自分の良からぬ衝動にお困りなら守秘義務のある機関になる早でご相談を。自分を守るポイントをシンプルに解説

精神科で勤務をしていると稀に「痴漢をやめられない」「万引きがやめられない」「盗撮をしたい衝動が抑えられなくなりそう」と言って受診する人がいる。これらは犯罪であり、本人も社会的制裁を受けることになることをわかっているから切迫している。自傷行為の範囲に収まるものではなく他人を害する行為であるから「少しずつやめていきましょう」というわけにもいかない。「少しだけ」を社会的に正当化することはできない。すぐにやめた方がいいのは本人が一番よくわかっている。特に自分から受診する人はそうだ。

まず私は受診しに来たことを「歓迎」する。いろいろな葛藤のもと、調べたり考えたり、そして自分を責めたりしてきたことだろう。そのうえで受診しにきた。理性もしくは自分の意志と、衝動が分離しているからこそ自身を反省的に捉え、受診に至っている。衝動は何らかの引き金で湧いてきてしまうものだ。そしてそれに基づいて行動にまで至ってしまうということに関しては確かに本人に責任がある。
しかし本人の「本当の」意志や理性は「やめたい」というところにある。自身の奥深くにある真の理性の声に基づいて受診という行動をとった。この点をまずは受け止め、賞賛し、歓迎している。

心理的メカニズムの難しい話はさておき、依存的な行動には

恥や罪悪感

が大きく関与していることが多い。これらの感情が強いと

人に頼ったり相談したりしにくい

ということになる。孤独感や疎外感がますます強まり、さらに恥や罪悪感を内に秘めるようになる。この状態は非常に苦しい。そこで大事になるのは

何でも正直に話せる人を一人でも

作ることだ。もちろんそれは簡単なことではない。そこでまずは守秘義務がある相談機関に頼ることだ。医療機関も当然その一つだ。
まず少なくともその衝動を責められることはないし、情報を漏らされることもない。これで恥や罪悪感から自分一人で背負う必要性は減るだろう。そして人に頼っても大丈夫なんだという感覚をもてるようになることで第一歩を踏み出せる。

病院に行ったからといって一発で治せるわけではない。しかし

恥や罪悪感という感情、人に頼れないこと、正直に吐き出せないこと

これら3つが絡まりあった状態に手を入れるということがまずは大事なのだ。その際、自分一人では絶対に限界がある。
他にも「酒を飲むと問題を起こしてしまう」「イライラが抑えられず怒りを他人にぶつけてしまう」さらには「動物や人を傷つけたい」といった衝動もあるかもしれない。これらも自分の真の理性と衝動が分離しているわけだ。病気かどうかはさておきまずは相談をしに来てほしい。場合によっては薬だけでそのような攻撃性が大方治まることもあるのを知っておいてほしい。せっかく真っ当な理性があるのに、社会的なスティグマを背負うことになるのは非常に残念なことだ。
先日拘置所に行ったときのこと、「犯罪についてお困りのことは何でもご相談を」というポスターが貼ってあった。それは犯罪被害者に向けてのものではなく、犯罪をやめられない人に向かっての啓発ポスターだった。「ここに来てから啓発されてもなあ」と悲しい気持ちになった。

文中で、「まずは」という言葉を何回も使ったが、逮捕されたりしたならまだしも通常の社会生活を送りながら相談機関に出向くということ自体が相当ハードルが高いだろう。そのうちに大変な事態を引き起こしてしまうかもしれない。依存行動をする人には抑うつ症状を併発していることも多く、惰性で日常を送ってしまい、受診など次の行動に出られないでいるうちに衝動的に問題行動に至ってしまう人もいるだろう。だから安心して第一歩を踏み出してほしいという点を強調したくて「まずは」を連発した。
医者やカウンセラー、相談機関が期待外れだったり相性が合わないこともあるかもしれないが、それでも踏み出すことに大きな意味があることを信じてほしい。

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