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『存在と時間』を読む 全88本

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2021年6月の記事一覧

『存在と時間』を読む Part.1

 ご存じ、ハイデガーの『存在と時間』は20世紀最大の哲学書と言われるだけあって、これまで日本でも多くの訳本が出版されており、比較的簡単に手に取ることができる書物です。一般的に難解だというイメージがありますが、訳本も解説書もわかりやすいものがでていますし、読むことのハードルも下がっているように思います。

 しかし、原文を読んでみる機会はなかなかないのではないでしょうか。ドイツ語だし、文章量も多く、

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『存在と時間』を読む Part.2

 今回の投稿では、序論の第1章の第3節と第4節をみていきます。

  第3節 存在問題の存在論的な優位

 第2節では、存在への問いの形式的な構造に基づいて、存在の問いが特別な性格のものであることが示されました。しかしこの特別さが完全に明らかにされるためには、この問いの機能と意図、動機について、明確に定める必要があるでしょう。第3節の目的はそこにあります。

 まずは問いの動機について説明されます

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『存在と時間』を読む Part.3

 今回の投稿では、序論の第2章の第5節をみていきます。

  第5節 現存在の存在論的な分析論 ー 存在一般の意味を解釈するための地平を開拓する作業

 前の節では、現存在こそが存在問題において「問い掛けられるもの」であるべきだということが示されました。第5節では、この現存在に接近するための方法について考察されることになります。

 現存在に接近するといっても、そもそも現存在は私たち自身であるから

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『存在と時間』を読む Part.4

 今回の投稿では、序論の第2章第6節をみていきます。

  第6節 存在論の歴史の解体という課題

 この節の冒頭で、すべての学問は現存在の存在者的な可能性の1つとして営まれることが確認されます。すでに指摘されたように、学問は、存在者をこれこれの存在者として徹底的に探究することを目的とするからです。これに対して哲学は、存在論として、他のあらゆる学問に先行する、存在に問いを投げかける研究であったので

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『存在と時間』を読む Part.5

  
  第7節 探究の現象学的な方法

 存在への問いは、存在について問い、存在の意味を問い質すものでした。ハイデガーは、本書で使用されている存在論という語は、「領域的な存在論」のことではないことを指摘しています。というのも、以前のnote(Part.2)で説明されたように、この論考は「存在一般の意味を説明する存在論」を重要視するものであるからです。本書の試みは、存在の意味への問いを主導的な問い

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