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『存在と時間』を読む 全88本

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2022年2月の記事一覧

『存在と時間』を読む Part.48

 第1章 現存在に可能な全体存在と〈死に臨む存在〉

  第46節 現存在にふさわしい全体存在を存在論的に把握し、規定することが不可能にみえること

 これまでの分析の重要な欠陥を克服するために、ハイデガーは死の問題の考察に取り掛かります。死は、現存在の「終わり」であるという意味で、現存在の生に終止符をうつ瞬間であり、その時点で現存在の生の全体が終えたものとなります。
 現存在の全体性を把握するた

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『存在と時間』を読む Part.49

  第48節 〈残りのもの〉、終わり、全体性

 ハイデガーはこのように、死という現象を存在論的に考察するために、動物に欠如していて、人間だけに訪れるきわめて実存的な出来事である死についての概念を検討しながら、現存在の〈終わること〉がどのようにして、実存する存在者の全体存在を構成することができるのかを示そうとします。そのためにハイデガーがまず提示したのが、次の3つのテーゼです。

1. Zum D

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『存在と時間』を読む Part.50

  第49節 死の実存論的な分析と、死の現象について可能なその他の解釈の領域の確定

 これまで現存在について獲得されてきた根本機構である気遣いの現象を導きの糸として、死についての実存論的な分析が行われることになります。その際、わたしたちが獲得すべき死の概念についての分析が、好ましくない脇道にそれないようにするためには、死についての存在論的な解釈に、一義的な方向づけを行う必要があるでしょう。それを

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『存在と時間』を読む Part.51

  第50節 死の実存論的かつ存在論的な構造のあらかじめの素描

 世界内存在としての現存在の根本的な存在様態は「気遣い」でした。死についてもこの気遣いという存在様態から考察する必要があります。すでに気遣いの存在構造については、次のように定義されていました。

Sich-vorweg-schon-sein-in (der Welt) als Sein-bei (innerweltlich) beg

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『存在と時間』を読む Part.52

  第51節 〈死に臨む存在〉と現存在の日常性

 日常的で平均的な〈死に臨む存在〉がどのようなものであるかを明らかにするためには、これまで確認された日常性のさまざまな構造にその方向性を探ることになります。現存在は日常性においては頽落存在であり、その自己は世人でした。ここで問う必要があるのは、世人はどのようにして〈死に臨む存在〉を開示しているかということです。
 死の実存論的な考察によって、現存在

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『存在と時間』を読む Part.53

  第52節 日常的な〈終わりに臨む存在〉と、死の完全な実存論的な概念

 これまでの死の実存論的な概念の考察では、世人のうちに頽落した現存在が死に臨む姿勢について、〈もっとも固有で、関係を喪失し、追い越すことのできない存在可能性〉に臨む存在だと規定してきました。しかしこの規定は、現存在にとっては形式的なものであり、空虚なものにみえるのではないでしょうか。というのは、これらの規定は現存在がみずから

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『存在と時間』を読む Part.54

  第53節 本来的な〈死に臨む存在〉の実存論的な投企

 この節は第1部第2篇のこれまでの節に比べて長く、内容も難解な節になっていると思います。原文の引用をこれまでよりも多くして、細かくみていくことで、ハイデガーの考察の道筋を捉え損ねないようにしていきたいと思います。

 これまでの分析から明らかになったのは、現存在は日常的な生においては、死に直面することを回避し、頽落して存在しているということ

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『存在と時間』を読む Part.55

 前回の続きとなります。

 第4の特徴は、先駆において現存在は、みずからの死を確実なものとすることです。

Die eigenste, unbezügliche und unüberholbare Möglichkeit ist gewiß. Die Weise, ihrer gewiß zu sein, bestimmt sich aus der ihr entsprechenden Wahr

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