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連載小説『モンパイ』(全10話)

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連載小説『モンパイ」 #7(全10話)

連載小説『モンパイ」 #7(全10話)

生徒の集団は、ぞろぞろとやって来るのではなく、周期的に群れをなしてやって来る。

信号機のせいだ。

駅から学校までの生徒の流れは、赤信号によって周期的にせき止められる。

そして信号が青に変わると同時に、まるでダムの水が放水されるが如く、大群となって一気に押し寄せる。

先輩と一緒に配布するときは、校門の両脇に二人で立ち、大群を挟み込みながら配るのだが、一人だとそうはいかない。

配布漏れがどう

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連載小説『モンパイ』 #6(全10話)

連載小説『モンパイ』 #6(全10話)

配布開始後十五分あたりから、生徒の数が徐々に増してくる。

だがピークはまだ先だ。

今くらいの時間帯が一番辛い。

なぜなら、最も貰われにくい時間帯だからだ。

どうやら高校生は、こうした塾のビラを受け取る際に互いの目を気にするらしい。

配布開始後すぐは人通りが少ないので、他の生徒に見られることなく受け取ることができるし、逆にピーク時になると友達同士で面白がって受け取る生徒が増える。

今がち

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連載小説『モンパイ』 #5(全10話)

連載小説『モンパイ』 #5(全10話)

荷物を隅に置き、再びスマホを確認する。

やはり先輩からの連絡はない。

仕方ない。

一人で配り始めてしまおう。

そう決意して、袋から資材を取り出す。

無料体験実施中のチラシと、共通テスト対策のイベント勧誘チラシ、講師の顔写真と熱いメッセージが掲載された薄いパンフレット、そして付箋が、B5サイズの透明なファイルに入っている。

それが百セット。

普段は二人で挑むが、今日は一人。

捌き切れ

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連載小説『モンパイ』 #4(全10話)

連載小説『モンパイ』 #4(全10話)

駅を出て右手の道を行く。

高校までは歩いて十五分。

駅の周辺は交通量が少なく、沿道には木や花が植えられているので、今日みたいに晴れている日に歩くのはとても心地好い。

眠い。

それでいて爽やかな朝。

あのイヤホン少年の姿は見受けられない。

すでに走って行ってしまったのだろうか。

朝練に遅刻しそうだったのだろうか。

だとしたら、もっと時間に余裕を持たないとダメじゃないか。

五分ほど道

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連載小説『モンパイ』 #1(全10話)

連載小説『モンパイ』 #1(全10話)

眠い。

それでいて爽やかな朝。

そんな日が、月に一度やってくる。

門前配布。

略して「モンパイ」。

早朝の儀式を、我々はそう呼ぶ。

まるで、ゲームに出てくるモンスターの名前みたいだと思う。

でも、ある意味そうかもしれない。

午前六時。

普段より二時間以上も早い時刻にアラームが鳴る。

枕元に置いたスマホから流れるEvery Little Thing『出逢った頃のように』を聴きなが

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