驚愕する。

みんなが白老を知らないのは単純に発信していないからだと思い、その魅力を広めたいと素直に思ったという。周りが就職活動で忙しくしているのを横目に取り組んだ教育実習では、自分の理想と実際の教育現場とのギャップに、教師として働く自信をなくした。同じ寮の先輩から広告業界を勧められた。どう伝えるかを工夫する、人を面白がらせる、という本質は教育も広告も同じだと思い、紆余曲折の末広告制作会社へ入社。そこでの仕事を通じてDRAWING AND MANUAL プランナー/プロデューサー 唐津宏治に出会い、転職。

「制作業務ばかりに追われていた時に、自分がやりたいことを正に体現している人に出会えた!と思いました。当時 DRAWING AND MANUALでは徳島や金沢、東北など地域との仕事を多数手掛けていたことも転職のきっかけになりました。自分は基本、企画から納品までワンストップで行うのが好きなので数年プロデュースと企画をやってちょうど自信がついてきた時に、ウポポイのことがあり白老での仕事の機会に恵まれました。どこまで行っても自分は白老に貢献したいという気持ちが強いので」

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ファーストステップ

2019年12月にウポポイのプロモーション事業に関するプロポーザルの際には会社登録が間に合わず敢なく断念。そこから、直接白老町役場とアポイントを取り挨拶に行ったり、白老観光協会にメールを送ったり、地域おこし協力隊の人たちと話したりと、地域の人たちとのコミュニケーションに尽力した。同時に改めて白老の魅力を自ら体験しようと、幼少期の記憶を辿りロケーションハントしたり、行った先々で聞き込みをして各所を訪れた。

「自らが生まれ育ち感じていた白老の良さを再確認できたいい機会になりました。自分が求める白老のPRが間違っていなかったと確信したと同時に、白老に住んでいる人たちからは、自然とか、景色とか、馬とか、牛とか、 当たり前のものすぎて観光資源にならない、人が集まるとは思えないと言われました。地元の人の意識を変えることがまずファーストステップだとわかりました」

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課題が出てくると同時にタスクがみえた。「白老町に住んでる人たち」をターゲットに、白老で撮りためた、白老の魅力の詰まった映像や写真を使ったPR動画を制作、Youtube公開し、白老町限定で広告を打った。結果はすぐに出た。動画再生数は5500回を超え、視聴率25% を記録。役場の人や、地域の人々からも多数の反響が届いた。 北海道新聞から取材依頼がきた。紙面を飾った。

「自分は東京に出て気付けたけど、地元に残っている人たちは『白老の良さ』を案外認知できていない。当たり前になってしまっている『白老の良さ』を、まず地元の人にも再確認してもらいたいと思ったんです。結果、地元の人たちや白老出身者、それ以外の映像業界や友人からもポジティブなレスポンスを頂き、自分の信念に間違いがなかったと、確固たる自信にもつながりました。今の白老をたくさんの人に知ってもらうことで、白老に元気になってもらう。それが自分のゴールであり、課題です。その為に自分に今何ができるかを、考え続けることが一番大事だと思っています。諦めるという選択肢は、ないです」

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継続こそ

別の場所での成功例をなぞるような施策やある一定の期間で成果を求める行政に違和感を感じる中谷の考える地方創生は、受注でも予算獲得でもなく、ただ一途にそこに暮らす人たちの為にできることを、諦めずに考え続け、実行し続け、伝え続けること。
達成した時の満足感はもちろん、貢献度も高くやりがいがあるが、正解が一つじゃない分、難しい。

「地方創生は複雑です。 地方創生のゴールは、その地域の数、そして関わる人の数だけあると思います。 ただ、どんな地方創生にも共通のゴールがある。 『地域の人々が、地元に誇りを持てるようになること』 これは揺るがないものだと思っています。地域の人たちの生活にダイレクトに影響するからこそ、責任感を持って挑む。その責任を喜びに変えていけるかどうかが大きいところも、地方創生の仕事の魅力です」

今後も、じっくり腰を据えて向き合いながら、長期的な関係性を築けるような地域の仕事を続けていきたいと言う。そこにある課題をしっかり観察し、ベストな対策を考え抜き、共に実践する。実に、広告も教育も本質は同じ、だ。

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「撮影を担当した後輩が映像制作の過程でどんどん白老が好きになっていくのがわかりました。雄大な自然だったり大きな都市も北海道にはいくつもあるけれど、人と自然が近くに共存する、身近に感じることができるのが白老の魅力です。でも、それ以上に自分を育ててくれた町、血の繋がりのような場所だというのが白老を好きないちばんの理由です」

人を育む土地が、その土地を愛する人を生む。育った人が、その土地を守る。ごく自然なことのように聞こえるが、案外難しいのかもしれない。たくさんの経験を糧にその感覚を自分のものにできたら、彼はどんな問題にも立ち向かえると思う。これからの地方の進む先が楽しみで仕方がない。


番外編
中谷公祐 一推し地方創生プロジェクト 三選!

