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"COMIC"を"漫画"と訳すのは、ピラフを炒飯と呼ぶようなものだって話【アメコミと漫画の違いを解説】

こんにちは! ドラグティガプロジェクトの西村虎次郎です!

今日は僕たちが最も伝えたいトピック「コミックと漫画は全く違う」ということについて、語っていきたいと思います。

これが分かってくれさえすれば、僕たちドラグティガプロジェクトの活動が分かるようになる。という内容になっていますので、ぜひお付き合いいただければ幸いです!

日本人はみんなピラフのことを炒飯だと思っている

僕らコミックファンが直面している現実を、分かりやすいようにたとえ話を作ってみました。

あなたは海鮮とバターの香り漂うエビピラフを、どうしても食べたくなりレストランに入りました。
席に着いたあなたは、迷いなくメニューに書かれた「エビピラフ」を頼み、ホクホク顔でピラフが出来上がるのを待っています。
しばらくすると、ウェイターが注文の品を運んできました。
「エビピラフでございます」
そう言ってウェイターはあなたのテーブルにお皿を置きます。
しかしそこにあったのはエビピラフなどではなく、チャーシューがゴロっと入れられ、ニンニクと焦げた醤油の匂いを立ち昇らせた炒飯が、こんもりと盛られてたのです。
戸惑ったあなたは、ウェイターに質問をしました。
「これは炒飯ですよね?」
すると、彼はにっこりと答えます。
「はい。ピラフでございます」

どうやらこのレストランは、炒飯のことをピラフと呼んでいるようです。

「なんだ? このトンチンカンな店は」
と、そう思ったかもしれません。

無理もありません。だって、洋食のピラフと中華料理の炒飯では、材料、作り方、味、歴史など、何から何まで違うのですから、どう考えても間違えようがないはずです。

しかし、事実この日本では、この不思議なレストランみたいなことが起こっているのです。

漫画とコミックは全く違うもの

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ピラフと炒飯はどちらもお米を使って、フライパンで味付けをしながら炒める食べ物ですが、その成り立ちや作り方も違えば、最も重要な味も当然のように全く違います。

COMICと漫画の違いは、ちょうどピラフと炒飯のようなものです。
どちらもコマ割りをしてキャラクターを描き、吹き出しを使ってセリフを書くので、一見同じように見えます。
しかし、その歴史や制作方法、読者が受け取る印象などは異なります。

もっというと、フランス・ベルギーなどで描かれている「バンドデシネ」という、これも漫画やコミックによく似た表現媒体もあります。
ここではバンドデシネの説明は割愛しますが、当然バンドデシネも漫画とは全く違うものです。

こう言われてもピンと来ないかもしれません。
では、具体的にどんな違いがあるのかを解説していきたいと思います。。

制作方法:一人の天才が作るMANGAと複数の作家が作るCOMIC

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漫画は手塚治虫や鳥山明など、たった一人の天才がストーリ・絵・セリフまで、ほとんどの過程を手掛けています。
もちろんアシスタントの人が居たり、今では原作と作画が分かれていたりする作品もありますが、基本的に単独で作品を仕上げるのが漫画の特徴です。

コミックはというと、漫画とは違い複数人が分業で一つの作品を完成させます。コミックを作るにあたっての、主な職業は以下の通り。

ライター(Writer):ストーリー、セリフを考える人

ペンシラー(Penciler):コマ割りや人物などの下書きを描く人

インカー(Inker):ペンシラーの描いた下書きを元に、線画を描く人

カラリスト(Colorist):インカーが描いたモノクロ原稿に彩色をする人

レタラー(Letterer):効果音や吹き出し、セリフを入れる人

もちろん一人のアーティストが複数の工程を担当することはありますが、ほとんどの場合には分業しながら制作します。

カラリストという色塗り専門の職業があることから分かるように、大抵のアメリカンコミックは全ページフルカラーで作られます。
モノクロのまま販売される漫画とは対照的ですね。

テンポ:スピーディに物語を展開させるMANGAと絵画のように絵を楽しむCOMIC

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作り方の違う漫画とコミックでは、読者が読み進めるテンポやペースも変わってきます。

一人の作家が描き、モノクロで作られる漫画は、背景などの情報量が少ない傾向にあります。必然的に余白が多くなり、キャラクターの絵がメインのコマで物語が進みます。

そんな漫画が優れているのが、キャラクターの感情表現やスピーディなアクションシーンなどです。
1コマあたりの情報量が少ないおかげで、読者はテンポ良く読み進められるのです。

一方、複数人が分業で制作するコミックは、フルカラーな上に背景が細かく描き込まれていて、1枚の絵に込められた情報量がとても多いのです。
とても漫画のようにパラパラと読み飛ばせるような代物ではなく、コミックは絵画や絵本を見るときのようにじっくりと鑑賞するのに向いています。

発行形態:長期連載のMANGAと一巻完結のCOMIC

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アメリカンコミックは、「Comic Book」と呼ばれる30ページ前後の薄い小冊子が月刊で発行されます。

日本では「リーフ」と呼ばれるこの小冊子は、漫画でいう雑誌連載のようなものです。しかし、複数の作品が同じ雑誌に掲載される漫画とは違い、コミックは1タイトル(1話)ごとに独立した形で連載されるのが特徴です。

このリーフを数冊まとめたものが、「TPB(トレード・ペーパー・バック)」と呼ばれる、いわば単行本のようなものです。

漫画は長期にわたって連載されることが多いです。作品によっては数十年も連載が続いて、単行本が100巻以上も刊行されている漫画もあります。
もちろん読み切りの漫画や、打ち切りになってしまう漫画もありますが、ほとんどが長いスパンで連載されることを前提に作られています。

それにひきかえアメリカンコミックはというと、長く話を続けるというよりも、ひとつの話が単行本一冊で完結することが多いです。

一作で完結するそのストーリー構成は、まるで映画の脚本に似ています
アメコミが原作の映画が大ヒットしている背景にも、コミックのストーリーの作り方が関わっているのかもしれません。

著作権:作家が権利を持つMANGAと出版社が権利を持つCOMIC

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長期で連載はしないといいましたが、同じキャラクターの作品が何十年にもわたって新作を出し続けるのも、アメコミの特徴です。
それを可能にしているのが、アメリカンコミック独特の慣行です。

漫画では作品の著作権は漫画家が持っています。
出版社は原稿料や印税を支払うことで、漫画家が描いた作品を雑誌に載せたり単行本を出版しています。出版社は著作権を持っていないので、例えばスピンオフを作ったり映像化したりするには、作家の了解が必要になります。

それにひきかえ、コミックは出版社が著作権を持っています。
このことにより、アメコミの出版社は同じキャラクターの作品を、作家を変えつつ何十年にもわたって作り続けられたり、映画やキャラクターグッズなども自由に作ることができます。

スーパーマンやキャプテンアメリカなど、100年近くも世界中に愛されるヒーローが活躍しているのも、出版社が彼らのライセンスを持っているからなのです。

ジャンル:多彩な分野で展開するMANGAとスーパーヒーローのCOMIC

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恋愛やスポーツ、アクションにギャグ、はたまたサイエンスフィクションからミステリーまで、様々な分野の作品があるのが日本の漫画の特徴です。

雑誌ごとに分野がはっきり分かれていて、この漫画はどういうジャンルなのかがすぐに理解できます。この多様性をもったまま作品が作られるのも漫画の魅力の一つです。

一方、コミックの大きな特徴の一つが、スーパーヒーローものです。

もちろんコミック作品のジャンルも多種多様で、中にはミリタリーやSF、ホラーもラブロマンスも当然あります。
しかし、そんなストーリーもほとんどが、スーパーヒーローが存在する世界の中で繰り広げられます。

歴史:絵巻物から生まれたMANGAとニュースペーパーから生まれたCOMIC

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コミックの歴史は1920~30年代にはじまりました。
新聞紙に掲載された「コミック・ストリップ」という、ストーリーを絵と一緒に伝える読み物から発展したものです。、最初は大衆雑誌に載せられたちょっとした読み物でしたが、次第にコミックの人気が高まり、コミック単独の作品が出版されるようになります。

そして1938年に世界で最初のスーパーヒーロー「スーパーマン」が誕生すると、アメリカで一気にヒーローコミックが隆盛しました。

一方、日本の一番最初の漫画は、12〜13世紀頃に作られた「鳥獣戯画」と言われています。

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漫画という言葉が使われ始めたのは、葛飾北斎の「北斎漫画」が最初です。

時代は進み1950年代、手塚治虫という一人の天才が漫画ブームを巻き起こします。
その当時の漫画は、まだ今のコミックのように、纏まったストーリーを展開していく内容でした。

しかし、1960年代に子供向けの漫画雑誌が作られると、継続的に購読してもらうために、長いストーリーでたくさんの話数で作る漫画が連載されるようになりました。
今漫画と言われて思い浮かぶものの原型は、この時代に生まれたものです。

「コミック」の棚に「漫画」が並べられている国

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今まで見てきたように、漫画とコミックは全く違う表現媒体です。
制作方法や発行形態が違えば、ストーリーで表現できる幅は変わってきますし、読むテンポが違えば読者体験がまるっきり異なります。


しかし、日本ではこの2つを明確に分けて考えている人はほとんど居ません。

もしこの日本で書店に行ったことがある方なら(いない人は少ないと思いますが)、漫画が置かれている棚を見たことがあると思います。

「新刊書」「文庫」「ビジネス」と、様々な棚の分類があるなかで、漫画が置かれている棚には堂々と「コミック」と掲げられています。

「少年コミック」「少女コミック」「青年コミック」「女性コミック」、様々なジャンルでコミックと掲げられたその棚には、皮肉なことにコミック作品は一つもありません。
あるのは日本の漫画だけです。

これは言うなれば、メニューにピラフと書いているのに、実際に出されるのは炒飯という例のトンチンカンなレストランと同じという訳です。

実はこれ、日本だけの現象だったりします。
海外の書店に目を向けると、しっかりとコミックの棚には「Comics」と表記がなされ、日本の漫画が置かれる棚には「Manga」と書かれています。

日本だけが漫画とコミックを同じものだと漠然と思い込み、それが当然のことだとされているのです。

それって何が問題なの?

ここまで解説してきて、もしかしたら皆さんの中には、こう思われた方もいるかもしれません。

「でも、それって何か問題ある?」

確かに、漫画をコミックと呼んでいたとしても、それとは区別してアメコミという呼称を我々日本人は使っています。つまり、自分たちの中でそれら分類する上では、何ら問題ないように思えます。

ですが、これは重大な問題を孕んでいるんです。

今回は長くなってしまったので、ここでいったん終わりにします。
次回は、漫画とコミックを混同していることによって、どんな問題が発生しているのかを解説したいと思います。

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