「いい地方プロジェクトとは、その地域の中に入り込み、抱えている本質的な課題の解決に真摯に向き合っていることが大前提だと考えています。『100万回再生される映像をつくる』というような表面的で安易な目標を掲げるのではなく、その地域に何が必要なのかを明確にし、プロジェクトの先できちんと地域にメリットが還元されるような施策。それを実現するのは簡単なことではなく、その数は決して多くはないのではと感じます。

また、文字にすると当たり前ですが『地域がそもそも持っている価値を高める』ということも重要なことだと思います。都会の価値観に媚び、自虐的なプロモーションをする例もありますが、それでは都会>地方という力関係を増長させてしまい、逆効果のプロモーションになってしまう。都会や東京の価値観に合わせるのではなく、その地域が持っている価値を再定義し、『都会(東京)にはない価値がある』ことを胸を張って伝えているプロジェクトを、私も目標にしています。」


福井県大野市「大野へかえろう」
http://www.return-to-ono.jp/
人口3万4000人ほどの福井県の盆地、大野市。20代で20%、30代で40%の市民が市外へと流出しているという深刻な人口減少をなんとかすべく、Uターンを推進するプロジェクト。
地元の高校生・大学生に地元の商店のポスターをつくってもらい、魅力の再確認を促す「ポスター展」や、楽曲制作と披露講演会の開催をした「大野へかえろう 楽曲プロジェクト」など、地元の人たちが大野の魅力を再発見できる企画を多数打ち出した。

「このプロジェクトの好きなところは、『今できることに、等身大で取り組んでいること』です。背伸びすることなく、思いを届けたいターゲットに丁寧にメッセージを届ける。だからこそ続くプロジェクトになっていると思いますし、私のような部外者でも大野市に行ってみたいな、と思うことができます。感動しますね。」


徳島県「vs東京」
https://www.vs-tokyo.jp/
DRAWING AND MANUAL 唐津宏治が企画・開発した徳島県プロモーションの共通コンセプト。地域の特色のみを押し出した様な似たり寄ったりの地方都市のプロモーション活動が乱立していた当時、敢えて対象を「東京」に設定することで、地方の素晴らしさ、可能性を打ち出したプロモーション施策。

「手前味噌にはなりますが、元々このプロジェクトのコンセプトに感銘を受け、この会社に入ってきた経緯もあるので、一推しとして挙げたいと思います。2014年当時は、『再生回数こそKPI』の名の元に、様々な自治体が躍起になってバズ映像を制作し、地方同士が競い合っている時期でした。そんな中で、『東京をライバルとして設定し、徳島の持つそもそもの魅力の強さを示す』というコンセプト設計は新鮮で、一線を画したものに感じました。実際に近くで見ていても、県庁職員はじめ、県の内側の人たちが積極的に動いており、中の人たちの背中を押す素敵なコンセプトだなと思ってます。」

島根県海士町
https://www.huffingtonpost.jp/2013/11/07/ama_n_4232760.html
島根県・隠岐諸島の「中ノ島」にある2400人が暮らす小さな町、海士町(あまちょう)。人口減少・財政破綻の危機から、行政や民間の様々な取り組みによって回復し、10年間で移住者400人獲得、近年「地方創生のモデル地域」として各所で取り上げられる。

「地方創生業界では、成功事例として沢山取り上げられている地域です。上記の記事だけでなく、検索すればいくつも記事が出てくるのでそちらもぜひ。海士町の取り組みの推しポイントは、『結果を出している』ということです。財政的にも、人口についても、認知度向上についても、大きな結果を生んでおり、これだけ継続して取り組み続けられるのは内側に優れた人たちがいらっしゃるのだろうなと勝手に想像しています。個人的には『島留学』という取り組みが凄く好きです。廃校寸前で、島内最後の高校だった隠岐島前高校に新たな価値を付加し、島外から学生を呼び込むことで生徒数を着実に増やしています。『地域がそもそも持っている価値を高める』ということを見事に達成している例だなと。尊敬です。」

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